・・・社。

バシャバシャバシャ・・・・!!!
「・・・・・」
むすったれた顔だ。
「・・・・心静めろと言っただろう。」
「へーい」
バシャ。音華が中池から抜け出す。水しぶきと一緒に。
「真面目にやれ」
「やってら」
仲良くないな。
「・・・・なぁ。」
「?」
音華が珍しく尋ねる。
「・・・霊って・・・いんのか?」
「・・・・・・・・」
黙る。
「何を今更」
「・・・・・」
まぁそうですけど。
「だってオレが今まで襲われてきた奴らって明らか幽霊とか、そう言う類じゃねぇだろ?」
ごしごし頭を拭きながら。横で芳河はため息をつく。
「・・・あれは鬼だ」
「鬼ぃ・・?」
歩き出す。
「魑魅魍魎。ある単独の遺体から練られる霊圧の塊ではなく、いろいろな怨念や恨みが少しずつ少しずつ集まってできた鬼だ。」
「・・・・・・・・・・・・」
「奴らは人の命をむさぼることで大きく強くなっていく。うっとおしいが、結局そこまででかくなる前に排除される。」
「・・・・お前らが、すんのか・・?」
「・・・まぁ、そうと言っても間違いではないな」
「・・・・・」
音華は自室に入り、着替え、また出てくる。朝食だ。
「・・・・お前、霊が見えんのか」
「あぁ?ンなもん見えた試しがねぇよ」
「・・・・・。突然変異か?」
「はぁ!?」
朝食中になんか失礼な男が居るんですけど。
「霊には色々な種類がある。」
「・・・・」
講義が始まりそうだ。うざそうに音華は聞く。
「人間には魂があり、死ぬと体から魂のみが抜け出る。それを真魂という。」
「はぁ」
「それを、死神が掻き集め、その魂魄はその後の形を決める。魂から霊化するのはこの時だ」
「・・・・・・・・・・」
死神。とは、また似つかわしくない単語が飛び出したものだ。
「霊の種類は大まか二つだ。行き場のない俗に言う浮遊霊を『遊霊』という。そしてもうひとつが『悪霊』の類だ。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・へー」
やる気なし。
「悪霊や動物霊、自縛霊などは、まとめて『ゴースト』と呼ばれることもある。」
「・・・・」
またまた似合わない横文字ですか。
「理解できたか?」
「・・・・・は」
ため息交じりの返答。
「オレ達が払うのはそのゴーストだ」
「・・・・・」
沈黙。
「・・・・・なぁ」
また音華。
「なんだ」
「・・・・オレって、もしかしてまさに今、陰陽師になる訓練、してんのか?」
顔も合わせず。ミズナをほおばり言った。
「何を今更」
沈黙。顔も合わせず。
ガシャン。
「帰る」
「待て」
音華が立ち上がり汲・、とする。芳河が止める。
「一体なんだと思っていたんだお前は。」
「やかましい!俺は見たもんしか信じねぇ!鬼は信じても霊は信じねぇ!つぅかそんなオカルトな職業に付けるか!」
ズカズカズカ。音華が歩く。芳河が追いかける。二人とも、右手に箸。
「愚弄するな。阿呆が」
「うっせぇ!もっとマトモな職に就く!霊媒師で金が稼げるか!」
「お前がまともな職に就けるのか?」
「殺すぞ!」
ズカズカズカ。スパーン!
音華が貰った自室のふすまを閉める。
「・・・・・・・・・・・やれやれ」
芳河が頭をかいて回れ右。
「ほっほ。」
「・・・」
芳河の横にすっと現われていたのは婆。
「なかなか手を焼いてるようじゃのぉ。」
「まったくです。」
着物も自分で満足に着れない。音華の服はいつも適当だった。
「霊を信じんか」
「・・・はい。」
「・・・・困ったもんじゃのぉ」
「・・・・・」
一方音華の部屋。
「・・・ありえねぇ!オレが霊媒師?!ざっけんなっての!」
ごっそごっそ、カバンに荷物を詰める。
「・・・・・・・・・霊・・・・か」
手を止めた。母という言葉が頭に浮んだ。でも、消した。
「・・・・しかし・・・帰れもしねぇしな・・・・・」
はっとため息をつく。すると。
チリーン・・・・・・・・
「・・・?」
鈴のような音が、した。音華は立ち上がり、外を覗く。
「・・・・・・・なんだ・・・?」
障子を開け、外の誰も居ない廊下を歩き出した。
「・・・・!」
門の所に、女が一人立っていたのが見えた。変な感じがした。この寺で、芳河と婆以外に未だに会ったことがなかったからだ。門の所にもう一人の人が見えた。婆だ。
「・・・・ババァ・・・の。知り合いか・・・?」
音華はもっと寄っていった。その女性とババアと、ついでに芳河はこちらへ歩いてきた。
「・・・ぃ・・・!」
出会うのも気まずかったし、音華はとっさに影に隠れ、3人がそこを通り過ぎて行くのを横目で見つめた。そして、言うまでもなく、後を追ったわけだ。
「・・・・・・・なんだ・・・?」
その3人からは異様な空気が出ていた。女は明らかに俯き、歩く。それに引き換え、婆と芳河の表情は厳しさすら見える。
「・・・・・・・・。」
3人は1つの部屋に入っていった。結構奥まで来たもんだ。こんな所まで来た事はない。
「・・・それにしても人の気配のない寺だな・・・・・。」
こんなに大きいのに。一種の城のようだ。
「・・・・・・・」
暫らく黙って見ていた。
――音すら聞こえねぇ・・・・なにしてんだ・・・

ギシ・・・

「・・・・・・・・・・・」
後ろ。右肩の、後ろに。
「・・・・っ」
凄い形相の女が、無言で突っ立っていた。
「・・・・・・・・・・・・・・・!!!」
体中の毛が逆立つ感じ。音華は声を上げなかった、上げれなかった、訳ではない。
「・・・・お・・・お前・・・・あの女の、付き添いかなんかか・・・?」
小さく、尋ねた。
「・・・・・・・・・・」
応えない。
「・・・・客か・・・。ちょっと待てよ・・?あいつら呼んでくっから」
全身がざわめくのが薄れて行くのを感じながら、音華は歩き出した。
「おい。婆、客だぜ」
障子を前にして、音華はぶっきらぼうに言った。
「・・・・・・・・・・・・・」
応えない。むか。
スパーン!
「客だっつってんだろ!しかとすんな!!!」
思いっきり、障子をあけた。
―――――・・・・・・
そこには怯えたような顔で部屋の真ん中に正座しているさっきの女に、芳河と婆が向きあい、正座していた。神妙な空気としか言いようがなかった。
「この阿呆が」
芳河が呟いたのが聞こえた。
「んだよ!客連れてきてやったんだろ!!!むしろ感謝しろ・・・!!!!」
指差し、後ろを振り向いた。
「・・・・・・・・・・・・・・・あ・・・・・・・・・・・・・・・れ・・・・・・・・・・・?」
誰も居なかった。静かな庭が後ろにあるだけだった。
その瞬間。
ガタ―――――――――――ン!!!!!!!!!
「!!!!!!!!!!!!」
ミシミシミシミシ・・・・!!!!!響き渡る音。そしてえぐれた柱。
「なんだ!?」
音華が構えた。
「いわゆる、・・・ポルターガイスト、と言えばそのお頭でも理解できるか?ひどい霊圧だ・・・・。・・この阿呆。」
「はぁ?!?」
「ほっほ。」
婆が音華の側にひょいっとやってきた。
「その客とやらはあの女qを追ってきたゴーストや。お前・・・悪霊に恩売ってどないするつもりかいね?」
「・・・・・・・・・っ!」
「霊と人間の区別もつかんのか。」
「・・・・・・っ!」
言われたい放題である。
「きゃああああああああっ!」
女が泣き叫んでた。いきなり彼女の体のところどころにあざのような傷が浮び出した。
「・・・・・・!」
「よっぽどもの訴えたいようだな・・・。」
「しかたないのぉ。人形を使うぞ。主は霊魂を人形にはめ込め。」
「はい。」
芳河がなにやら構えだした。手にはなにかシャンシャンなるような棒。
「オン!」
婆が叫んだと同時に白い人形の紙切れが宙に舞い、そしてバサバサ言いながら宙に止まった。
「!」
なんだこれは、と言うしかない。
「芳河!」
「はい!」
芳河が棒を構えて、なにやらブツブツ唱えだした。
「・・・ぅゎ・・・。」
すると、空気が明らかに変わったのが分かった。それまでなにかがビリビリと大気を揺らしていたが、それが無理矢理抑えこめられていくのが分かった。同時に、あの白い紙人形が不自然にもがいていた。
「・・・オン。」
ボツン。芳河がそういった瞬間に。白い紙人形が、ビン!と止まった。そして、床にハラハラと落ちて舞った。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
「げっほ・・げほ!」
女が喉を抑えて苦しそうにしていた。咳が響く。この沈黙。
「大丈夫か・・・?」
音華が彼女に近づいた。そして気がついた。彼女の首筋に、今日付いたのだけではない、赤いあざがいくつもいくつもあることに。
「まさか・・・これ・・・。」
音華が愕然とした。そして紙切れを見る。
「名は。」
芳河が突然問うた。その人形に。
「・・・・・・嘘だろ・・・?」
答えるわけないと思った。
「・・・・・・・答えろ。名は、なんと言う。」
続けた。
「・・・・・・・・・・・。」
びりびり・・・・ェ揺れた。
「・・・何故この人をつけ狙う。理由があるか。」
「・・・・・・・・・うぅ・・・」
「!」
人形から声がした。女の声だ。恨めしそうな。
「とった・・・・・その女が・・・・・とった。」
「・・・・・・・・・・とった・・・・?」
音華が紙を見ながら言った。
「私の・・・・すべて・・・・とった・・・・。あの・・・・・・・・ひ・・・あの・・・ひ・・・とあ・・・あぁっぁぁぁぁっぁぁl!」
「!」
背筋が凍った。
「なるほど、女の情念はこわいからのぉ。」
ほっほとわらう婆。
「愚かな。」
芳河がまたブツブツ唱えだした。
「生きてるうちから闇に手を出すな。オン!
ブア!っとあたりに風が舞った。
「!」
目をつぶるしかない。次に目を開けて辺りを見たときは、あたりに立ちこめていた嫌な感じも、なかった。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。え・・・・。」
音華は、何が起こったのか分からないまま。唖然とした。
「・・・人形が。」
真っ二つに切れていた。
「・・・・・・・・渡辺さん。」
芳河が静かに女性に話しかけた。
「最近、周りでいざこざがありましたか・・・?」
「・・・・・・・・・・。・・・・・・さ・・・・・。最近・・・・・・・・。」
女は、口をつぐんだ。
「男を、取り合った覚えはないかの?」
婆も女に寄って問う。
「・・・・・・・・・は・・・・・はい。」
「・・・・・・・・女の生霊じゃ。主、恨みを買ったのぉ。」
「・・・・。そん・・。」
「生きているうち、恨みがはれぬのなら、いくら断ち切っても、あの女は生霊となり、お主を苦しめようとする。」
「・・・・・・・・っ!」
「ただ、厄介なのは・・・・、のぉ芳河。」
「はい。」
芳河が婆を見る。
「あやかしが憑いておったが、何と見た?」
「・・・・・・・狐。狐が女の情念を喰い、女に違法の力を与えてます。」
「ふむ・・・ならば、まずそのあやかしを、打ち切らねばのう。」
婆は立ち上がる。
「まだそこにおるであろう?狐よ。」
「・・・・・。」
音華は息を呑んだ。
「!」
カサカサカサカサ・・・・。さっきのぱっくり切れた紙の人形が震えだした。そして、また宙に浮いた。
「・・・・・・・・邪魔・・・・・・・する・・・な・・・。」
恐ろしい声だった。女の声じゃない。
「邪魔・・・?ほっほ。」
「たわけが。悪ふざけがすぎるぞ、狐。」
ばっ!芳河が札を持って構えた。
「!」
音華はただ目を丸くする。
ヤマカザネヤマノカミアビラヌタカザフウリカザノミミコトヲカリ我此処ニ蜥イ伏ス・・・・・・・オン
「ぅ・・・わッ!!」
ブァ!!!!!風が起こった気がした。
その瞬間、確かに見たんだ。犬のような猫のような禍々しい何かが、苦しみもだえながら消えてくのを。
この目で見た。
一瞬、あたりが暗転したように見えた。汗がますます頬を伝った。
芳河の顔が、やけに涼しげに見えて、怖かった。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
「口、あいてるぞ。」
「!」
芳河がこちらをちらと見てそういったので、音華はとっさに口に手をやった。
「大丈夫ですか。」
芳河は女に手を差し伸べた。こっちも一応腰ぬけてるんですけど。
「・・・・・今、あなたを苦しめていた生霊の違法の力の元は、断ち切りました。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・わた・・・・私・・・っ。」
ボロボロと流れる涙。声は震えてた。それは、さっきの化け物に対する恐怖とかではないように見えた。
「生霊は厄介じゃぞ。」
「!」
彼女はびくっと肩をすくめた。婆は構わず進めた。
「魂は現世としっかり繋がっている。今は生霊としての力を失っても、また別の悪鬼たちが彼女の魂を得んと悪知恵を貸す。力を与える。するとまた魂は体を抜け出す力を得て、主を再度狙うだろう。」
「どうしたら・・・!どうしたらいいんですか・・・・!」
彼女は泣いていた。
「どれ。わしが往くかの。」
トン。と婆は立ち上がった。
「いえ、峰寿に行かせましょう。アレももうすぐ本邸から帰ります。」
「そうかの。」
婆はひひと笑って、女を見た。
「案ずるな。こちらの者をそちらに向かわせる。」
「私の・・・ところへ・・・・?」
涙が止まった。
「いや。」
婆はにいと笑った。
「主を苦しめた張本人の元へ。」
「!!!!!!!!」
彼女は驚愕してるように見えた。
「やめ・・・やめてください・・・!」
「ならば主が往け。」
「!」
「己がまいた種には変わりない。主が彼女と和解をすれば確実に生霊は止められる。」
「それは・・・・・ッ!」
言葉を詰まらせた。どうやら相当な事情があるらしい。
「聞き入れてください。」
芳河も言った。
「これは、あなたを守るためですが。その女を救うことでもある。」
「・・・・・・・・・・・・・え・・・・?」
「その女も、魂が体から抜け出す毎に失っているものがある。直に、後戻りできなくなる。」
「・・・・・・・・・・・・っでも・・!」
「あぁ、ソレは自業自得だが、あなたを助けるということは、そういうことです。」
「主も、その女を苦しめたということを、ゆめゆめ忘れるでないぞ。」
「・・・・・・・!」
女はまた泣きそうな顔をした。
「現世でも死界でも、魂の重さは、平等なのじゃ。苦しめた分は苦しめられる。もしソレを逃れる時が来るとすれば、相手もその苦しみから逃れられるようになる時じゃ。我々陰陽師は、その均衡が崩れているのが他の悪霊のせいだと言う時、悪霊を討つものじゃ。一方的に逃げたい人間を、救うためではない。」
「・・・・・・・・・・・・・・・ッ!」
大粒の涙がまた。落ちた。
「ご住所を、ここにお書きください。」
芳河が筆と紙を小机とともに、崩れそうな彼女の前に置いた。彼女の顔はやつれてて、少し恨めしそうに芳河を見た。
だが、震えた手で、筆をしかと取り、住所を、書いた。

彼女は泣きながら帰った。


「・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
音華は暫らくの間絶句してた。
「おい。」
「!」
芳河が後ろから呼ぶ。
「お前、少しは大人しく出来んのか。」
「・・・・・・・・・・・なんだよ。」
だがいつもより、大人しいか。
「・・・・なんだ。お前、本物の霊をみて恐怖してるのか。」
「っ・・違う・・・。」
むきになったがそうだった。
「まったく、お前はまだ口寄せ体質を抑える術を身につけていないんだ。闇雲に動くな。」
芳河がため息をついて、住所の書かれた紙をクルクルと巻いた。そして小机をかたしはじめた。
「でも・・・・・・。」
「なんだ。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
しかめっつら。芳河は呆れてため息をついた。
「・・・・・・・生霊の・・・。」
「・・・・。」
音華がそっぽを向いて突っ立ったまま、呟きだした。
「・・・・生霊が・・・・・・失うものって・・・・なんだよ。」
「興味が涌いたのか。それはいい。」
「なんでもいいから教えろ。」
なんだよイチイチ。癇に障る!
「・・・・・・・・生命。」
「・・・・・・・いのち・・・・・・・・。」
「・・・・あぁ。生霊が体を抜け出て実態であるあの女に危害を及ぼす力を、まわりの・・・今回は悪鬼の狐だったが、まわりのものが霊に貸すといっただろう。」
「あぁ。」
「その対価として。生命。つまり、寿命を取られる。」
「!」
悪魔のようだと思った。
「寿命のやり取りは、まぁそんな珍しいものではない。やっかいなのは、死神との契約だ。」
「は?」
なんでいきなり西洋ちっくなんだよ!つっこみたかった。
「死神のいわゆる金は、寿命だからな。今回は悪鬼だったが、もし死神だった場合、俺たちの管轄外だった。」
「ちょ、ちょとまてよ。霊の次は、ずっと気になってたが、死神か!?なんでもありのファンタジーかこれは!」
「浅はかな考えだな。」
「んだとぉ。」
イラッと来ます。
「そのうち会えるさ。」
「いらねぇよ。そんな出会い。」
でも、後々会うことになる。
驚くべき、死神に。

on*** 4話 終わり

 

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