桃色の髪の毛が鮮やかで目を奪われた

「うー・・・・・・・・・。」
頭ががんがんする。朝。
「なんなんだ昨日のあれは・・・っ酒か?なんでこんな目にあうんだよ!」
昨夜、なにか透明な無味の水を飲まされた。
「清水だ。」
と差し出されて、何も考えずに飲みました。騙された気分だ。ちっくしょー。ぼけ!

昼。
「何してる。」
「勉強。」
「ほー。」
なんだその反応は。
「学校行けてねぇからな・・・。」
「必要あるのか?」
「就活ン時、評定関係するんだよ。」
「・・・・・・・・・・・・・就職先ならもう決まってるだろうが。」
「俺、此処から出て行くことを固く誓ってるから。」
「・・・好きにしろ。」
「する。」
音華は、数Uの問題にしがみついた。三角関数に苦難。
芳河はため息ついて出ていく。
「3時に客が来る。それまで、勉強。してていいぞ。」
「・・・・・・・・・・・・客?」
そう言った時にはあいつは居なかったけどね。

3時まわった。
「誰もこねぇじゃねぇか。」
バカにしてますか。きちんと数学と生物を終わらせたんですけど。時間内に。
音華は不機嫌そうに縁側に座ってブツブツ。
「あれぇー。」
「!」
無駄にかわいい声がした。
「あなたもしかして・・・っ音華ちゃんっ?」
振り向いたら、そこに。桃色の髪の毛。青い目。

「エリカ。」
「芳ちゃーん!」
ひょいっと駆け寄った軽やかな女だった。
「・・・・・・・・・・・。」
呆然と、ただ音華は見つめた。
「音華。挨拶しろ。エリカだ。」
「あ・・・・・・紫・・音華・・・です。」
ただただ桃色の髪に見とれて、しどろもどろで話す。エリカはふふっと笑って音華の手を取る。
「エリカ・西院音・グレイメンです。一応イギリス人っ。」
「あ・・・・あーうん。よろしく。」
苦手だ。かわいい、女の子は。
「実は姉妹なのよ音華ちゃんっ。私、若草殿の養女だから!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・え・・・・・・・・・・。」
心がまた疼いた。

言葉が出なくて。
謎な感情が渦巻いて。


「何してるの音華ちゃん。」
「・・・・・・・・・・化学。」
「へー。難しそう。」
ころころと笑う女の子。
「音華ちゃんいくつだっけ。あ、高2の教科書!そっか、じゃあ私が2個お姉さんだ!」
声が軽やかで、華やかってこういうことなんだろな、と思った。
「・・・・・あの。」
「あ。西院音っていうのは、お父さんの苗字なの。お母さんの旧姓は・・・・・・・・・―」
「あの!」
「!」
びっくりしてた。いきなりの大声。
「・・・・・・・・悪いけど、これ、ちょっと集中したいんだ。」
「あー・・・そっか!ごめん!」
にこっと笑って、エリカは立ち上がった。
「また、夕餉でね!」
そう言って、出ていった。音華はくしゃっと髪の毛をかき上げた。
昨日飲んだ清水の所為じゃない。頭が痛い。助けてくれ。

養女って。なに。
俺の母親って、なに。
なんで。養女がいるの。
なんで。俺は。
なんで。俺は。
なんで。俺は育ててもらえなかったの。
なんで。俺は、捨てられたの。

こんなに率直な感情をはじき出すのに、頭がパンクしそうだった。
結局この日は、夕餉をとらなかった。暗い天井を見てた。

「ねぇ芳ちゃん。」
「まだ芳ちゃんって呼ぶのか。」
「いいじゃない。じゃあなんて呼ぶの。」
芳河はため息をつく。
縁側。二人。
「音華ちゃんって、なんで音華なの?」
「知らん。」
「芳ちゃん、音華ちゃんになんにも話してないの?」
「・・・・・・・・・・・・・。」
エリカはくしゅくしゅの髪の毛をくるんと人差し指で絡めた。
「昔から変わんないのね。」
「・・・。」
「あの人の話をするのが嫌なの?」
「違う。」
「じゃあ、どうして・・・―――。」
「エリカ。」
芳河はそれだけ呟いた。エリカはふーっと小さく膨れた。
「音華ちゃん、待ってると思うんだけどなぁ。」


「おはよう音華ちゃん。」
「・・・おはようっす。」
アンニュイな顔。よく寝れなかったらしい。
「今日は私が付き合うわね。行水。」
「芳河は。」
「あれ、芳ちゃんの方が良かった?」
「・・・。」
それはない。
音華は今日は文句のひとつも言わずこの軽やかな女の後ろを歩いた。
「今日から死呪の練習だって。」
「しじゅ?」
なんだその、恐ろしいものは。
「霊に対してつかう言葉よ。基本的には死神が使うものなんだけどね。これがまた楽なのっ。陰陽術使うより。」
「・・・・・・・・・・・・・陰陽術。」
「うん。ほら、芳ちゃんとか、婆やが使うの。見たことある?」
「・・・・・オン・・・ってやつ?」
「そう。」
にこっと笑って頷く。
「式神を飛ばしたりね、そういうのは特殊な訓練が必要なんだけど。死呪は霊力ある人なら誰でも使えるから。」
「・・・。」
「まぁもちろん、人間が使えるのは簡単なものが殆んどだけど。」
「例えば?」
めずらしく質問。芳河なら褒めてくるところだ。
「んー、例えば、悪霊の動きを止めたり。死呪は基本、短いからぱっと使えて便利なの。陰陽術はいろんなところから力を引き出して使うものだから、なかなか詠唱短縮してするのは難しいのよね。」
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
なんのこっちゃ、よく解かりはしなかったんだけど。とりあえず、水場まで来たので音華はいつも通り。水に足を入れた。

「これが死呪だ。」
「お前かよ。」
芳河がなんだ、と言った。
「エリカは今日は訪問者にあたってる。」
「また霊の事件解決ってやつですか。物騒な現世だな。」
憎たらしい口だ。
「霊が起こしてる事象なんて物は腐るほどある。人間が気が付かないだけだ。」
「見えないからな。」
「それに、殆んどが微小だからな。」
ふーん、と適当に流す音華。
「で、これだ。読めるか。」
「読めるわけねぇだろ。これ、絵だろ確実に。」
ぐにゃぐにゃの線。筆を拭いた跡にしか見えませんね。えぇ。
難解理解困難な解説は続く。

シャン!

「!」
「なんだ、どうした。」
半分格闘のような二人。音華が突然後ろ振り向いた。
「なんか今、鈴のような・・・。」
「・・・・・エリカだ。」
「・・・・・・ふーん。」
「エリカが霊を引きずり出してる。」
「手荒いな。」
「そうでもしなければ出て来ない。」
「ふーん。」
音華はじっと音のするほうを見つめたまま動かなかった。
「興味持ったのか。」
「1人で、霊を調伏するのか。」
「エリカはな。俺や婆やもそうだ。力の強い人間は1人でする。下手に周りを巻き込むことがないからな。」
「ふーん・・・・・・・・・・。」
「・・・若草殿もそうだったぞ。」
「・・・。」
くるっと音華は芳河を見た。
「なんだやっぱり待ってたのか。」
「は?」
「俺が若草殿の話をするの。」
かっとした。
「うるせぇ!どうでもいいから早く続けろ!」
「・・・・・・・・・・・・・・・そうか。」
そして続く死呪の説明。音華は一瞬後悔した。
「使ってみるか。」
「え。」
「死呪だ。」
「もうかよ。」
スパルタ芳河は一味違いますね。
「もうすぐ子鬼がこの辺りまで逃げてくる。」
「は?」
「動きを止めてみろ。」
「や、子鬼って、どんなんだ・・・・。」
はっとする、芳河の後ろにある障子に小さな異形の影。
ひょろひょろと何かからオドオド逃げているようだった。
芳河が不意に何かを言った。聞き取れなかったけど。するとスパンと障子が開いて、ぎょっとした一つ目の何か小さな生き物がこっちを見た。
「今だ。」
やけくそ交じりで音華は立ち上がった。
「相変わらず心に余裕持たせちゃくれねぇのかよ!」
「速くしろ逃げるぞ。」
子鬼は驚いたように背を向けて庭へ走り出した。
「えーっと・・・オンギライカミノカミフウシュダ!!!!!」
音華がめいいっぱいその子鬼を指指して叫んだ。
シュボ!
「!」
なんか変な音がして、その子鬼は動きを止めた。というか、宙に浮いて止まった。
「こ・・・・これでいいのか・・・・・・・・・・?」
音華がおそるおそる振り向いた。
「・・・・・・・・・・。」
芳河は驚いたような顔をしてた。
「なっなんだよそのアホ面、だめだったのか?」
「・・・・・・・・・・・・・・・いや。」
芳河が立ち上がった。
「オン!」
指を組んで、そう言った。すると宙に浮遊していた鬼は、歪んで消えた。
しばしの沈黙。
「すげ・・・俺、魔法みたいなの使っちまったよ・・・・。」
今更じわっと涌いてきた興奮。
「音華。」
「へ?」
「今のドコで覚えた死呪だ。教えていないだろう、今のは。」
芳河が驚いた理由が分かった。
「あ、・・・・さっき覚えたのはまだちゃんと覚えてなかったから。お前が前言ってたやつ。あれなんか耳に残っててとっさで。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・。」
「なんだよ、別にいいだろ!できたんだから・・・!」
「いや、いいんだが・・・・・・・・・・・。」
煮え切らないなぁ。
「今のは、厳密に言うと死呪ではない。」
芳河。
「死呪と、術のブレンドというか・・・。若草殿がよく使っていたものだ。」
「え・・・・・・。」
音華は突っ立ったままその言葉を聞いてまた心臓が鳴ったのを覚えた。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・血か・・・・・・・・・。」
「へ?」
芳河がそう呟いたのを、音華は聞き取れなかったようだ。
「いや、お前にしてはよく出来過ぎたほうだ。」
「んだとぉ。」
喧嘩売ってますか。その言い方。
「ただ死呪は覚えておけ。勉強で頭は使ってるんだ、それなりのオツムなんだろ。」
「中堅高校ですが。なにか。」
言い返す。音華は不良だったがなぜか勉強はきちんとしていた。
先生への、恩返しのために。それなりにいい仕事をするために。
「それなら覚えられるだろ。毎朝実践させる。覚えろ。」
ほい、と差し出される。本、かなり古い紙でできたそれ。
「・・・・・・・・これ全部かよ。」
「少しずつでいい。」
「・・・・・・。」
いや、これ、完全に100ページはあるでしょう。
結局、化学や数学に使う時間と頭すら、こいつにとられることになった。

「・・・・・・・・・・・・血か。」
また呟いた。芳河。
「芳ちゃんっ。」
後ろからかわいらしい声がして芳河は振り向いた。
「終わったのか。」
「うん。結構骨折れる仕事だった。」
「子鬼、逃げてきたぞ。」
「あ、消しちゃった・・・?」
「あぁ。」
エリカは、はは、と笑った。
「だって、子鬼達はたいしたこと、やらかさないもの。」
「育てばどうなるかくらい分かるだろ。」
「分かってるわよ。」
ちょっとむっとしてエリカが言う。
「逃がすのもいいが・・・、あんまり良いとは思わない。」
「根こそぎ殺すの、嫌なのよ。」
「・・・・・・・・・。」
芳河ははぁ、とため息をついて外を見た。縁側。
「ヘマはしないわよ。」
「分かってる。」
「音華ちゃんは?」
「あいつは、・・・・・勉強だ。」
「数学?」
エリカは笑った。
「いや、死呪。」
「へーっ、使えたの?」
「・・・・・・術詛を使った。」
「え?」
「俺のみようみまね、とか言って。なんなく、使った。」
「・・・・・・・・・・・へー・・・。」
エリカは感心したような、呆れたような顔をした。
「血か。」
「そうだね・・・。」
「死呪は、きっと問題なく仕えるだろう。」
「多分ね。」
「恐ろしいな。」
「怖いの?」
エリカがちゃかす。
「俺らが術詛使うのにどれだけ苦労したと思ってる。」
「そうね。式神すら、なんなく出してしまいそう。」
「あいつが此処に帰ってきたら、騒がしくなりそうだな。」
「そうねー。それはそれでおもしろくない?」
笑う。
「この調子で行くと、直ぐに陰陽術すら遣うようになりそう。」
「あいつの意思とは関係なくな。」
エリカがすこし驚いた顔をした。
「芳ちゃんらしくないね。」
「何が。」
「他人の意思とか、考えるんだ。」
「俺は人でなしか。それくらいする。」
「いやいや、そうじゃなくて。陰陽に関することで芳ちゃんが・・・・・。まぁいいや。」
エリカが諦めたようにそう言った。

「これがどうで?・・・これが、それか。」
ブツブツ。
「・・・・・・・・・・・・。」
頭が沸きそうだ。
「数学やろかな。・・・・・・いやいやいやいや、あいつに馬鹿扱いされるのはいやだ!絶対覚えてやる!」
独り言。ブツブツ。机にかじりついて、音華は死呪を覚える。
いつのまにか、桃色の髪の毛に対するもやもやも消えていた。


On6 *** 終わり



 

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