最後まで、君の名前だけは忘れられなかった。

父が、一門を裏切った。
西についた。
一門の秘術を、西に売った。
それは、4年前のことだったと思う。
あんまりちゃんと覚えてない。
ただ、その時、父は破門され呪いをかけられた。
母も父と同じ目にあった。
だけど、俺だけは此処に残らされた。
それは姫が決めた一門のキマリだった。
気がつけば、すべてが決められていて、俺は北へ行かされた。
実は、父と母が破門されたのを知ったのは騒動から3カ月たってからだった。
突然帰る場所がなくなった。
居る場所はあった。
人質としての。北山での軟禁だった。
俺は、姫に忠誠を誓う、誓約をした。
一門の人たちは、俺のことを見下した。裏切り者の息子として。
でも、俺の普段の態度や、行動で、それまで培ってきた人望と呼べるものがあった。
友人はたくさんいたし、理解してくれて、同情してくれる人もたくさんいた。
此処で、生きていくことも、きっとできた。

俺は、孤独感に苛まれながら、それでもなんとか自分を保っていた。
此処を受け入れるように、生きていた。

ある日、北山で籠りをしていた。
その時だった。
一匹の式神が、俺のもとに来た。
ありとあらゆる無茶をしたんだろう。
ぼろぼろの、式神だった。

「・・・・・父さん・・・・・・・?」
震えた。
それは、まぎれもなく、父の式神だった。
「・・・父さん・・・?」
「・・・ひ・・・さ・・・」
ぼろぼろのその式神は、苦しそうな声で名前を呼んだ。
そして、この、報復の計画を聞かされた。
使命を与えられた。
ばかばかしいとも思った。
此処を好きだとも思った。
裏切るのが嫌だとも、思ったんだ。
だけど。
胸の奥の奥にあった、憎しみの塊みたいなものも、確かにあった。
親と子を切り離すのに、何の躊躇もしない此処を憎んでた。
父の死にそうな声を聞いた時に、迷いが消えていった。
俺は、一人の少女を封じる命を受けた。
それは、名を知る女の子だった。

噂の、女の子。

紫 音華。
若草様の娘。
最近山に帰って来た少女。
霊血を引き継ぎながらも、一度霊孔をふさがれ、地上に降ろされた少女。
だが、帰ってきたことにより、徐々に霊孔が開き、再び霊力を取り戻した少女。
その力は、絶対的に本物で、恐ろしいスピードで陰陽師として成長している。
外にも内にも、目をつけられているほどだ。
噂はこんなところだった。

もうひとつ、付け加えるなら。
あの芳河も、峰寿も、エリカも、彼女を大事にしてるってことだった。


芳河が紫苑の家に帰った。
そして、時を見計らい、御山にやってきた。

「ひーちゃんっ!」
エリカが駆け寄ってきた。
久しぶりだった。何年もあってなかった。
でもエリカは、まったく変わっていなかった。
相変わらず、ひーちゃん、と俺を呼び、輝く笑顔で俺に触れた。
「緋紗。」
音華ちゃんは、話で聞いていたよりも、ずっといい子だった。
愛おしいほどまっすぐで、優しい女の子だった。
あふれだす霊力は嘘のように澄んでいて、強かった。
その力は、本物だった。

山に初めに術をまいたのは俺だった。
術を微かに微かに流し、空気に溶け込ますのは、俺の隠していた秘術だった。
姫様だけが、それに気づいた。
音華ちゃんと一緒に行動するようになった。
嘘みたいに計画がうまくいく。
少しずつ、少しずつ、音華ちゃん自身が気づかないくらい少しずつ、俺は音華ちゃんに術をかけた。
そして峰寿もエリカもいない夜。彼女が風呂に入ると聞き、術を発動させた。
音華ちゃんは倒れた。
まったく、音華ちゃんは、一度味方だと判断した人間を微塵も疑わない。
まっすぐなだけに、まっすぐに術にかかってくれる。
霊孔は胸の三か所に存在する。
一つがみぞおちに、ひとつがその穴から指4本下に、もう一つが心臓だった。
音華ちゃんには申し訳ないけれど、脱衣所で倒れてくれたおかげで、霊孔を見つけ、術をかけるのは簡単だった。
印をつけた。あとはその印がきちんと定着するのを待って、術をかけて穴をしっかりふさぐだけだ。

その翌々日のことだ。
「・・・ちゃん・・、ひーちゃん?」
「え?」
顔をあげたらそこにエリカがいた。
「もー。ずっと呼んでたのに。」
「あぁ・・ごめんっ!ちょっとぼうっとしてた。」
「大丈夫?疲れてるの?」
疲れていた。印をつけるのにも相当な集中力が必要だった。
「ううん。ちょっと昨日星読みをして・・・遅くまで起きてたから。疲れてないけど眠いんだ。」
嘘だった。
秘術を夜中に使っていた。計画は一段階進んだ。だから次の一手を打つ必要があった。
秘密裏に。
「そうなんだ。・・・なんか、気になることでもあった?」
「うん。音華ちゃんが、倒れたから。」
「え!」
エリカは驚いた。初耳のようだった。さっき帰って来たばかりだから当然か。
「いつ!?」
「おとついだよ。エリカも峰寿もいなかった日。」
「・・・・・だ・・・大丈夫なの!?」
「うん。心配ないよ。ただ、不審な点がたくさんあったから。これ、例のあの件なんじゃないかなって。」
「・・・山の気配・・・?」
頷く。
少しだけ、胸が苦しくなった。エリカは真剣な目で心配していた。
彼女の眼を見て、嘘がつけなかった。
「でも、その気配って姫様にしか感じ取れないくらいのものなんでしょう?」
「うん。でも、それは二つの意味がある。一つは、それが本当になんでもない弱々しいものであるということ。もう一つは。」
「・・・・・・・・・それが、姫様にしか解からないほどの力を持って、身を隠しているものだから・・・。」
「そう。・・・音華ちゃんはなんにも感じてなかったらしい。倒れたことも気づいていなかった。俺は、後者だと思ってる。」
「・・・つまり、そのくらいの力を持っている何かが、この山の中にいるってこと・・・・?」
頷く。そして、言う。よそよそしく。
「西の・・・連中かもしれない。」
自分が、どろどろと、黒く塗りつぶされていく。嘘をつくたびに。
「・・・西・・・。西宰・・・・。」
エリカは眉間にしわを寄せた。
「エリカ。エリカも十分注意して。俺は今音華ちゃんと組んで仕事をしているから、彼女のことは俺が見るし。」
「うん・・・。そっか・・・こりゃ結構深刻だね。」
「あはは。大丈夫。」
笑ってみせた。
「大丈夫だよ。エリカ。」
「・・・・・・・・・・・・・うん。」
エリカは微笑んで、頷いた。
美しいその桃色の髪の毛を、そっと、撫でた。
愛おしかった。
汚れた、偽りだけの手で、触れてしまった自分を責めた。


「・・・緋紗って・・・あったかいな・・・。」
音華ちゃんが呟いた。
「そうかなぁ?」
驚いた。
彼女に術をかけて、門の外に連れ出し、門外の空気に触れさせた。その夜のことだった。
立てない彼女を抱えあげたとき、音華ちゃんは俺が温かいと言った。
「うん。手は・・・この間・・・すごく冷たかったけど・・・。」
手。
そう。
術を使うと、エネルギーを奪われる。
此処最近手の温度はとても低い。
「・・・・・・・・・・・・冷え性なんだ。」
言い訳をした。
「初夏だぞ?」
「うん。」
「・・・・・変わって・・・る・・・な。」
うつろうつろ、彼女は眼を閉じた。
音華ちゃんを抱えて彼女の部屋に着くと彼女を布団の上におろした。起こさないように。慎重に。
「・・・オン・・・」
ぽ・・・・。
青い光が灯った。
「カカカスニンカツカ・・・ショウケヘショウケサケサスス・・・・・」
ふわっと光が広がった。そして音華の体を包む。
つけた印へ術を、掛けなおした。
屋敷の中の空気は浄化作用が大きすぎる。
この屋敷の外の空気を入れた直後の肺でなければイマイチ術が長続きしなかったのだ。
「・・・よしっと。」
立ち上がり、蒲団を音華ちゃんにかける。
「おやすみ。音華ちゃん。今日も、いい夢を。」
そう言って、部屋を出た。
廊下を歩いていると、ある影に気がついた。
「・・・・・・・あれ?峰寿?」
「・・・・お、おう。」
峰寿が向こう側から歩いてくる。
「どうしたの?夜更けに。」
「や・・・門の所に札でも張っとこうかなって。」
「あぁ。音華ちゃんのためだね。」
「はは。・・・お前は?」
峰寿は少しだけ笑って問う。
「ん?ううん。大したことない。大丈夫。」
ごまかす。何も言わないに越したことない。今、変に疑われると厄介だ。
「そか。」
「うん。じゃ、おやすみ。峰寿。煙草は寝る前には吸わない方がいいよ。」
「・・・おう。サンキューな。おやすみ。」
そう言って去った。だけど見えた。
峰寿の目の奥に、怪訝なまなざしの光があった。
それは決して、嫉妬から来るものではなかった。
疑いだ。俺自身に対する。


翌朝。
「音華ちゃん。」
音華ちゃんが朝食をとっているところへ向かった。
峰寿に疑われたかもしれないなら、ことは急ぐべきだ。
「ねぇ、今日、下の原までおりて、調べない?」
「・・・おう。分かった。ちょっと待ってくれ、すぐ食べ終わる。」
「急がなくていいよ。」
そう行って立ち去った。準備がある。
術を、ひそかに空気に溶け込ませた術を少しいじらなければならない。
足早に部屋に向かう途中のことだった。
「緋紗。」
呼ばれた。振り返る。
「峰寿。」
にこっと笑う。
おっと。やっぱり来たか。
峰寿は決して芳河のように寡黙なタイプではない。人懐っこさも持つ。
疑問があれば、それを晴らすために必ず声を出す。
「なぁお前、昨日、術使ってたろ。」
「・・・あぁ。うん。」
あいまいに返す。
「なんの術だ?」
「結界だよ。」
嘘だ。また一つ俺は黒くなる。
「結界?」
「音華ちゃんの。」
「・・・俺、音華ちゃんに教えて、すでにかかってたはずだけど。」
確かに。かかっていた。それも相当強い。
「とれてた。だから俺がかけておいたよ。」
「・・・・・・・・ふーん。」
納得がいかなかったようだ。俺は、ははっと笑ってみせた。
「何?」
問う。
「いや。なんでもね。」
峰寿はあまり感情を表に出さない表情でそれだけ言った。
ああ、あれはなんでもなくない顔だ。わかりやすいな。
「・・・・・・・・・・・・・・なんでもない・・・か。」
なんだかとてもおかしくて、くすっと笑った。
・・・此処は、変わりつつあるのかもしれない。
これから峰寿やエリカ、そして芳河が此処の中心人物としてこの一門を動かしていくだろう。
変わるかもしれない。希望がある。彼らのような、いとおしい人間たちには。
でも。
俺は。
俺は、そこには、いれないんだ。


「・・・・・・・・・・なぁ、緋紗。」
「何?」
空を見上げながら音華ちゃんが呟いた。
「・・・風が変だ。」
「風が?」
「なんか・・・変だ。」
「・・・何か、いる?」
「・・・いや、そういうんじゃない。」
音華ちゃんは、思っていたよりずっと優秀らしい。さすが、と言うべきだろうか。
「何・・・?」
「・・・違う色の、陰陽術が。漂ってる。」
「・・・術が、漂う?」
「・・・なんか変だ。これ、だって、上から流れてくる。」
黄色く、わざと染めた術の弦がするすると屋敷から流れてきている。
本当は俺が気づいたふりをして、音華ちゃんに気付かせるつもりだった。
「緋紗・・・これって、もしかして、また式神とかが・・・」
「・・・いや。これはたぶん違う。・・・術が・・・、空気に溶けている・・・。」
彼女は顔をしかめた。どういうことか分からないらしい。陰陽師としての経験は浅いから、当たり前だ。
「音華ちゃん。口寄せ体質だったよね。」
「え、うん。」
「・・・俺のこと信じて、協力してくれる?」
「・・・・・・・・・・・・・・・え?」
口寄せ体質を利用してこの術を一点に集め封印する、という嘘の計画を音華ちゃんに伝えた。
そうすれば、この術を調べて山の中にいる何かの原因を探ることができるかもしれないと言うと、彼女は快く承諾した。
本当に、一点の迷いもなく俺を信じてる。
バサバサバサバサ・・・・・・・・・!
俺は術を一つ集め、「術の塊」を作った。音華ちゃんを利用して。
術の起爆剤となるそれは黄色く染まった半紙の塊となり、ポトっと畳に落っこちた。
「・・・・・・・ッ・・・お、終わったか・・・・?」
「うん。うまく吸いとれたみたい。これが何だったのかはまだ分からないけど。」
「・・・・・・・・・・・・そ・・・か」
「音華ちゃん!」
ドサ・・・。っと手の中に音華ちゃんは倒れ込んだ。
当たり前だ。音華ちゃんの霊力を術に吸わせてこの塊を作ったんだから。
この術は昔エリカと一緒に考えた技だった。
子どものころ、どうしても自分の霊力がうまくコントロールできなかった。
その暴走を止めるために、しばしば霊力をとどめながら術を使わざるを得なかった。
術発動時に霊力をうまく体から発せられないなら、先に体から取り出して何かを媒体にして留めておこう、と作ったのが「術の塊」と言われる霊力の人工的な源だ。
半紙に術を書いてそれを媒体に霊力を込めて作る。
そうすると、簡易詠唱で大がかりな術も簡単に発動させることができる。
ただし、それに霊力を込める際、その霊力提供者の霊力を歯止めなく吸い取ってしまう。
それこそ、倒れてしまうほど。
「・・・・・・・・・ごめんね・・・。ありがとう。」
青ざめた音華ちゃんを抱き上げて、呟いた。
心が痛んだ。心が、黒く染まってく。
だけど、ここで引き返すわけにはいかない。俺は、此処にはいられないんだ。
自分の体もそうとうふらふらだと分かっていた。
この術を発動する際、相当力を必要とする。
だからこそ、エリカと作ったこの術は誰にも言わなかった。
大人にばれると、あれこれうるさく叱られる。
俺はそんな柔らかな追想をかき消して音華ちゃんに触れた。
そして術を唱える。完全に、霊孔を塞いでしまうにはもう少し時間がいる。
でももう、今ここまで仕込んでおけば、姫様が山を離れるあの日には術を実行し、塞ぐことができるだろう。
スパン!
「!」
突然戸が開いて、入ってきたのは峰寿だった。
「峰寿。」
「・・・緋紗。」
峰寿は俺を見下ろした。
「・・・今の、なんの術だ。」
「結界だよ。」
「・・・・・・・嘘つくなよ、緋紗。」
峰寿は睨んでいた。。
「・・・何、してんだ?」
「音華ちゃん、ちょっと倒れちゃって。」
「・・・・また?」
「うん。」
俺の手元にある、黄色い半紙の塊を峰寿はとらえた。
「・・・それ。半紙。」
「・・・あぁ、うん。ちょっと、音華ちゃんに手伝ってもらって。でもおかげで・・・―――。」
「口寄せに・・・使ったのか。」
ご明察。峰寿も経験があるのかもしれない。口寄せに使われた。
「頼んだんだ。」
「・・・それで。」
音華に目をやる。
「おま・・・ッ」
峰寿は俺を押しのけて音華ちゃんの傍に屈みこんだ。
音華ちゃんが結構ボロボロになっているのを見て、かっとなっていた。
「大丈夫。寝てるだけだよ。心配することない。結界も張ったし。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
峰寿は黙ったまま、音華ちゃんを抱き上げた。
「・・・・安静にさせておいた方がいいよ。」
「・・・・俺の部屋で安静にさせる。」
低い声。いつもの峰寿の声じゃない。
「いいの?音華ちゃん、芳河の御姫様なんでしょ?」
「関係ねぇだろ。」
抱きかかえたまま、俺のそばを通り過ぎる。
「音華ちゃん。すごい口寄せ体質だね。峰寿以上なんじゃないかな。」
「昔の俺のほうがひどい。」
「あ、そっか。音華ちゃんって、霊孔、一度塞がれてたんだもんね。」
峰寿は戸のところまで来て、ぴたっと足を止めた。
「あぁ。それで?」
背を向けたまま峰寿は振り向いた。
口元は笑っていた。だけど確実に俺を睨んでいた。
「・・・・おやすみ。」
峰寿は何も言わず、その場を去った。
「・・・大事にされてるなぁ・・・。」
微笑ましかった。
そんなことを、淡々と感じてる俺は、ずいぶん冷たい人間になったみたいだ。
心が黒くなってくんだ。
冷たくなってくんだ。
手が冷えていくように。
俺は、失っていくんだ。
こころ。
その恐怖で、少しだけ震えた。

エリカ。

ふらりと、自分の部屋に戻って布団の上に倒れた時、ふと頭をよぎった。
眠い。
術をずっと、ずっと、連続して使い続けてる。
眠りにつかなければ。
明日、もっと大きな術を発動しなければならない。
姫様がいない。
芳河もいない。
明日しかない。
「ひーちゃん」
エリカの声が聞こえた気がした。
涙が出た。
それは、夢だったのか、わからない。


「西、の仕業でしょうね。」
翌日、婆やにそう言った。
そして差し出した。黄色い塊。
「・・・これは。」
「術を絡めとったものです。何かを媒体にしてこの屋敷に流れ込んでいました。」
「・・・なるほど。それで、その媒体の正体は分かったんか?」
「・・・いえ。それがまだです。しかしその正体がわかれば、山の気配の正体も分かるはずです。」
「・・・ふむ。そうか。」
婆やはじっとその塊を見て言った。そして、それを後ろにある封印の棚に入れた。
それをしっかり見届けた。
「そういえば。」
「ん?」
「今日から姫様は北へ行くとか。」
「あぁ、そや。もう昼には発つはずや。」
「そうですか。」
「あぁ。じゃ、引き続き頼むで緋紗。」
「はい。」
下がろうとした。
「あ、せや、緋紗。」
「はい?」
「北の霊山には辰巳もおったやろ。」
「はい。」
「仲ようしてたんか?どや、辰巳は。」
「・・・さぁ。実はあまり話してないんです。」
辰巳・・・懐かしいな。あいつも変わったやつだった。
周りが俺を避けようとも、あいつだけはちょくちょく声をかけてきた。
「そうなんか?北で修行してるのはお前たちとあと・・・」
「俺、ずっと一人で籠っていたりしたんで、あんまり関われてないんですよ。恥ずかしい話。」
本当の話だった。俺はみんなを避けるように、一人籠った。
「そうなんか。・・・まぁ、考えることも多かったやろ。」
「そうですね・・・。でも、精進はできました。」
「五月秀俊とは・・・。父親とは連絡、取れとるか。」
「・・・いいえ。」
ざわっとした。憎しみが流動したのだ。
「そうか・・・。緋紗。すまんかったな。」
「・・・いいえ。いいんです。俺は、此処が。・・・此処が俺の居場所なんです。」
「そうか・・・。」
微笑んで見せた。苦しくて、苦しくて。うまく笑えてた自信は、ない。

婆や。
彼女も、少し変わったみたいだった。いや。変わっていないか。
いつも、俺達子どもに対して優しい眼をしていた気がする。
しかし、彼女はあくまで姫の侍女だ。姫の意志には絶対に逆らわない。
たとえ、非道な命令でも。


On***西編 7緋紗視点 終わり


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