―――飛び出したのは、二人。

誰の声か分からないが、響いた。
叫び声だった。
名前を呼ぶかのような、声だった。

「おばあちゃん!」
峰寿の手をするりとぬけて、走り出したのは吉野だった。
「よ・・・!」
そして、すぐそばを通り抜けたのは。
「音華!」
彼女だった。
音華は吉野の手を掴み、引き寄せた。
飛び出すとはいえ、誰かをかばって自分が身代わりになったわけじゃない。
引っ張り戻して、陣の中心に戻して、きちんと術を発動させれば問題ない。
音華の一瞬の思考がそう判断したんだろう。

だけど。
瞬く瞬間に、そこは真っ暗になっていた。
「・・・・・・・・・・・・え?あれ・・・?」
音華はあたりを見渡した。
「・・・浮いてる・・・。」
自分はまるで水中の死体のように浮いている。
だが、苦しくない。
軽くもない。
なんだ此処。
どこだ今。
俺は、なんでこんな処に?
飲みこまれるはずがない。なんでだ?
俺はあの化け物の傍にはいかなかった。
引っ張って、触れていたのは、吉野だけだった。
「・・・・・・・・もしかして・・・・。」
はっと思った。
峰寿が使う術のようなものを奴が使っていたとしたら?
触れたものに繋がっていれば、その繋がっているすべての者が術の対象者になる。
そのようなものをあの化け物が使っていたら・・・?
吉野が飲まれれば、その吉野に触れていた自分も同じく飲まれたことになるのでは。
「・・・・・・・・・・・やべー・・・・・・・・。」
汗が伝う。
一番最後に入ったのは俺ってことに・・・なるのか?
それとも、吉野と同時だった?
なんにせよ、この真っ暗闇の中に浮いているということは、出れる見込みはないんだろう。
はは・・・と音華は笑った。
笑った後、急速に体温が下がった。
やばい。
やばいだろ。
なにしてんだ俺。
頭がぐるぐるしてきた。
芳河にあれほど言われたのに。あれほど。心配をかけたのに。なにやってんだ俺。
「ばっか・・・!じゃねーの・・・?」
震えてきた。
あと3分も持たない。術は。正直。
だけど、逃す手もない。このチャンスを逃せば、こいつは警戒して二度と芳河たちの前に現れないかもしれない。
そしたらこの化け物は誰が消してやる?
また、誰か神隠しにあって、永遠に、輪廻のように繰り返すのか?
そんな莫迦なこと。させるわけがない。させてくれんな!
芳河・・・!エリカ!峰寿!
術、発動するんだろ・・・!早く!
体はがたがた震えるものの、それを望む自分がいた。
消えてしまいたくはない。
消えたくない。
死にたくない。
でも。
きっと、俺は、それでも納得できる。
「芳河!」
叫んだ。
「ほ・・・・―――」
叫んだら、目の前に現れた。

「音華!」
芳河が叫んだ瞬間に音華の体は吸い込まれるように消えた。
「音華ちゃん!」
峰寿も目の色を変えて叫んだ。エリカが動けないまま、ただ蔓の肩を抱いていた。
エリカがすぐに心配したのは芳河だった。
「芳ちゃん!」
呼んだ。
びくっと、芳河の体が揺れる。
「動いちゃだめだよ。」
じっと見つめた。
その芳河の顔は青く、相当動揺してるのが窺えた。
「・・・・分かっている。」
そう、小さい声で呟いた。
だが、納得できていない。
峰寿は、呆然としながらも、真赤な目の化け物を見据えていた。
術は発動させ続けている。
あとは、奴に自分から触れればいい。触れれば・・・・。
消える。
陣が発動して、消える。
消える?
何が。
音華ちゃんも?
ぞくっとする。
俺はどうしたらいい。
どうしたらいい。
そればかりが浮かんでは消える。
時間だけがたつ。
「・・・なぜ、誰も出てこない。」
芳河が呟いた。
これでは動けない。
悪鬼もなぜか全く動かない。
沈黙している。
陣の限界まで、あと3分。


「・・・誰・・・だ・・・?」
音華は震える声で問いかける。
目の前に現れたのは老婆だった。
うっすらと微笑んでいる。
そして音華に近づいた。
警戒はした。
だけど、どうしても悪いものには思えなかった。
「・・・もしかして。吉野の・・・婆ちゃんか・・・。」
彼女は頷いた。
「此処にいてはならんよ。」
「・・・で・・も。俺・・・。」
だって、俺、入ってしまったのは望んでじゃないし、もはや出ることも叶わない。
「ええ?よう聞きよ。親指をこう、手の平で隠してゆっくり握り。」
「・・・え。う。うん。」
「それで、絶対に声を漏らさないこと。そして、このまま後ろを振り返ってまっすぐ歩くんよ。走ったらいけん。急がんでええからね。」
「・・・え・・・あの。」
「後ろは振り向いてもええけど、絶対に戻って来てはいけませんよ。」
「・・・なぁ。あの!」
次々に注文をつけられる。だけど聞きたいことがあった。
「なんね。」
微笑んで彼女は聞き返した。
「・・・俺、どうなるの・・・。」
「帰れるよ。帰り。」
「・・・じゃ・・・じゃあ!誰が、此処に・・・。」
微笑む。
「・・・吉野をね。」
「吉野が?」
「ちゃうよ。」
音華を撫でた。
「吉野を、連れて帰ってほしいんよ。」
「・・・・・・・。婆ちゃん・・・・。」
「お嬢さん。吉野が妙なものを見ることができるんは私の血を受け継いだからだけやないんよ。」
「・・・・え?」
「この黒沼に襲われたときにね、吉野の眼に黒沼の破片が入りこんだんよ。」
「・・・目・・・・。」
頷く。
「吉野がのみ込まれるのも時間の問題やった。じゃけえ、身代わりとして私が食われ、内から術を発し、吉野の眼から少しずつこいつが抜け出していくようにしていたんよ。それが完全に終われば、吉野が黒沼に脅かされる心配はなくなるけえ。」
「・・・術・・・。」
「私も陰陽師の家の端くれなんよ。」
ふふっと彼女は笑った。
「大崎の法師様と相談して、そのようにしたん。・・・あと少しやったんやけどね。あのおてんばのことや、言いつけを破ったんやろう。」
嬉しそうに笑う。
「お嬢さん。」
音華の手をとった。
「・・・音華です。・・・紫・・・音華。」
「音華ちゃん。」
にこりと笑う。
「一緒に出て行って。吉野と。」
「・・・あなたは。」
「私は残ります。外に出るには、きっと身体が持たん。それにあの方とも約束してたんよ。吉野が此処に戻った時は、私ごと黒沼を消すて。」
「・・・でも。」
「私の寿命はきっととっくに尽きとるんよ。此処におったから、死なずにおれただけ。」
「・・・・。」
「外に出れば死ぬしかないお婆さんより、若いあなた達に、生きてほしいわ。」
「・・・・・・・・でも。」
吉野は納得しないだろう。
「今度は、ちゃんと消しよ?私ごと。ちゃんと消すんよ?」
「・・・・・・・・・・・。」
涙が出た。
「ありがとう。最後に吉野に会えて、嬉しかった。ありがとうね。」
音華の手を離し、彼女は一歩遠ざかった。
「先ほど言ったとおりに、帰れば、帰れるからね。吉野も一緒に。」
音華は涙をぬぐって頷いた。
「ありがとう。」
「・・・ありがとう・・・。」
お互いにお礼を言って、音華は歩き出した。
暗闇を、一人。ぎゅっと手を握り締めながら。

涙が、うわんうわんと暗闇に浮き上がる。
音華はそれだけを見つめて、ただ、歩き続けた。

「・・・殴られるな。」
っていうか。
殴ってくれ。
芳河。


「蔓ちゃん、しっかり捕まってて。」
「え?」
「峰寿・・・ッ!」
エリカが懐中時計に目をやってから、叫んだ。
あと、30秒だ。
決断を。
強いられたときだった。
ドドドドドドッドドサ!
音華と吉野が、勢いよく飛び出してきた。
「!!!!!!!!!!!!!!」
音華が吉野をかばうように抱きしめた格好だ。
「峰寿!」
芳河が叫んだ。
「おう!」
峰寿が走って、手を伸ばし、そして。
触れた。
黒い、ヤツに。

ボッ!

術が、発動した。
蔓は耳をふさいだ。
耐え切れないような悲鳴が聞こえた。
空気が振動する。怒りか、恐れか、何かが空気を揺さぶるのだ。
巻き起こる。風。
峰寿は歯を食いしばりながら術を発動させていた。
その術がきっかけで陣が発動し、山全体が光で包まれた。

轟音と光の中で、おばあちゃん、と泣き叫ぶ声が聞こえた。


―――消えることを受け入れる強さは、どこから沸くんだろう。



目を覚ますと、すぐそばに芳河がいた。
「・・・芳河。」
「・・・阿呆。」
一言めが、阿呆か。・・・でもいいや。
「・・・ごめん。」
「あれほど言っただろうが。」
「うん・・・。ごめん。」
芳河が優しく、横たわる音華の額を撫でた。
温かくて、ふいに、ここが現実だと実感した。
「・・・どうした。」
「・・・なぁ。俺、話したよ。」
「誰とだ。」
「吉野の婆ちゃんと。」
「・・・あの中でか。」
頷いた。
「芳河。」
「なんだ。」
「・・・殴ってくれ。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・なんでだ。」
「いいから。」
芳河はため息をついた。
「阿呆。」
また、撫でられた。優しくて、苦しかった。
「峰寿は。」
「・・・無事だ。」
「エリカと蔓は・・・無事・・・だよな。」
「あぁ心配ない。蔓はあの後、エリカがちゃんと送ってきた。」
「吉野は?!」
あっと思って、がばっと起き上がった。
肩が痛かった。すりむいたらしい。
「無事だ。向こうで寝てる。」
「・・・そっか。」
息をついた。
「・・・消した・・・?」
「・・・あぁ。」
沈黙が流れた。
音華は俯いた。
分かってた。
音華は深いため息をついて、両手で目を覆った。
「・・・寝ておけ。まだ夜は深い。」
ちらりと時計を見ると2時半だった。相変わらず遅寝だなコイツ。
「や、起きてたい。あんまり、疲れてない。」
「・・・そうか。」
「歩いてきていいか。」
「・・・・・・・・・一緒に行く。」
過保護だ。
相変わらず。


煙草に火をつけた。
「・・・あ、吸ってよかったっけ。」
「かまわない。」
「そか、峰寿と2人だったら全然吸うけど、お前といて吸ったことほぼねぇからな。」
「・・・・そうか。」
煙を吐きながら、目がしみた。
「吉野・・・なんて。」
「・・・一人にしてくれと。」
「・・・俺。頼まれたんだ。あいつの婆ちゃんに。」
「何をだ。」
「・・・連れて行ってやってくれって。でも、それって吉野にとっていいことだったかなって。」
目を閉じた。
夏の虫が、鳴いている。
「消える覚悟が、あの婆さんにはあった。・・・俺、怖かったんだ。」
目を開ける。
空は満天だった。
「俺、消えるの怖かった。死にたくないって思った。でも、消えても仕方ないって思った。それでも覚悟なんてなかった。でも、あの人は違ったんだ。吉野のために自分で消えることを選択してたんだ。あそこに篭ること、自ら選んでたんだ。」
「・・・そうか。」
「でも吉野には失う覚悟はなかった。だから、これでよかったのか、分からない。」
風を感じた。
涼しいな。
「勝手に先立たれるって、辛いんだよ。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・そうか。」
死に目に会えなかった。
母親にも。あやにも。会えなかった。
「だから、吉野は・・・。ああ、わかんね。何が言いたかったのか。」
「・・・あぁ。」
芳河はただ黙って聞いてた。
「だから・・・ごめんな。芳河。」
「え?」
「俺、勝手に消えるところだった。心配かけて、悪かった。」
「・・・本当だ。阿呆。」
ははっと音華は笑った。
「やっぱ、俺、だめだな。もっと認めてくれ、なんて。まじ大口。」
「音華。」
「ごめん。俺、やっぱ・・・。」
ぼろっと。
また涙が出た。
「・・・ダメだ・・・っ。」
うずくまった。
「・・・音華・・・。」
芳河が音華の肩を抱いた。
手の平が温かくて、なぜか一層悔しさがこみ上げてきた。
煙草は道上に落ちて、風に吹かれた煙がゆらゆら揺れていた。

「は――――。」
その影で、煙を吐きながら峰寿がため息をついた。
「・・・デッバガメー?」
「おあ!?」
エリカがひょいっと峰寿の横に現れた。
「しーっ!」
「・・・お!おう・・・。」
エリカが笑った。
「音華ちゃんと芳ちゃんが一緒に出て行ったの見て、おやっと思ってさー。」
「そ、そか。俺は煙草買おうと思って出てきた。」
「ははっ・・・―――。って、ずっとね。聞こうと思ってたんだけど。」
「ん?」
「峰寿って、ヤキモチ焼いたりしないの。」
「・・・んー・・・。ヤキモチ・・・?」
峰寿がふっと考えるようにして空を見上げた。
煙草はエリカに煙が行かないように下に向けている。
「そう。」
「・・・ヤキモチねー・・・・。」
ははっと笑った。
「俺はさぁ。嫌なんだよな。」
「何が?」
「争うの。」
「・・・。」
「誰とも、何についても、争いたくないんだ。」
「・・・峰寿・・・。」
「や、抗わなきゃいけないことってあるよ。競わなきゃいけないことも。争わなきゃ、なことも。」
峰寿はうっすら笑っていた。
「でも、俺は幸せなことなら、誰のことでも大歓迎だし、俺が幸せになれればそれも嬉しいけど、俺以外のやつが幸せになるのもすげー嬉しい。」
幸せそうに、そう言う峰寿の横顔が、すごく大人びて見える。
「俺、芳河に心配かけることのほうが多いけど。俺も芳河のこと、すっげー心配してんだ。」
「え?」
「あいつ、何にも言わねぇ時あるだろ。自分ばっかり押さえ込んでさ。」
「・・・かもねぇ。」
「損ばっかだぞ、あいつ。」
微笑んだ。
「俺ね。芳河には幸せになってほしいんだよね。」
「うん。」
「もちろん音華ちゃんにも。」
「うん。」
「だからさ。俺は二人が仲良くやってると、嬉しいんだよ。複雑ではあるけどね。」
「・・・・・・・・・そっか。」
エリカは微笑んだ。
「もちろん。」
峰寿はエリカの頭を撫でた。
「エリカにも、一番幸せになってほしい。」
「・・・・・・・・・・・・・・。」
「忘れなくて、いいんだよ。エリカ。」
エリカの頬に、涙が走った。
峰寿は微笑んだまま、じりじりと燃えて短くなる煙草を携帯灰皿に押し込んだ。
「分かった。」
エリカは呟いた。
「峰寿は、優しすぎるんだ。」
「あはは。褒められて光栄です。」
エリカの頬を伝う涙を、峰寿は見てみぬふりをしてただそばに居た。
エリカは涙を何度もぬぐっていた。


次の日、吉野は黙りこくったままだった。
「吉野・・・。」
音華は近くまで行って、話しかけた。
「・・・音華ちゃん。」
「・・・ことづけが、あるんだ。」
「・・・うん。おばあちゃんからだね。」
頷く。
ひととおり、話をした。
なぜ祖母があの化け物の中にいたのか。
そして、どうして自分たちがこちらへ戻ってこれたのか。
吉野はいくつか質問して、音華は答えられることには全て答えた。
吉野は、最後に涙を流して、こくりと頷いた。
「ありがとう。」
「・・・うん。」
それだけ、言った。
しばらく沈黙があって、吉野が呟くように言った。
「陰陽師って・・・なんなんだろう。」
「・・・え?」
「分からなくなった。ただ、悪い霊を退治するものなんだと、思ってた。」
「・・・俺も・・・まだ。分かんない。」
正直に言った。
「俺、覚悟なんて・・・なかったんじゃないかって・・・・・。」
悔しくて。悔しくて。
声がひっくり返りそうになった。
「いっぱいいっぱいで、これが誰のためなのか、何のためなのか。わかんなくなってることばっかで・・・。」
救わないことが、誰かの救いになるなんて。理不尽だ。
それを、この手で選ぶんだ。
俺には、そんな、覚悟も、そんな、強さも、ないんじゃないか。
「音華ちゃん。」
吉野が音華の肩に手を置いた。
「ありがとう。」
微笑んだ。
「どうして・・・?」
「そんな風に考えてくれてるってだけで、救われた。」
「・・・・・でも・・・。」
「ありがとう。」
にっこり吉野が笑ったので、音華も無理矢理笑った。
目の奥が熱かった。
「これからどうするんだ。」
「ん?」
「・・・陰陽師になるのか?」
「・・・うーん。考えてみる。私が陰陽師になりたかった理由って・・・結局おばあちゃんを、助けたかっただけなんだよ。」
「うん。」
「・・・とにかく一度九州に帰るよ。」
「そっか・・・。」
吉野は頷いた。
「ありがとう。音華ちゃん。」

吉野は、明日の昼には発つと言って、挨拶をした。


「はー・・・。」
吉野が深い息を吐き、駅にたどり着いた。
「辛気臭い。」
「うわ!?」
驚いた。
のけぞる。
「み!峰寿!」
「驚きすぎ。」
「え!だって!だって!え!なんで?」
「見送りだよ。」
峰寿が笑った。
「・・・あ、そか。」
「元気で。」
「・・・うん。」
頷く。
「ありがとう。峰寿。峰寿に出会えて、よかった。」
「そう?俺は結構大変だった。」
「わーひっど!」
「あはは!・・・・・・・・・吉野ちゃん。」
「ん?」
「また会おう。」
峰寿が手を差し出した。吉野はその手を一度ジックリ見てから微笑んで、峰寿の手を取った。
「うん!会いに行く!」
「滅茶ブリの依頼なら、断るよ?」
「あはは!りょーかい!」
「じゃ。」
「じゃ!」
吉野はさわやかに手を振って走っていった。
峰寿はそれを穏やかな顔で見送り、姿が見えなくなってから駅に背を向けた。


「じゃ、私たち、行くね。」
「うん。」
峰寿が、エリカと音華の見送りをして微笑んだ。
「気をつけて。」
「うん。ありがと。」
エリカが笑う。
「音華ちゃん。」
「ん。」
「無茶、しないように!」
「・・・はーい。」
峰寿はアハハと笑って、音華の頭を撫でた。
「峰寿はこれからどうすんだ?」
「ん。芳河と帰るよ。芳河は岐阜まで帰るけど。」
「そか。」
「気をつけて。」
「うん。」
頷く。
「音華。」
芳河が今度は音華に声を掛ける。
「なんだよ。」
「・・・笑ってみろ。」
「あ?」
「笑え。」
「・・・は?なんで。」
「いいから。」
「・・・・・・・。」
一瞬躊躇して、音華はにーっと笑った。
「・・・変な顔。」
「おい!殺すぞ!!!!」
ぶち切れた。
「じゃあな。エリカ。気をつけていけよ。」
「うん!じゃあね!」
「っておい!てめ!次会ったら絶対殴る!殴るからな!」
「黙っていけ。」
わあわあ騒ぎながら、車は発進し、見えなくなった。
「・・・・・・何今の。」
峰寿が笑いをこらえて言った。
「・・・なんでもない。」
「ははっ、源氏の考えることはわかんねぇ!」
「・・・峰寿。」
支度を終わらせるため、宿に戻ろうとした峰寿を芳河が呼び止めた。
「ん。」
「・・・音華は、よく笑うか?」
「・・・?普通じゃね?」
「・・・そうか。」
「なんだお前。頭打ったのか?」
「なんでもない。急ぐぞ。」
「へいへい。・・・・・・・・・・・あ。」
「なんだ。」
「もしかしてヤキモチ?」
バシ!
殴られた。


On***出雲編第7話 終わり

おまけカット
 
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