エリカと音華ちゃんを足して割ったらこんな感じかな。

夏が来た。8月の中旬間近。
峰寿は鳴きだしたセミを目で探した。
峰寿はため息をつく。
久し振りの出雲だ。
どうしてこう、海が近い街はこう、独特の雰囲気があるんだろう。
「・・・お。」
土産屋に立ち寄った。
可愛らしい根付けをひょいと手に取る。
「あら、いらっしゃい。可愛いじゃろ。」
店のおばさんが近づいてきて笑った。
「何?女の子にお土産買うん?」
「あっはは。っていうか、女の子しかいないんだよなぁー。俺のまわりっ。」
「あっら。もてるんじゃねぇ!」
「ははッだっめだめ。上には上がいるから!光源氏が!」
笑う。
本当に誰とも話すことができる男だ。
「でもこれ、もらおうかな。」
「いくつ?」
「二つ。色違いでっ!姉妹なんだよね。」
「ええねぇ。はい750円。」
「はい。」
「ありがとねー。」
「こちらこそっ。じゃ!」
「またどうぞ〜。」
峰寿は懐に買ったお土産を突っ込んでその場を去った。
はかま姿でも何もつっこまれない。出雲大社のまわり。
まぁこの時期観光客で賑わってるから、やっぱりちょっとは浮くんだけど。
それでもまぁ、土産屋のおばちゃんとかは俺の恰好を見て不思議でもなんでもないらしい。
「相変わらず、あっついなぁ。」
出雲に来るのは一度や二度じゃない。
峰寿の前の仕事上、本当に何度も足を運んだ。
姫の立場は言ってしまえば山の主で、準神様だ。
彼女は何度もここを訪れる必要があったし、それに毎回峰寿は同行していた。
最近は婆やと一緒に行ってるみたいだけど。
そう考えたら、峰寿以外の陰陽師と姫が一緒にいるところをあまり見たことがない。
孤独。
峰寿は自分が姫から離れてみて初めて姫の孤立を感じた。
彼女は誰かに付き添いを頼めるほど、人を知らない。
今日は、峰寿は別件で此処を訪れていた。
姫の同行ではなく、お使い、といったところだ。
峰寿にその依頼が来たのも、なんだかうなずけた。
彼くらいにしか、頼めなかったのだ。
そういう意味では、信頼を最も置かれてたのかもしれない。
「音華ちゃんもエリカも明後日には来るな・・・。」
彼女たちも遅れて出雲に来る、と聞いていた。来週から北の霊山で修業をするらしい。
峰寿はついては行かないけれど、彼女たちは霊山に行く前に出雲に行きたい、と言っていた。
一緒に来れればよかったけれど、仕事の都合でそうもいかない。
そういうわけで峰寿は一足早く出雲へ到着していた。
ドッス!
「!?いっ!?」
突然のことだった。
ものすごい勢いで何かが背中にぶつかった。
結構な衝撃。テロですか。
「なななな・・・・何!?」
峰寿は慌てて振り向いた。涙目。
「あ!す!すいません!」
そこでこけていたのは女の子だった。
「・・・・・・・・は・・・はぁ。」
なんだこれ。こういうマンガみたいなのって実際に存在したんだ。
ちょっと感動を覚える、というか、感心をして峰寿は手を伸ばした。
「観光客だらけなんだから、走ったら人にぶつかるよ。急いでたの?」
「あ・・・!ううん!そうじゃない!」
「・・・じゃあどうしたの。結構な衝撃だったんですけど・・・。」
「ご!ごめんなさい!えっと、あなた見つけて走ったら急に止まれなくなっちゃって・・・」
「・・・俺に用?」
「うん!あなた、陰陽師でしょ!?」

エリカと音華ちゃん足して二で割ったら、こんな感じかもしれない。

少し釣り目の大きな眼は印象的だったし、元気な女の子ってオーラが丸出しだった。
「・・・陰陽師・・・って。よく分ったね。」
にこっと彼女は笑った。
「だって。色が違うものっ。」
「・・・色?」
彼女はすっと指で峰寿の輪郭をなぞるように空を切った。
「体から出てるオーラ。・・・霊圧ってんだっけ?」
「・・・は?」
何を言ってるんだろう。霊圧に色なんか付いてない。っていうか見るものではない。
「あっはは。信じてない。」
「や、俺見えないからさ。色とか。」
彼女はようやっと峰寿の手を取り立ち上がった。
「あるんだよ。色って。」
にこっと笑う。可愛い女の子だ。
「霊力がものすごく高い人ほど、濃い、赤に。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・赤・・・?俺、そんないかつい色しょってる?」
笑って見せた。彼女もふふっと笑った。
「深紅だよ。しかも霊圧の量も半端ない。それでその格好。」
袴のことか。
「陰陽師以外にあり得ないなぁって。」
「・・・で、君は激突してきたってわけ。」
「あははっ。ごめんなさい!なんだか嬉しくって。」
「・・・嬉しい?何、なんかのマニア?」
「違うよー!あなた、おもしろいね!」
「・・・関西人なんで。」
「そうなんだ!京都?」
「まぁね。」
話が途切れない。すごいな、この子。
「激突したのはごめんなさい!でも、見失いたくなくって。」
彼女はにこっと笑った。
「私っ陰陽師になるの!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・は?」

エリカと音華ちゃん足して二で割って、ちょっと頭のねじを抜いたら、こんな感じかもしんない。


「エリカー。」
「ん?」
「なんか、来てた。手紙。」
音華がエリカの部屋に入りながら言った。片手に封筒。
「あ、芳ちゃんだ!」
「あ、やっぱり?」
手渡す。
「読む?」
「エリカ宛だろ?」
「いいじゃん。久しぶりだなぁ。元気してるかな?」
「してんだろ、鬼のことだから。」
「あははっ!」
「あいつ絶対風邪とかひかないタイプだぜ。馬鹿なんだ。陰陽師バカ。」
「違いないっ。」
ビリビリ。
封筒を開ける。
「うわ。相変わらず達筆なことで。読めねぇよ逆に。」
「読める読めるっ。なになに?」
覗き込む。
「こっちは変わりなく、修行に励んでいる。そちらに変わりあれば、随時知らせてほしい。」
「・・・・・・・・なんだこれ。こいつ手紙って何か分かってる?学校で配られるプリント並に無機質だな。」
「いつもだよ〜。返事少ないし!えっと。・・・修業がひと段落すれば一度屋敷から出ることができそうだ。」
「・・・あいつ。基本出れねんだっけ?」
「そうだよー。修業中は籠るの。・・・峰寿がもうすぐ出雲に行くと聞いた。俺も一度出雲に行く用がある。むこうで会った時はよろしくと伝えておいてくれ。」
「・・・もう行っちまっただろ。ノットタイムリーだな。」
「あはは!絶対手紙書いてからすぐに投函してないタイプだよね〜。」
「文通できねぇ奴だな。」
「でもそっか。」
エリカがにこっと笑った。
「ね。もしかしたら、会えるかもね!」
「・・・・芳河に?出雲で?」
「うん!ね。会いたいね!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・べっつに。」
空を見た。
芳河。
一ヶ月半ほど前、一度、会ったきりだ。実体ではないが。
この屋敷が・・・大変なことになった時。
「・・・・・・峰寿はどこに泊まってるんだっけ?」
「あ、一門の屋敷があるんだ出雲に!宿みたいなもんなんだけど。そこで泊まってるよ。」
「そっか。芳河、そこに来るかな。」
「・・・やっぱ会いたいんだ?」
「ち!違うって!別に!会っても仕方ないだろ!」
「なんでー?」
にやにや。
「会ったって・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
つまる。
「・・・会ったって。俺。前より全然強くなってない。」
「・・・・・・・・・・・。」
「・・・恥ずかしい。」
「・・・強く、なってると思うけどね。」
エリカは微笑んで音華をなでた。
優しい手。
エリカを見る。
エリカの瞳に時々映る雲。かげり。
緋紗がいなくなったあの事件から、一ヶ月。
エリカはすぐ。いつもどおりの明るさを取り戻してた。
でも、きっと。そうなんだ。きっと、いつもそうやってきたんだ。
辛いことがあっても、悲しいことがあっても、いつもひた隠して明るく振舞える。
そういう。強い女の子なんだ。
「・・・ありがと。」
音華は照れて、うつむいた。


「陰陽師になるの・・・って。何。抱負?」
「ううん。なるのよ!」
「・・・陰陽師って、突然宣言してなるもんでもないんだけどな・・・。ただの霊能師みたいに。」
「ん?」
「由緒正しき・・・てのを重視したりしてるし。家柄ってのが一番条件にあがってくるし。一般的に存在すらあるのかないのかって感じだろ陰陽師って。そういう秘密裏なものだったりするんだよ。インターネットで調べても出てくるのは映画の情報とかばっかりだろ。陰陽師は現代じゃもはや組織で、その一門にいて初めてそう名乗るんだよ。」
「所属するの!もう決定済み!」
「・・・何、陰陽師募集っていう一般公募があったの?陰陽師採用試験みたいな?」
騙されてそう。
「ううん!スカウトよ!」
「・・・スカウト・・・。」
絶対騙されてそう。
「なに、事務所に?大丈夫?」
「あー!信じてないなぁ!」
「・・・だってなぁ。」
「結構おっきなところなのよー。有名だって言ってた。」
「はいはい。」
もういいや。
歩き出す。
「ね!あなたはどこの陰陽師?どこの組織?」
「言っただろ。秘密裏なんだよ。そう簡単にばらせない。」
ついてくる。
「でも!もしかしたら一緒のとこかも!あなたも知ってるかもよ?」
「・・・知らないよ。一般公募してるとこなんて。」
「スカウトだってば!」
「そうでした。」
彼女はにこにこしながらついてくる。
どうやってまくか。
「ね!西宰って知らない?」
ザッ・・・!
「わ!っと!」
峰寿が急に止まったので彼女はぶつかりかけた。
「・・・西・・・?」
振り向きながら問う。
「西宰。せーさいっていうの。知ってる?」
「・・・あぁ。まぁ。」
西?
西だって?
なんでこんな女の子がその名前を知ってる?
「・・・やっぱり!ほらね!嘘じゃないでしょ!」
「・・・本当に。そこにスカウトされたの?」
「うん!」
「・・・どうして?君、なんかした?」
「何も。」
「何も?」
「今とおんなじ!色があるって言っただけ。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
峰寿は眉をひそめた。
「ね!もしかして同じ?同じ陰陽一門!?」
「・・・・・・・・・・・・・・・秘密。」
にこっと笑ってごまかした。
「悪いこと言わない。」
完全に体を向き合わせて峰寿は真面目な顔をした。
「それ、手を引いたほうがいい。」
「・・・・どうして?」
わかんないか。
「・・・ただの助言。だけど、手を引いたほうがいい。」
あたりをちらりを見渡す。
こんなところ。誰かに見られたら。西の連中に見られたら。
どうなるか。
ぎりっと歯の奥を無意識に噛み締めていた。
緋紗みたいに、利用される。
・・・違うか。緋紗は。利用されたんじゃなかったか。
「・・・とにかく。西にかかわらないこと。それから、俺にかかわらないこと。」
「どうして?仲良くやりましょうよ。陰陽師同士。」
「・・・あのね。」
どう言ったもんかな。
「陰陽師だって・・・悪霊と闘えば死ぬこともあるんだよ。」
「知ってるわ。」
「・・・知ってる?教えられただけだろ。」
あっさりと言った彼女に少し苛ついた。
らしくない。冷たい言い方をしてしまった。
「知ってるわ。私、悪霊に殺されかけたんだもの。」
「・・!・・・え?」
「このあたりに昔住んでたの。あ、今は九州に住んでるんだけど。」
「・・・なまってないね。」
「あなただって、なまってないわよ?関西人なんでしょ?」
「・・・まーね。」
「このあたりの古い社に。昔、よく幽霊が出てた。」
「・・・見えたの?」
「見えた。怖かった。黒くて、大きくて、どろっとした人形みたいな・・・。」
「・・・悪鬼か・・・。」
「たぶん。そう呼ぶかどうかは知らない。でも襲われたことがあった。」
「・・・平気だったのか?」
「うん。助けられた。霊能者って言ってた。その人。」
「陰陽師?」
「違うと思う。でも、その時思ったんだ。人を殺そうとするのは悪いやつだって。人間だって霊だって関係ない!だったら私もあの人みたいに霊を退治することで人を守りたい!って!」
「・・・・・・・・・ご立派で。」
峰寿は何も言わなかった。
その霊だって、もとは善良な人かもしれないってこと。
「それでね。陰陽師になるために。まず私が出された条件。」
「・・・条件?」
「西宰に入るための。」
「・・・やっぱり採用試験なんじゃん。」
「ちーがーう!腕試し!」
「・・・何も教えてないくせに?」
「もーうるさいなぁ!茶々ばっかり入れないで!とにかく!私は、そう。その時の悪鬼を倒しにきたの!」
「・・・・・・・・・・・・・消されたんじゃなかったの?」
「ううん。あの人、消さなかった。」
「・・・消さなかったものを・・・わざわざ?」
「だって・・・」
峰寿はため息をついた。
なんだか話が見えたから。
「・・・俺、手伝わないよ?」
「え!」
意外そうな声だった。
「どうして!?」
「どうしてもこうしても、俺依頼されてないし。」
「だから今頼んでるのよ!」
「あのねー・・・。」
どうしたもんかな。この世間知らずなお嬢さん。
「陰陽師は善良なボランティアでもないんだよ。霊を消すことはもしかしたらその地域の霊の流れを変えてしまうかもしれない。特に社とかに住んでいる霊を相手にするときはね。だから極力・・・」
「だって!人に危害を加えようとするやつなんだよ!」
「危害を加えてくる奴にもいろいろいる。原因があったかもしれない。」
「私が悪かったってこと!?」
「そうじゃないかもしれない。でもそういう可能性だってあるんだよ。」
「・・・でも。」
「でも、じゃなくて。危ないからさ。」
しゅんとさせてしまった頭を撫でた。
「悪いこと言わない。首を突っ込まないほうがいいよ。」
「・・・。うん。わかった。」
「よし。」
「・・・ごめんなさい。変なこと言って。」
「いいよ。いいから。早いうちに家に帰りなよ。九州、なんだろ?」
頷く。
「名前、聞いてもいい?」
「あ、忘れてた。ごめんごめん。俺、峰寿。峰寿泰樹。」
「泰樹・・・。」
「皆は峰寿って呼ぶけどね。」
にこっと笑う。
「私、藍川吉野。」
「吉野。いい名前だね。」
「・・・あ、ありがと。」
「じゃ。俺行くから・・・。」
峰寿が立ち去ろうとする。
「あ!もし!」
「ん?」
「もし、また会ったら。・・・その時はよろしく。」
「・・・うん。俺はもう少しだけ出雲にいるから。再会した時はよろしくね。じゃ。」
「バイバイ。」
手を振った。
その手が、寂しそうに見えた。

「うん。うん。じゃあ、そっちで。うん。じゃあね。」
カチャン。
「・・・ふー。」
エリカは深いため息をついて、受話器を置いた。
峰寿に、「もしかしたら芳ちゃんも来るかも!」って言うと。
峰寿は本当の本当に嬉しそうに喜んで、すっごく楽しみだ、と言った。
「私も、元気出さなきゃ。」
自分自身にそう呟いてエリカは自分の部屋に戻ろうとした。
「・・・。」
廊下から見える月。
ほのかに漂う蚊取り線香の匂い。
夏だ。
もうすぐお盆。
音華と共に北の霊山へ行く。そして祖父母の墓参りをする。そして修行。
流れていく景色、月日。
あなたをおいて進む現実。
「・・・・。は・・・。」
ため息。
芳ちゃんに会える。久しぶりだ。それは嬉しかった。
峰寿の喜び方は理解できる。
でもひとつ疑問に思ったこともあった。
峰寿って、芳ちゃんに嫉妬とかしないのかしら?
「・・・・。」
そう。今までの峰寿を見てると嫉妬・・・て言葉が見えてこない。
いいなぁ、とは笑って言うけれど、それでもいつものペースは崩さない。
「でも・・・。」
芳ちゃんは違うな。かわいいくらいに峰寿のこと気にしてたりする。
それは峰寿が、感情表現が得意で、触れたいときに触れることができて、話したいときに自分の話ができるからだ。
峰寿がポーカーフェイスすぎるのか。
峰寿はそうでなくても自分の深層の感情を表に出さない。
そういう風にしか生きてこれなかったから。
あんなにもはつらつとして、まっすぐな男なのに、本来ならば得意なはずなのに。
深層の感情だけは、簡単には見せない。
「でも・・・それは。私も同じか。」
似てるようで似てない私たちだよね。
鏡であり、憧れなんだ。

「・・っれでよし!」
音華は手の土を袴で払って言った。
母の墓前。花を挿す。
「ごめん母さん。俺、今年のお盆はお・・・・おばあさんとおじいさんのところに行ってくる。だからこっちにはいない。ちょっと早いけどさ。挨拶っ。」
パンパン。
手を打つ。
「・・・あ。」
顔をあげる。
「去年、父さんが来たんだ。今年も来ると思う。その時はよろしく言っておいて。」
線香の香りが漂う。
時々この匂いの中にいると、自分の髪の毛の香りが線香に染まってくんじゃないかと思う。
それはなんだか心地よくて。
なんだかそれは、優しい。
「俺、明日出雲に行くから。そんでそのまま北に行くから。その・・・行ってきます。」
頭を下げて音華はその場を後にした。
芳河に会えるかもしれない。
なんだかちょっと嬉しい気もした。
久しぶりにゆっくり話せるかな。久しぶりに、喧嘩・・・しそう・・・。まあいっか。
父さんの話、とか。聞きたいな。
父さんには、相変わらず会ってないから。
「・・・会いたいな。」
呟いた。

次の日のお昼過ぎ、音華とエリカを乗せた車が出雲へと出発した。



On***出雲編1終わり

 
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