・・・雨振る館。そこに集うは陰陽師―――そして

ざ―――――――――――――――――――――・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

絶え間ない、雨音にひとつ。ぱちん。傘が1つ畳まれる。
コツン・・・・・・
戸を、左手のこうが、打つ。

――――此処が、始まり。

「入門を、志願する」
綺麗な声。雨の中。
「帰れ!ここはそこらとは違う!女は入れぬ掟なのだ!」
怒鳴る。雷。
「女と男では霊力の質が違うのだ!我等のような洗練された者ほどになってくるとな・・・!!!」
理由。風。
「・・・・・・。」
女は黙った。その顔を上げる。その眼は。澄みすぎていて、怖かった。
「核人を出しなさい。男女を比べるというのなら、その差。見せてもらおうではないか」
その声はやっぱり綺麗で、澄みすぎて、しかし確かな強さを持った声だった。
「・・・っ・・この!!」
男衆は、声を荒立てた。
「待ち。」
「!核人!!!」
後ろから静かにやってきたのは男だ。落ち着いた姿はそこらにいる男とは違う風格を放っている。
「お引き取りくださいな・・・。ここは古くから男のみ・・・」
静かに女に言い聞かす。
「では―――」
女が口を開いた。
パシっ
取り出した。
「花札で決めよう」
「・・・?」
「本当に男の方が、強いのか。」
その眼は澄んでいて、もう、怖いとしか言いようがなかった。

これは。もう24年も昔の話。


五年後。また、雨降る。
「主には結ばれるべき者がおる。霊血を絶やすわけにはいかんのじゃ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
誰かが誰かにいいきかす。
座る。女性。
「腹の児は、かわいそうだが、捨てる。よいの・・・これは掟なのじゃ。」
しわがれたような声が、鋭い言葉を吐き付ける。
「はい・・・・・―――――――」
座る、美しい女性。涙をただつっとながし、座りこんだまま、下を向き、ぽつぽつと涙を落とし続けた。

陰陽師。
古来から伝わる陰陽術を遣い、霊を払い鬼を倒す。霊能力者の形。

「やめて!待って・・・っまだ!!!」
叫んだ。
「まだ!・・・・連れて行かないで・・・・・!!!」
「若草様っ」
長い髪が、あの美しい目が、涙で濡れた。雨がざあざあ降ってた。
「ああっ」
泣き崩れるように、彼女はかがんだ。掌が彼女の小さな顔を覆う。
どす・・・
左拳が壁を打つ。声なく、泣く。


小さな、小さな手は、雨に打たれて、路の上。


「いってきまーす」
ごそごそ靴をはき、玄関をでる。だるそうに。
バサっ・・・・
軽くなびかせるのは。ネクタイと。髪。
紫 音華。ムラサキ オトハナ。17歳。不良。
ごつごつ路をあるく。空は高い。
「・・・・・・・・・・・・」
通学路。
「・・・・毎日毎日・・・・・うっとおしいんだよ・・・・・。ザコどもが。」
右肩に鞄を担ぎながら、ちらりと後ろを見て言ってのける。そこに居るのは見るからに不良の方々。
「うっせぇ!黙って殺られやがれ!くそ女!」
「こないだのカリっ返してやらぁ!!!!!」
叫ぶ。
「は――――――――。・・・・・。」
なっがいため息。ぽりぽりと頭をかく。
ド カ ッ・・・・・
何秒だったかな。不良の男どもはもう、路上でひれふれふしていた。
「黙るのはてめぇらだろ。クソ野郎共・・・・」
ふ―・・・と煙草をふかし、あの不良女はまっすぐ歩く。倒れた男たちはそのまま。
「は―――・・・・たり」
呟いた。
時だ。
ト・・・・・・・・。
「・・!?」
鳥が降り立つように降り立った。老婆。いつの間にか横にいた。
「なっ・・ババァ・・・・・ッ!!??」
驚いた。
「大きくなったの・・・迎えに来たぞ。おとなし来い」
ただただ眼を丸くするのみ。この小さな老婆がしわがれた声でいきなり意味の分からないことを言ったから。老婆の放つ不思議な空気が、此処にたちこめる。
「は・・・?」
「オン・・・・」
しわがれた声がまた呟いた。意味の解らない。だけど言った瞬間。
ゴォン・・・!!!
ぶわっと白い冷たい空気が巻き、現われたのは今まで見たこともない別世界の物のような大きな化け物だった。
「はあ゛っ・・・・!!!??!?!?!?」
さすがの不良も驚いた。奇怪な姿かたちのこの生物(?)。そのまま脚を動かし逃げ出した。走る。
「なんだこりゃ!?ばばぁッ何しやがった!!!!」
食って掛かるように後ろを走る老婆に向かって叫ぶ。なかなか度胸はあるようだ。
「ほっほ・・・式神じゃ。逃げるな逃げるな」
にぃっと老婆は笑う。
「逃げらいでか!!!!!!!!!!!!」
切。
ただひたすら走る。ものすごい速さだ。
「あッ!あのくそ女が!なーに走ってんだ?」
「待てやゴルァ!!!!!」
来た道を帰って走ってきたものだからさっきのした不良の男どもが起きていて、マッハで奔るあの強い女に叫ぶ。
「やかましい!」
ドゴォ!
足蹴。またのされた。あの男ども。それ所じゃないんだ。ただ走る走る。その後ろにつくように来る化け物アンド婆。
―――どーする・・・どーする・・・!?
頭の中はそれのみだ。
「ちっくしょ!!!」
走った。
そこに。
「あら音華ちゃん、駄目じゃない学校は・・・・・」
優しそうな女性が飛び出した。
「駄目だ!!!!!!!」
ドカッ!
ぶつかった。というか、不良が女性を庇う形で倒れた。
「・・・・いたたた・・・どうしたの音・・・・」
「あなたがこの娘の今の保護者ですのやな・・・。」
婆が二人のすぐ目の前に立った。
音華は立ち上がった。と言うより引きずり上げられた感じだ。あの、化け物に。声も出ない。
「この娘、暫らく預からせてもらいます。よろしおすか?」
酷く京なまりの老婆だった。
「・・・・この子に何か関係がある方なんですか・・・・?」
先生と呼ばれた女性が尋ねる。もちろん音華が巨大な化け物に抑えられてる姿なんて見えてない。
「はい、関係ありますえ」
老婆は静かにいった。
「・・・・・。音華ちゃんはどうしたいの?」
ふっと彼女を見る。
「・・・・・っ!!!・・・・!!!!!!」
喋れない。口が、いうことをきかない。一種の金縛り状態が彼女を襲っていた。
「この娘の許可は得とります。私はこの娘の母の育ての親に当たるんです・・・」
「・・・そ、そうなんですか?」
先生は驚いていた。
「・・っ!」
音華はもがこうとする。
―――違うっ!こいつ・・・!だってこの化け物!!!!!
心で叫べど届かない。
「・・・音華ちゃんが自分で決めて行くなら、止めないわ。でも・・・」
「安心なされいよ。暫らく預かるだけ故、すぐに戻ってくる」
「・・そうですか。じゃあ妹達も寂しがらずにすむわ・・・っ」
ほっとしたように先生は笑った。
―――助けて・・!先生!!!!!
心でまた叫んだ。
「ではまた後ほどに・・・」
老婆が静かにそう言って背をむける。なんだかんだしている間に勝手に意味の解らない取引が行なわれてしまった。
「はい。ちゃんと連絡するんですよ。」
音華の前に先生が来て、ニッコリ笑ってそう言った。化け物との距離も1mなかったのに、見えないんだ。
―――先生!!
汗が流れる音華の顔に余裕なんてなかったのに。先生は行ってしまった。
「・・・さて行くかの。・・・逃げられてはかなわんでの、車を呼ばせたから、しばし待ち」
「・・・・・・っ・・この・・・っくそばばぁ!!!!」
声が出た。やっと。
「ほっほ・・・見間違えたぞ・・・。」
にたりと婆は笑った。
「オレ・・に、親なんか・・・いねえよ・・・っ」
睨みつけたまま言った。
「ああ。おらんぞ」
「!」
キッパリいいのけた老婆。そこに現われた黒い車。
「・・・車じゃ。乗り」
そして突っ込まれた。これって、誘拐って言うんじゃないかな。


車は止まることなく突き進む。

誘拐された女子高生。紫 音華。
「オトハナ・・・と呼ばれとるのか」
老婆が口を開いた。
「・・・・」
答えない。
「先の女性は櫻塚どのじゃの。施設の園長を勤めてはる」
「・・・・・」
「妹達というんは・・・他の子どもたちの事かえ?」
「・・・・・・・・何処に連れてくんだよ」
呟くように音華が吼える。
「ほっほ。吼えるのぉ。着いたら解る。」
「着いたら帰る」
「無理じゃ。帰しはせんぞ」
「・・・・っ」
振り向いた。
「ざけんな!オレに親は居ない!ババアも居ない!変な嘘ついて!おちょくってんのか!!!!」
叫んだ。
「・・・・・・嘘やおまへん」
「!?」
「うちは正真正銘、あんたの母を知っとる。育ての親や。」
「・・・・・ッ・・・・・・・・・」
老婆も音華を見る。
「着いたら全て話たる故、今は黙ってついてき」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
車はすべるように。


「・・・・・寺・・・・?」
着いたのは山奥の、古そうな寺のような館だった。
「・・・・なんだよ此処・・・!」
「音華、の母が住んどった場所や」
「・・・・・・・・・・・・・?」
すっと老婆は入っていった。音華は黙ってついて歩く。周りを見ると薄暗く、気持ちが悪い。音華はふっと鳥肌がたったのを覚えた。
寺の中はやたらと広くて、やたらと静かで、知らない世界みたいだった。
「・・・・婆・・・」
「黙ってきぃ。」
「・・・・・・・・・・」
歩き、連れていかれたのは暗い部屋だった。
「・・・・・」
「此処でしばし待っとり」
そう言って行ってしまった。
独り、置いて行かれてしまった。辺りを見渡す。庭は、写真でしか見たことないような日本庭園そのものだったし。池まであった。
「・・・・・」
こんなところに自分の母親が住んでいたのか。音華がその場からすぐに逃げ出さなかったのは、聞いてみたかったからだった。自分のこと。
物心ついた頃からすでにもう彼女は園長先生の元にいて、周りに居たのは自分より小さな子ども達ばかりだった。
あそこは新しい施設だったし、上の子は何処かに貰われていった。自分が何処から来たとか、家族がなんだとか。そんなのの手がかりはひとつもなかった。
在ったといえば、名前。幼い頃の布切れに、縫われていたのは紫音華、という銀糸の文字。
それだけだ。
「待たせたな」
声がした。振り向けば。
「お前が若草様の娘か・・・」
物静かそうな男が立っていた。そしてふっと後ろから老婆がついてきていた。
「・・・ほれ音華、そこに座り」
指差す。座布団。音華はどかっと座った。胡坐だ。スカートなんだからもうすこし行儀ってものがある。婆と男はやれやれといった眼でお互い顔を合わせ、座った。
「・・・さて、何処から話そうか」
婆が言った。
「・・・・若草。ってのが、オレの母親の名前かよ。」
眉間にしわを寄せたまま、音華が訊いた。
「・・・さよう。」
「・・・・でも此処には居ねぇんだな」
問う。
「・・・この世から、旅立たれた」
「・・・あぁ!?」
叫ぶ。
「静かにしろ」
男が言う。音華はちっと舌打ちをして黙った。
「じゃあなんでオレの居場所を知った?つか・・・!なんだよ此処!」
こんな処、想像してた自分の生まれた場所とは全く違うものだった。
「居場所は、ずっと知っとったよ。」
「・・・・は?」
老婆が静かにいう。
「ここは、桜一文字 陰陽寺。」
男が言う。
「おんみょ・・・?」
知らない。
「陰陽師、を知ってるか。」
「知らねぇよ」
「・・・・式神を遣い、霊を祓う、まぁこれが一番世間一般に知られてる形か。」
それだけではないのだけれど。
「先ほど、お前を抑えていたのも式神の一種じゃ」
「・・・あの、化け物のことか・・・?」
汗が出る。あんなもの、もう見たくない。
「ま、とにかく此処は陰陽師が集う社、桜一文字一門だ。」
「・・・・・・・・・・」
なんのこっちゃ解りません。社?寺の間違いだろう。鳥居が無い。
「・・・つまり、お前の母君は陰陽道に携わる人間だったということだ。」
「・・・・っちょっと待て・・・!なんなんだよお前ら!意味わかんねぇ!オカルトがどうの!母がどうの!なんなんだよ!」
もう頭がいっぱいだ。
「帰る!」
すくっと立ち上がり、音華は歩き出した。だって意味がわからない。自分が何のかも解らない。こんなの嘘に決まってる。
オカルトなんて信じるほど莫迦じゃない。自分の身下がきちんと分かってないからって好き勝手なこと言われてるだけだ。
「待ち」
パァン!
「!」
ふすまがひとりでにものすごい勢いで閉まった。薄暗い部屋はより一層暗くなる。
「・・・!」
「あんたには、暫らく此処に居てもらうで」
「・・・・ンの真似だよ」
「あんたには、陰陽師になってもらわなあかんでな・・・!」
婆が振り向く形でにやっと音華を見た。
「・・・・・・・・・!!!!」
ぞぁっとした。
「・・・意味わからねぇ!そのおんみょーじとか言うのになんで俺がなんなきゃなんねぇんだよ!霊がなんだって・・!?霊能力者になれってか!!!」
「あぁ。くだけて言うとそうなる。」
男が振り向かずに言った。
「はっ!冗談も休み休み言え!このオカルト集団!俺には霊なんか見えねぇし!そんなもんにもなりたくねぇ!!」
叫んだ。
「今すぐ此処から出せ!!!」
「・・・・・・・・・・」
沈黙があった。
「・・・何を言っても無駄じゃな」
破る。
ひゅん・・・!
変な音がした。瞬間
「!!」
また音華は動けなくなってしまった。
「・・・また・・・ってめ!」
「あんたの口から承諾の言葉を聞かん限り、金縛りの術は解かん。此処に居てじっくり考えるこっちゃ」
老婆は立ち上がり、転がってしまった音華に近づいた。
「よぉ考えるんじゃぞ?ぬしの体質は特異での、こんな所にいたら霊に取殺されてしまうぞえ?」
「・・・・!?」
「きぃ変わったら、呼び。すぐ来て・・・・助けたるわ」
「?」
にたっとまた笑って、婆は去った。男もそれについて、ちらりとも音華を見ずにふすまを閉めて行ってしまった。
なんだってんだ!!!!
心がざわざわした。こんなの。日常じゃない。オカルトなんか興味ない。ぐぐっと手に力を入れて見るが思うように動かない。なんかの術なのか、知らない。眼を堅くつぶった。
「・・・・っ・・・園長先生・・・!」
身体をぎゅっとちじこめた。

夜って暗い。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
何も言うことなく。何も動くこともなく。音華はただちじこまっていた。
もう、2度目の夜が来る。昼間だって恐ろしいくらい静かで、自分の心音と息の音だけがかすかに響く。
何も口にしてない。自然と苦しくもない。ゆっくり近づいてくる死みたいに、何も感じることもなく、時間が過ぎていった。


「・・・・・・・・・・・そろそろか」
男がボツリと声を出す。


「・・・・・・・・・・・・・・・」
もうだめだ。きっとこのまま、意味わからねぇこいつらに捕まったままだ。
「・・・・・・」
音華は、静かに目を開けた。
そこに。
「・・・・!!!!」
ぼうっと浮んだのは、変な面を付けたような、ちいさなちいさな物体だった。ちょこんとかわいらしく座っている。
大きさは犬くらいで、変な狛犬みたいな、奇怪な顔をしたものだった。へんな、動物?こんなに暗い部屋なのに。ぼうっと白く光ってた。
「・・・・・・・・・・っ・・」
こいつも式神ってやつなのか。知らない。妙に汗が出てきた。
「・・・・っお前・・・・なんだよ・・・」
身体はもたげようにも動かない。
カタ・・・
「?」
カタカタカタカタカタカタカタ・・・・・・・
急にカタカタ歯を鳴らし出した。
「!?」
ぞあっとした。
オマエ・・・・ニンゲン・・・
「?」
喋った。
オマエ・・・ニンゲン・・・・
問いかけてんのか?
「なんだよ・・・」
心臓が鳴りだした。そんなに、鳴る動機なんて、ないかのような沈黙なのに。
シンゾウ・・・・
「は・・?」
シンゾウ・・・・・ヨコセ
「!!!!!!」
はっとした。周りに同じようなモノが、いっぱい居た。部屋中にだ。汗がひどい。掌なんかびっしょりだ。
でもそんなこと考える暇すらない。心臓が、心音が、嘘みたいに音を馳せる。
「シンゾウヲ・・・・シンゾウ・・・ソノ・・・タマシイヲ・・・!」
次々に、心臓心臓と、口走る。その変な物体達。ザワザワ動き出した。白く光るそいつらは、波を作りカタカタカタカタ歯を鳴らした。こんなの。
「・・・・!なんなんだよ・・・!くそ!!!!!!!!!」
汗が出た。涙も・・・出そうだった。
トト・・・・
一匹が顔近くまで来た。
「シンゾウヲ・・・・ヨコセ」
「!!!!!!!!」
ぶあ!!!!
突如、その顔が凶悪な、恐ろしい化け物に変わった。あの婆が出した変な化け物なんかより、芯から魂の奥から恐怖を搾り出す。そんな感じがした。
「うっ・・・!!うあぁああああああああああああああああああああああ!!!!」
叫ぶ以外に何ができただろう。
目の前に恐怖しか見えなかった。暗闇の中の。恐怖。
「承諾か?」
「!」
声がした。婆だ。
「陰陽師にならなければ、このようなことは今後とも起こるぞえ?主は口寄せの体質じゃからの」
「・・・・・・!?」
なに悠長に!もう潰されそうだった。
「承諾か?音華?」
声が。
「あぁ!もう陰陽師でも占い師でもなんでもなってやる!なりゃあいいんだろ!
こいつら・・・!どうにかしろ!!!

叫んだ。
「御意」
ブア!!!!
風がうなる音がして、何かが空気を包んだ。
アビラ・・・カカ・・ヤカカ・・・・・・・・・・・・・・・
何かブツブツ声がした。
「オン!!」
ザァ・・・!
「!!」
あの日のあの、光は、忘れない。きっと。
あの変な化け物達は、光に掻き消されるように消えていった。苦しみ、悶えて。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・っ」
汗が畳を湿らせていた。身体を縛っていた何かも、消えたようだ。深い息をついた。
「さて。」
ト・・・
婆が目の前にいた。
「女に二言はなかろうな?明日から始めてもらうぞえ?修行を」
「・・・・・っ・・・・うっせぇ・・!」
「おや」
ギシ!
「い!」
また何かが身体を縛った。
「もう一度餌になりかけたいかのぉ?」
ひっひと笑いながら、婆が言った。
「ウソデス・・・スイマセン・・・」
「わかればよろし」
力が抜けた。
逃げてやる。絶対隙ついて逃げてやる!
心に誓い、立ち上がる。そこに。
「明日からよろしくの、芳河。」
男がたってた。あの偉そうな顔の男。
「はい。」
音華は小さく睨んだ。
「おい、立て。オト・・・・」
えらそう。
「音華だ」
「あぁ。音華。」
ずるっと睨みつけたまましっかり立ち上がる。
「挨拶もできんのか、お前は」
きた。カチンと。
「紫・・・音華・・・・だ・・・デス。ヨロシクオネガイシマス」
絶対思ってない。
「紫苑 芳河だ、宜しく。」

なんだってんだ。


On*** 1 終わり

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