小さな袴を見つけた。

「・・・・・・・・・なんだこれ。」
音華は蝉が泣きじゃくる朝、小さな袴を見つけた。しかも自分の部屋の押入れの奥其処に。
紺の、上等そうな生地の袴だ。
「子供用か?」
引っ張り出して見つめる。
「音華。いつまで寝てる。身を清めに行くぞ。」
戸の向こうで芳河が呼んだ。
「っさいな!今行くよ!」
怒鳴って戸を開ける。
「早く来い。」
「へいへい・・・!」
「・・・お前、その袴。」
芳河が畳に投げ出された小さな袴を見つけた。
「・・・ん?あぁ、なんか押入れの奥のほうにあった。」
「・・・・・・・・・そうか。」
「?なんだよ。なんか問題あんのか?」
「いや。」
水は冷たかった。

「あの袴。」
音華が食事の途中で切り出した。
「なんであんなとこに入ってたんだ?」
「・・・・・・・・・・さあな。」
芳河は相変わらず、無愛想で、むかつきます。
「なんか知ってんだろ。」
今日は食いついてみた。
「お前いつも黙ってるけど、本当はなんもかも知ってんだろ。」
睨んでみた。
「そういうの、ムカツクんですけど。」
芳河はため息をついた。
「あれは俺のだ。」
「はぁ!?」
びっくりしてたくあんが落ちた。
「なんであんなところにあるんだよ!不愉快なんですけど!」
「知らん。大方若草様が入れていたんだろう。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」黙る。
「お前いつから此処に住んでるんだ?」
「此処は・・・7つだったかな。」
「・・・エリカと同じくらいか?」
「そうだな。」
「ずっと?」
「ずっと・・・ではないが。」
「・・・そうだよな。親、外にいるんだもんな。」
芳河がちらりと音華を見た。前のような曇った表情はしていない。
「エリカもずっと此処に居たわけじゃない。」
「え?」
「いろんな処に回されてたからな。」
沈黙した。
「修行のためとか・・・・か?」
「あぁ。」
味噌汁に映る自分を見た。
「俺達一門には大きな神宮が3つある。此処と、それから東に1つと、北にひとつ。」
「そこに行くのか。」
「お前もそのうち訪ねることになるだろう。」
「・・・・・・・・・・。」
あからさまに嫌そうな顔をした。芳河はそれを無視する。
「・・・でも、お前の袴なんてもん、何であそこにしまってたんだろう。」
「・・・さぁな。」
「お前の小さかったこととか、可愛くなかったんだろうな。」
「お前ほどではなかったと思うがな。」
死ね!


「芳河の小さかった頃―?」
峰寿に出会った。ので、聞いて見た。
「やー、10歳くらいの時のこと?」
「おう。」
「うんー。それはもうふてぶてしかったぞー。」
やっぱり。
「でも、陰陽術も何もかも長けてて、大人顔負けのいっぱしの陰陽師だったかなぁ。」
「・・・・・・・・・ふーん。」
「なに急に?芳河のこと、知りたくなった?」
「ちょっと。あいつにも可愛い時代があったのかと思ったが、思った通りなかったらしい。」
「あははっ!あいつは特別だよ!」
峰寿がカラカラと笑った。
「あいつの祖父がさ、ものすごい力の持ち主でね。陰陽師ではなかったんだけどさ。」
「・・・スズルみたいな?」
「あっスズル!知ってるんだ!そうそう、そういう感じ。こういう一門には入ってなかったんだけど、スズルくらいすごかったんだよね。寺の住職さんで。」
「だから、アイツもこういう悪霊退散な道を選んだんだ。」
「・・・あ、うーん。うん。そうだね。芳河が一番尊敬しているのは芳河の祖父ちゃんだから。」
峰寿は笑った。そう言えば、以前祖父の本とやらを朝から熱読していた。
「今は?」
「芳河が小さい時に亡くなったんだって。」
「・・・・・・・・・ふーん。」

「・・・・・・・・・・ぁ。」
廊下を歩いてると、向こうから言霊衆が歩いてきた。どう振舞うべきか、わからなくて音華はただ廊下の隅に避けた。
彼らの眼は音華には一切向けられない。
「挨拶もできんのかいな。」
おばさんが音華の前を通り過ぎた瞬間にそう言い捨てた。
他の連中も音華のほうを断固として見ないと心に決めているような態度で足早に通り過ぎる。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・お、はよう・・・ございます。」
通り過ぎてから、一応言ってみた。
ぽつねん。
「・・・そっちだって、しねぇじゃねぇか。」


「物の怪?」
音華。
「・・・妖怪のことか?」
「そうとも言う。」
芳河が頷いた。
「人間の霊魂や思念そのものである霊体とは別に、物に宿るものを指す。」
「・・・唐笠お化けとか?」
「・・・・・・・・・・あぁ。」
あ、今、語彙力を馬鹿にした間があった。
「よろずの怪。物自体にも色んな影響を受けて宿る魂がある。そういう魂を持ったものが物の怪だ。」
「鬼とは違うのか。」
「言っただろう、思念が集まったものとは別だ。」
すみません。
「じゃあさ、水木しげるの、例えば、砂掛け婆とか鼠小僧とか猫娘とか、ああいう動物じみた妖怪は物の怪じゃねぇのか?」
「・・・・・・・・・・・・フィクションだ。恥ずかしいから他の陰陽師の前で口が裂けてもそれらの想像上の妖怪の名を出すな。」
「この話そのものがもはやフィクションじみてんだよっ。仕方ないだろ!」
なんだか恥ずかしくなった。
「勿論そういう妖怪もいるが、それももとは物であったか、動物が力を付けた物の怪だ。鬼に分類する時もある。」
「・・・・・・。」
こんがらがってきました。
「いいよ、分かった。それで?」
「これを見ろ。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・なんだこれ。」
「見て分からんか。壺だ。」
壺でした。
「いや、いやいや、分かってるけど。唯の壺じゃねぇか。さっきまでの前振りは!?」
「分かってないじゃないか阿呆が。」
「んだとぉ?」
「うちに厄払いの依頼があった。これがその依頼の壺だ。」
大きな壺だった。高さ60cmくらいの。随分古そうな物で、日本のものだか中国のものだか、音華の目では分からない。
「・・・で?コレが物の化だっていうのか?」
「なんだ。分かってたか。」
「・・・壺だろ。」
「壺だ。」
頷く。沈黙。
「・・・・・・・動かねぇじゃねぇか。唯の壺だろ明らかに!」
「あぁ唯の壺だ。だが、動く。」
「?」
「依頼人の話では、この壺は動くらしい。」
こんがらがる。
「や、妖怪ってこう、なんか鬼太郎みたいに動くんじゃ・・・。」
「恥ずかしいから鬼太郎と目玉親父だけは口にするな。」
「・・・・・・・・スミマセン。」
「言い忘れていたが、物の怪は人の思念ほど強くない。もともと外からの影響で得た魂だ。故にそんなに活発に動くものは稀で、そういうのは動物から変化した物が多い。・・・猫又などはそうだ。」
「・・・・ふーん・・・。」
よく分からないです。
「依頼人の話では。なかなか活発なほうだがな。コレは。」
「どう動くんだよ。」
「実家の近くにある古い骨董品店でこの壺を購入したらしい。値がとても安かったし、これくらいの壺を家に飾りたかったから買ったそうだ。」
「でけぇ家だな。」
つっこみはそこです。
「家の玄関付近にそれを置き、飾ったらしい。ところが、幾日かたった頃仕事から家に帰ると壺はそこにはなかった。空き巣が入ったと思い、急いで家の中へ入り部屋を確認してみるとおかしいことに何も荒らされた形跡がない。ただ壺だけがなくなってしまっていたらしい。」
「・・・・・・・・動いたのか。」
「あぁ。コレは裏戸の近くに移動していたそうだ。」
ぞっとした。
「誰かが動かしたんだと初めは思ったが、そういう事もないらしい。家族の誰も知らなかったそうだ。それからもしばしばこの壺は玄関から姿を消し、色んな所へ動いていたらしい。時には二階にも上っていたということだ。」
「・・・・・・本当に誰も知らないのか?」
「あぁ。一度は全員で外出した後、帰宅すると動いていたようだからな。」
「・・・妙だな。」
俺ならこの壺、捨てるけどな。
「ある日、壺が動くのではと思い、深夜寝ずにいたら、廊下を石がするような音がしたらしい。あわてて明かりをつけ玄関に行くと案の定、置いてあった所から数メートル離れたところで止まっていた。」
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
じっと壺を見る。警戒します。
「それで、俺達にこれに取り憑いたであろう何かを払ってくれと依頼が会ったというわけだ。」
「・・・・霊のせいじゃねぇのか?これ自身が動いてたんじゃなくて、ポルターガイスト・・・みたいな。」
「お前、これに嫌な感じはするか?」
指をさす。
「・・・・・・・・・・嫌な・・・感じは全くしない。」
「耳鳴りは?」
「しない。ただの壺に見える。」
「触ってみろ。」
「・・・え゛っ!」
躊躇。拒否。
「いいから触れ。」
「・・・ハイ。」
鬼!
おそるおそる触れて見る。ひやっとした。だけど、まったく嫌な感じも変な匂いも、耳鳴りも酔いも来ない。
むしろ。
「・・・生きてるみたいだ。」
ひやっとするその体から、どことなく感情が見えそうだった。ふいに話し掛けてきそうな。そんな感じだ。
「この壺に別の物がいそうか?」
「・・・いや。これ、単身だ。不純物みたいな気持ち悪さは・・・ない。」
「・・・・・・・・・・・・・上出来だ。」
呟いた。芳河は立ち上がった。
「音華。」
「は?」
「お前、これを封印しろ。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・は?」
「札は俺が書いてやる。お前がこれを封印しろ。」
「・・・・ちょ、ちょと、ちょっと待て!封印って・・・どうしたらいいんだよ!」
スパルタも此処まで来るともはや理不尽です。
「今の所、この壺の力はそんなに強くない。死呪で十分だ。仮封でいい。やってみろ。」
「まだ一度も試したことないんですけど。」
「だから今試すんだ。」
言っても無駄だと言うことは初めから分かっていた筈だ。諦めた。
「・・・・・っ」
指で刀を作りつっと壺に触れる。指先にひんやりとした感触。
音華は言うべき死呪を思い出して心の中で一度言ってから、息を吸い込み、大きく吐き出す。
ひゅ・・・っバリン!
電撃のような細い稲妻が一瞬壺を取り囲んで固く縛った。
「・・・・で・・・できたのか?」
「・・・・あぁ。ほぼ満点だ。」
ほぼ、と言うあたり、芳河らしい。
「ウン!」
芳河が続いて、札をつき立てて言った。
すると何もくっつけていないはずの札が壺に張り付き、一度風に吹かれたように揺れたがおさまった。
「・・・これでいいだろう。此処にいる間は、動き回ることはない。」
「そいつはよかった。」
「これお前の部屋に運ぶぞ。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・は?」
なんて?
「なんでだよ!なんで俺の部屋に置くんだよ!!??」
叫ぶ。
「お前が霊視するからだ。」
「おおおお、お前がしろよ?!」
「お前に任す。俺も暇じゃない。」
黙ってください。
「だって俺、お前が言う訓練とやらをしたことねぇぞ!?えらい時間掛かるかもしんねぇじゃん!そしたら依頼人・・・っ!」
「安心しろ、しっかり払えるまでいくらでも待ちますと言っていた。」
「だからって・・・・っ!」
「音華。」
芳河が音華をじっと見た。
「鬼か霊か物の怪か、または妖神の類か。見分けることやそれを見鬼・霊視することは、お前が此処を出やすくさせることに繋がるんだぞ。」
「・・・口寄せ体質解消法か・・・?」
なんだその名づけ方は。
「・・・あぁ。だから、今時間があって、しかも実践できるものが眼の前にあるんだ。逃げるな。」
「に・・・!逃げてるんじゃねぇよ!わかったよ!やります!やらせていただきますとも!」
「その意気だ。仲良くやれよ。」
壺と。

ゴトン。
部屋に置かれた大きな壺。
「・・・う、動くなよ。」
お願いします。
ふっと、ため息をついた。また床に寝転がった。
エリカは、今日は見ていない。きっと俺の知らないところで彼女は霊を救っているんだろう。
あるだけの力を使って。可能な限り。あの桃色の髪の毛を揺らして。
ふと、いつの間にかエリカが自分の中でかなり信頼の置ける人間になっている事に気付く。
初めは、あの桃色の髪の毛を見るたびに胸が詰まっていたが、今はそんなことはない。
馬鹿なことを言うなら、本当のお姉さんだったら良かったのに。なんて。
「莫迦だな。」
呟いて笑った。
エリカが貸してくれた他の本をちらりと見てみる。
スズルが言っていた源氏物語も、あんまり主人公が好きではないので読む気にならないが、その中にある。
「しかし、エリカはもともとイギリスに住んでたのに、よくこんなの読む気になったなぁ。」
源氏物語を手に取って開いて見た。本の匂いがする。吸い込んで見る。
なんだろう、懐かしいような。悲しいような。心臓を内側から掻きむしりたいような衝動に駆られるよく解からないざわめき。
懐古的な、うれしい苦しさ。
音華はいつの間にか耳に涙が流れてきたのを感じた。
「・・・・・・っなんでだ?」
無意識に涙が出ていた。最近無駄に涙腺が弱くなりすぎていたのだろうか。いかん。このままでは、そのうちそういう病になりかねない。
ごしっと涙を拭きとって、もう一度ため息をつき、源氏物語を床に置いた。
一瞬だけ、莫迦な想像力が働いたのか、一瞬だけ、母親の声で源氏物語の壱節を聞いたような気がした。
昔語りをするような、優しく、柔らかな声で、この物語を読むんだ。そんな情景が頭を過ぎったんだ。
頭をずらして壺を見つめた。
「・・・・・・・・どうやってお前のこと、霊視したらいいんだよ。」
何も語らない。壺だから。何も見えないし。何も聞こえない。
「3Dの絵を見るように見る、とか・・・・?」
やって見る、眉間に力が入って頭が痛くなったので20秒で止めた。
「・・・・・・・・・・・・なんだ・・・・霊視って。」
本当に誰か教えてください。芳河でもいいから。


「エリカ殿。」
振り向いた。桃色の髪の毛。
「お疲れさまでした。少し時間が掛かりましたね、今回は。」
「・・・えぇ、ちょっと、梃子摺っちゃいました。」
やわらかく笑った。相手は誰だか知らない。大方どこかの陰陽師の誰かだろう。
「今宵は御山にお帰りになられるので?」
「えぇ。あんまり外、好きじゃないんです。」
「・・・そうですか。」
エリカは愛想よく笑った。
エリカは有名だったし、その髪の毛は目立つので誰もがエリカを知っていたが、エリカは陰陽師全員なんて憶えているはずもなく、こういう、どこの誰かもわからない人に突然話しかけられることに慣れていた。
「今御山には、あの例の子が帰ってきているんでしょう?」
「・・・・・・・・・・・それって若草様の娘のことですか?」
相手は頷く。黒いショートカット。
「気をお遣いになるでしょう。」
「・・・そんなことないですよ。」
微笑んだ。
「しかし、有名ですよ。若草様の娘なのに、始めは見鬼すらできなかったと。」
「らしいですね。」
エリカは歩きだした。彼女はついてくる。
「容姿や態度も全く似つかないとか。」
「うーん、まぁ、似てないですねぇ。」
笑った。うん。逆だ。
「エリカ様には、疎ましいことでしょう?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・。なんでですか?」
振り向かず、進む。
「イギリスからはるばる、若草様の養子としてやってきたのに、今更、本物の娘が帰ってきたのでは。」
「・・・・・・・・・・・・。そんなこと、ないですよ。」
声は柔らかい。
「エリカ様の、立場がありませんよね。」
エリカは黙った。
「若草様も、人がお悪いですよ。死ぬ直前になってあんなことをおっしゃるなんて。もし、初めから分かっていたのであれば、エリカ様がイギリスから来ることもなかったでしょうに。」
「・・・さぁ、それは分かりませんよ。」
「この陰陽師一門に、異国の力が交わることもなかったでしょうに。」
エリカは立ち止まることなく、歩き続けた。その表情から笑顔は消えていた。
「子鬼、逃げてきましたよ。」
高い鼻。綺麗な目。エリカの髪。目立つ。闇にも。
「しっかりしてくださいよ。仮にも、若草様の娘なんでしょう?異国のおおざっぱさを持ち込まないでくださいよね。」
「・・・・・・・・・車、来てるんで。」
「あ、そうですか。では、お疲れさまでした。失礼します。」
「さようなら。」
黒い髪の毛は去っていった。エリカはやっと振り向いて、その後姿を見つめた。
「・・・・bitch・・・・。」
呟いて、すぐに車に乗った。
慣れっこだ。こんなの。慣れてる。


「ただいまー・・・・。」
エリカが家に着いたのは3時前だった。夜の月がやたらに綺麗だった。
「って、誰も・・・起きてないか。」
独り言だ。
廊下を渡る。月を見る。心が重い。下を向く。足元を見ながら歩く。
「帰ったのか。」
どきっとして背筋を伸ばした。
「・・・芳ちゃん。」
芳河が障子を開けた。
「何してんの。こんな時間に。灯りも付けずに。」
机の上に、お酒が置いてある。
「お酒ぇ?晩酌するタイプだっけ。」
「界酒だ。」
「・・・・ふーん。」
二人の間に沈黙。
「・・・どうした。何かあったか。」
「ううん。」
芳河は沈黙して、エリカの目を見た。エリカも芳河の目を見た。月が映ってる。
エリカは俯いた。芳河には大体何があったのか分かっていた。
芳河が分かっていることも、エリカには分かっていた。
「飲むか。」
「うん。」
芳河は立ち上がり廊下に出て、エリカに器を渡した。そして酒を注ぐ。
「ありがとう。」
芳河も自分の杯に酒を注ぎ足して、乾杯をした。二人は沈黙のままそれを飲む。
「・・・あー・・・。」
エリカが気の抜けた声を出した。
「・・・草臥れたよー。」
「そんなに梃子摺ったのか。」
「うーん。できるだけ・・・満足させてから消してあげたかったの。・・・そんなに強い霊じゃなかったよ。」
「・・・危ない真似だけはするなよ。」
「ヘマはしないわよ。」
「分かってる。」
エリカは微笑んだ。
「芳ちゃーん。」
「なんだ。」
エリカは月を見上げたまま言った。
「音華ちゃんのこと、守ってね。」
「・・・・・・・・・・・。」黙る。
「あの子だけは、守ってあげようね。」
そしてまた、うなだれる。手すりにもたれかかる。
「・・・・・・・それ、お前入れて3人に言われた。」
「あははっ。」
ここは、不条理な世界だよ。
ここは、悲しい世界だ。
だから、せめて。

「う゛―――――。」
音華は呻いていた。
「なんも見えねぇ――――。」
未だ格闘中。
それは4時まで続いた。


On*** 13 終わり



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