すぐだった。
すぐに異変は起こった。
順調に進んでいく一つ一つの術の連鎖。間違えなく、手順どおり。
芳河はいつも通りの冷静な術使いを見せる。鮮やかなものだった。
だけど、最後の術をかけるために一度北斗の封を解いたその瞬間だった。
壺からおびただしい質量の黒い霧が吹き出し、中からものすごく大きな、言葉では描写できないような鬼がずるりと出てきた。
耳鳴りがする。
ひどい声。
吹き出す霊気は冷たくて残酷だった。
芳河はいつも通り、冷静さを欠いてはいなかった。
すぐに術を切り替え、そして新しい術を唱えだした。
聞いたこともない術で、真言の並びから想像してもものすごくでかい術だと確信した。
だけど、すぐだった。
芳河が膝をついた。
その瞬間に見た。
影は芳河にはなかったのを。
叫んでた。
あいつの名前を呼んでいた。
瞬間鬼が、芳河を吹き飛ばした。
同時に寺が揺れた。ひどい揺れだった。
その中で自分は走り出していた。

「芳河!」
思いっきり叫んだ。
「芳河!芳河!しっかりしろ!」
ぐったりした芳河を抱え込む。意識はぎりぎりあるようだった。
だが、確実に彼の腕は折れていた。
音華は吹き出す汗を右手でぬぐった。
すぐ背中に殺気と霊圧がびしびし当たっている。舌を打つ。
芳河が起き上がろうとする。
一言のうめき声も上げないが、その顔には苦しさが滲んでる。痛みも滲んでる。
「芳河・・・っほ・・・―――」
はっと顔を上げて、振り向く。
すぐそこに鬼が迫ってきていた。見れば見るほどぞっとする。
こんなものは此処に居てはならない物だ。居る筈のない物だ。存在すら、認めたくないものだ。
ずるずると近づいてくる。手を伸ばしてくる。振り上げた。
やばい!
直感する。
消し飛ばされる。この拳で。この霊気で。
芳河を持ち上げる馬鹿力はない。かといって自分だけ走って避けることなんか出来ない。
ふざけんな。
ふざけんな。
ふざけんなよ。
汗が出る。拳の内側はびしょびしょだ。
振りかざされた。その瞬間。音華は叫んでいた。
その次の瞬間には、眩い光と、鼓膜を劈くひどい音。
雷の、音を肌で感じた。

「芳ちゃん!」
エリカが走ってきた。
そして、その光景を見て体をこわばらせる。
その後ろについて来ていた峰寿も同様に。
息を呑む。
庭に倒れた芳河とそれを支える音華。
その目線の先にある、巨大で邪悪な黒い悪鬼。そして浮ぶ、あの姿。
「雷艶・・・っ!」
エリカが小さな声で叫んだ。
間違いない。雷艶だ。
若草が何度か会わせてくれた事がある。
小さい置物か何かのようなその姿。丁度地蔵に似てる。雷をつかさどる式神だ。
「音華ちゃん・・・!」
峰寿が飛び出そうとする。
それをエリカが身体で止める。
「だめ峰寿、危ない!雷艶なんだよ!」
「!」
足を止める。
「今、動けない。私たち、動けないよ。」
汗が出る。息を飲み込む。
祈る。音華を祈るしかない。
大きな鬼は体の動きを止めてじっと、ただ雷艶を見てた。
「ほっほ。」
不意に雷艶が笑った。
「よう呼んだな、倅。」
「・・・じ・・・じじぃ・・・・!」
「それもいい場面だ。久しぶりだぞ、こういうのは。」
「・・・お・・・俺・・・・!」
音華はまだ何も理解できていないようだった。
自分が何を言ったのか憶えていない。
必死に、めちゃくちゃに叫んだ。
そしたら目の前に雷艶が現われたのだ。ものすごい落雷と共に。
「いい。何も言わんでも、倅はじっと見物しとれ。お前がわしにまだ何かを指示することは出来ん。」
「じじぃ・・・・。」
「それで、倅にちょっかいをかけたのは、こいつかの?」
雷艶は鬼を見据えてそういった。
鬼も雷艶を見つめて視線を離さない。
「いい度胸だのぅ。今、散らしてやる。」
メキ・・・!
「!」
エリカと峰寿は無意識に一歩下がっていた。
メキ・・・!メキメキメキ・・・―――!
雷艶が姿を変える。
あの獣の姿に変わってく。
音華自身もぞっとした。
あの時、ものすごい恐怖を与えたあの姿だ。
ズシ・・・。
地面を大きな足が踏む。
「いくぞ、三下。」
ぼっ・・!ぼぼぼっぼ・・・!
怪しい光が雷艶の周りに無数に浮びだした。
全てが電気的に光っている。
雷艶が何かを叫んだ。
その瞬間その光達は一つ残らず鬼へと向かった。
音華の目にはそれは全てスローモーションに映った。
音は後から耳から脳へ伝えられたようにずれていて、ものすごい風が頬に当たっていた。
だけど目を閉じなかった。
美しいほどの強い光が、目に刺さる。
鬼が苦しむ声が聞こえる。
黒い影が、白い大きな光に包まれるように掻き消されていく。
「うわ・・・!」
叫んだ声は自分の物なのに、聞こえなかった。
ひどい雄たけびが聞こえる。
「!」
驚いた。
いきなり芳河が体を起こしそして、手を伸ばして数珠をじゃらっと鳴らした。
「サイジョウノシンオンライサイガツカ!フウサンカンドウエツ!オン!」
ビュッ!バシ!音がして、壺に貼ってあった太い上等の札が赤く燃えるように光った。
「サイサシサイシュ・・・封!オン!
ぼっ!
「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」
音華は耳をふさいだ。
何だこれは!
人間の声のような雄たけびが今度は聞こえた。
鬼の最後の一欠片が光に飲み込まれて消えた時、壺の札がぱんっと千切れて宙に舞った。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
静けさが、辺りを包む。誰も何もいえないのだ。
「・・・っ!」
芳河が力尽きたように体を倒してきた。
音華はしっかりとそれを支えた。
芳河の額には汗が見える。息も少なからず上がってる。
影は・・・無いことはないが、本当に無いくらい薄くなっている。
「・・・・・・・芳河・・っ・・・!平気か・・!今・・―――」
「倅。」
ばっと顔を上げた。雷艶がまたあの小さい姿で浮んでこっちを見てた。
「・・・じじぃ・・。」
「よく呼んだな。本当に。」
「・・・よ・・・呼んだ覚え・・・ねぇんだけどな。」
「ははっ。そうか。」
満足そうな声でそう言った。
「もう少しかかるかと思っとったんじゃがな。」
「・・・そりゃ・・・期待に添えず・・・。」
「期待以上じゃ。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
雷艶は笑った。
「いい女子に惚れたもんじゃ。」
「・・・・・・・そりゃ・・・どうも。」
「また何時でも呼べ。酒の相手でもいいぞ。」
「・・・爺と飲んでもな・・・。」
「ほっほ、ひどい言われようじゃ。・・・まぁいい。ええな。今度からは名前だけでいい。遠慮せず、呼べ。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・おう。」
「わしの名前は、お前だけのもんじゃ。」
「・・・・・・・・・・うん。」
頷いた。
すると雷艶はしゅるんっと消えてしまった。
肩の力が抜けた。
芳河をもう一度見る。顔色は悪くない。
「芳河・・・。」
「芳ちゃん!」
エリカが駆け寄って、芳河を支えるのを手伝った。
「エリカ・・・。」
「音華ちゃん!大丈夫!?芳ちゃん・・・!平気?!」
芳河はうっすらと頷いて、もう一度身を起こそうとした。
しかし上手く力が入らないらしい。その手を峰寿が引っ張った。
「芳河っ。平気か!」
峰寿が音華を柔らかくどけて、芳河の肩を持った。
「悪い。」
「悪くないから、歩けるか。いくぞ。とりあえずお前の部屋まで頑張れ。」
芳河は頷いた。
エリカが反対側の肩を持って、ついて歩いた。
ひとり残された音華は呆然としていた。
今何が起こったのかも。自分が何をしたのかも。
あんまり理解できていなかった。
雪が降っている。
雷が落ちた。
冷たくなっていく体。手。
音華は深い息をついた。

「芳河、なんや今のは。」
婆やがようやく駆けつけた。
芳河の部屋。峰寿とエリカが芳河を介抱していた。
「・・・なんや、この有様は。何があった・・・。」
婆やは随分目を丸くしていた。
芳河が倒れるなんてものは想像圏外甚だしいからだ
「大丈夫か?」
「大丈夫です。」
芳河は小さい声で呟いた。だが身体は起こせないらしい。
「エリカ。何があった。」
「よく・・・わかりません。でも、多分あの魔窟の入り口、一度開いたんだと思います。駆けつけた時大きな鬼が居たから。」
「開いた・・?!それで、どうなった。」
「俺が倒れました。」
芳河が呟いた。
「お前が?!らしくないやないか。」
婆やは少し考えてから、納得した顔で言った。
「・・・・・・あぁ、そうか。結界やな。」
芳河は頷こうとしなかった。だが、その通りだった。
「・・・なるほど、あの影の薄さから想像するに相当強い術音華にかけとった。それ忘れて一級の術その鬼に使おうとしたんやな。しかも穴埋めの術の途中で。」
芳河は頷いた。
「すみません。」
「・・・それで・・・。でも今この寺は何もない。ちゅうことは、何とか収めたんやろ。」
「・・・えぇ。・・・雷艶が来ました。」
「雷艶!?」
婆やは驚き、目を丸くした。
一体何があったと言うのか。
想像圏外のオンパレードだ。
「お前が召喚したんか!?」
「いえ、音華です。」
「音華!?」
もう、これ以上驚けないくらい、婆やは驚いた。
「・・・心配いりません、穴は、ちゃんと埋めました。」
「・・・あ・・・あぁ。そうか。・・・しかし・・・雷艶を、音華が?」
頷く。
「・・・そうか。・・・そりゃ・・・。」
婆やは言葉が出ないようだった。
「その、音華は何処や?」
「・・あ。」
エリカが顔を上げた。考えていなかった。
「ついて来てないね。峰寿・・・っ!」
峰寿は言われるより先に立ち上がっていた。
「・・・。」
沈黙。
「・・・そうか。・・・・音華が・・・・。」
婆やは感慨深げに言った。
「・・・やはり・・・血なんかな。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・。」
エリカも、芳河も黙った。


夜が来た。
寒い夜は、空気が澄む。
星が読む見える。
白い息も見える。
「・・・。」
こっそりと廊下を歩いた。
皆が寝静まった深夜2時だ。
軋む廊下をできるだけ鳴らさないように、音華は芳河の部屋へ向かった。
眠れなかったから。
そわそわして。
心配でならなかった。
「・・・芳河・・・。」
もう寝てるかもしれない。
でも、夕方から夜にかけて何故かものすごく疲れが襲ってきて死ぬように眠っていたため、一度もあの後芳河の顔を見る機会を得ずにいた。
ゆっくりと戸を開ける。そして障子を開く。
「・・・ね、寝てるか・・・?」
一目寝てる姿を見たら、すぐ部屋に帰ろうと思っていた。
「誰だ。」
でも芳河は起きていた。
やってしまった。
寝てるとふんでいてノックも糞もしなかった。
「あ、・・・っわりぃ!・・・寝てると思ってて。」
「・・・音華か。」
音華は一歩部屋に入って障子だけしめた。
月明かりだけが柔らかく部屋に漏れている。
「・・・だ・・・大丈夫か?」
「大丈夫だ。」
「・・・腕は・・・?」
「折れた。」
「・・・あ・・・い、痛くないか?」
「痛い。」
ですよね。
「・・・。」
沈黙。
「用か?」
「・・・よ、用って程じゃないけど・・・。ちょっとなんか心配で・・・。」
「・・・大丈夫だ。お前は・・・、平気か。」
「うん。俺はなんともねぇ。」
芳河の顔は暗闇でよく見えない。
月明かりの筋が照らす彼の首筋だけが見える。
「あ・・・じゃあ、わり、夜中に。よく寝ろよ。怪我した時は寝るのが一番いいんだ。」
沈黙も辛いので、さっさと此処を去ってしまおう。
音華は背をむけかけた。
「音華。」
「あ?」
「顔、見せていけ。」
「・・・・・・顔?」
「俺も安心したい。」
「・・・・・・・・・。お、おう。」
芳河の方に歩み寄った。
布団に寝転ぶ彼の側で音華は座りこんだ。
「見えるか?暗いだろ。」
「見える。」
すげぇな、夜目が利くのか?
だって音華は芳河の顔は全く見えない。
ひやっとした。
体を小さく揺らす。
芳河の冷たい手が頬に当たってた。
「・・・悪かったな。怖い思いさせて。」
「・・・や・・・ううん。・・・俺のせいだから。」
「なんでだ。」
「俺の結界、無かったらこんなことにはなってなかっただろ。」
芳河は黙る。確かにその通りだからだ。
「お前が気に病むことじゃない。気にするな。」
「またそう言うか。」
「ちゃんと香、側に置いて寝ろよ。今、結界はない。張ってもやれないからな。」
「おう。お前もな、よく寝ろよ。」
手が離れて、音華は立ち上がった。
そして真っ直ぐ芳河の部屋を出てしっかりと戸をしめた。
失うことができないものだと思った。


「人の声がしました。」
芳河の元にもう一度婆やがやってきて状況を聞いた。
不可解な点が多々あったからだ。
「最後でしたが、鬼の奥から人の叫びが聞こえました。」
「つまり。」
「おそらく、あの壺、この一門を潰す目的でここに送られてきたものでしょう。」
「人の手が加えられて物やってことやな。」
「えぇ。」
「・・・西か。」
「有り得ますね。」
「・・・あそことは因縁が切れんらしい。」
「えぇ。そうですね。」
「わかった。悪かったな。今日はたんと療養しいな。」
「・・・ありがとうございます。」
婆やは笑って立ち上がった。
「あぁ・・・芳河。」
「はい?」
「月曜やな。音華が紫苑に会うんは。」
「・・・そうです。」
「・・・わかった。ならば少し予定より前になるが、音華の調伏は木曜にしよう。姫様も来週には籠りを終えて帰ってくるが、金曜にはまた此処を出る。」
「・・・わかりました。」
「じゃあな。」
戸を閉めて、婆やは行ってしまった。
静かだ。芳河は目を閉じた。
右手は結構ひどく痛むが朝、医家の先生が来てくれてましになった。
でも、随分、うずく。

「電話。」
音華は顔を上げた。
電話がなっている。
一度だけ取った事がある。
ろくなこと言わなかったけど。つい習慣で電話を取ってしまっていた。
音華は電話に駆け寄った。
周りを見る。今の所取りそうな人はいない。
「・・・。もしもし。」
取った。
「もしもし。あの、私・・・―――」
「玉蔓?」
「は・・・?」
相手の声が止まった。
「・・・なんであなたが出るんですの?」
嫌そうな声が返ってきた。
電話の相手は蔓だった。
「あはは、ひっさしぶりだな。」
「そうですわね。・・・なんであなたなんですの。」
「いいだろ別に。たまたまだよ。で、何?辰巳に習ってお前もわざわざ電話で嫌味か?」
「違いますわ!」
怒った。
「で、どうした?なんか誰かに用?芳河なら・・・今出れねぇと思うぞ。」
「・・・・やっぱり何かあったんですの?」
「・・・やっぱりって。」
蔓はため息をついた。
「・・・このところ、随分夢見が悪かったんです。西の空に混沌が見え隠れしてました。・・・だから。」
「心配になって電話して来たってわけか。」
「気を付けて、と言うつもりだったんですけれど、どうやら遅かったようですわね・・・。」
「・・・あぁ。まぁ、ありがとう。」
「・・・い、いいえ。」
「芳河は腕折った。一回魔窟の入り口が開いたんだそうだ。」
「ま・・・・!?芳河様・・・怪我されたんですか?!」
「うん。・・・。」
俺のせいで。
「そ・・・っ。」
「大丈夫。蔓が心配してたって言っといてやるよ。」
「・・お・・・お願いします。」
「と、わり、婆か誰かに変わるか?俺と話しても仕方ねぇよな。」
「え、えぇ。いいですわ別に。もう過ぎてしまった夢読みなんか言ったって、無駄ですもの。」
「そっか。いいのか?峰寿とも変わんなくて。」
「・・・泰樹様は・・・―――」
泰樹様。
聞き慣れない。
そっか、蔓は峰寿のこと、下の名前で呼ぶんだ。
「いいです。私と話すことなんてないでしょうし。」
「なんだそれ。そんな冷たいやつじゃねぇよっ。」
「いいんです。」
・・・そっか、前峰寿振られたっていってたな。やべ、いらん下世話やいた。
「そっか。わかった。じゃ、またな玉蔓。」
「蔓です!さようなら。」
「おう。」
「あ。」
「え?」
「・・・単身調伏・・・おめでとうございます。」
「・・・・・・・あ、あぁ。うんありがとう。じゃあな。」
電話を切った。

単身調伏か。

東に居る蔓の耳にも届いている。
これってやっぱりちょっとすごいことなんだ。
なんでか実感がわかなかった。
雷艶のことを思い出す。
そういや、召喚できたんだ。
掌を無意味に広げて見てみる。
式神が、自分の側についている。
そういう実感も、まだわかない。
もし。もしも、自分がここに連れ戻されていなかったら。
この今の日常も、こういう事も、絶対にありえなかったことだ。
それはぞっとするほど実感する。
「音華。」
「あ?」
「丁度良かった。ちょっときぃ。」
婆が手をこまねいた。
「・・・なんだよ。」
歩きだす婆の後をついていく
「さっき電話がならなかったか?」
「あ、なった。蔓からだった。」
「・・・なんて?」
「大したことない。芳河に会いたいってさ。」
「・・・ほんに大事な事やなかったんやな?」
「うん。夢見が悪かったから、心配になってかけてきてくれたらしいぞ。」
「そうか。」
「それで?何か用か?珍しい。」
婆の部屋だろうか。
広めの間に着いた。随分奥にある。
「調伏の詳細や。」
「詳細・・・。」
「あぁ。来週、木曜になった。」
「・・・あれ、再来週じゃなかったのか?」
「ずれたんや。問題あるか?」
「・・・ねぇけど。」
じゃあその週の月曜日と木曜日、予定が入ったことになる。
変な気分だ。立て続けに予定があるっていうことが、あまりに久しぶりで。
「それで、明日。お前に依頼人と会ってもらう。」
「・・・あぁ。話聞いたり?」
「そや。これも大事な事やで。」
「おう。」
婆は煙管に火をつけた。
「・・・いいもん持ってるな。」
「これか?お前はまだ未成年やろう?」
「・・・あ、はい。」
マルボロすってますが。
「・・・それで、音華。」
「おう。」
「お前、今日からは自分で自分に結界を張れ。」
「・・・え?」
「いつまでも芳河にたよっとったらあかん。そう、感じたやろ?」
「・・・。う・・・・・・・。うん。」
おおきく首を上下させる。
「せやから、お前、結界。自分でやってみ。自分の結界やったら大した負担にならん。」
やっぱり他人にかけるほうが負担になるのか。
「わかった。」
「よし。」
「それだけ?」
「・・・あぁ。それだけや。」
「んじゃ、行くぞ。」
立ち上がった。
「あぁ。ちゃんと一人でも修行するんやで。」
「わかってるって。」
音華はその場を去っていった。
婆やはふぅっと煙の塊をはき出した。
「・・・芳河が任降りることは、まだ、言わんでええか。」


on*** 46 終わり


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