on***コネタ第五弾

一対の人形。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
かれこれ一時間くらい迷っている。   
「お客様、何かお探しですか?」
「・・・いえ。すみません。大丈夫です。」
店員は、その袴姿の男が思いのほか美形の青年だったので一瞬固まってしまった。
「さようでございますか、もしよければなんでもご相談くださいね。」
「ありがとうございます。」
芳河は頭を下げた。
悩んでいる。
音華のためのプレゼントを、どうするか。迷っている。
一度市内まで下りたとき、市内の店に寄った。
あぁ。向いてないな。心の中でつぶやいた。
こういうのは向いていない。
頭をかいた。
音華に似合うもの。部屋におけるもの・・・。
「イメージが沸かん。」
沸かなかった。殺風景な部屋だ。それに音華の性格。
いわゆるカワイーものは似合わないし。
ため息。
再びエリカに相談しようか。
「・・・・・・・・・・・。」
いや、自分で探そう。と思いなおす。
そう決めた。
音華。
音華・・・。
音華のイメージ・・・・。


思い出す。

吸魂鬼の事件の後のこと。
「・・・・・・・・・・・・・・・音華。」
呼ぶ。
無反応。
「・・・・・・・・・・・はぁ・・・。」
諦めた。
無防備に畳に身を投げ出して、阿呆面で気持ちよさそうに寝ている。
エリカと峰寿が音華の部屋で呑んで暴れていたため避難してきた音華は結局寝てしまったらしい。
「・・・・・・・・阿呆。こんなところで寝るな。」
呟いたが、どうすることもできず、とにかく羽織をかけて放置することにした。
これだけ気持ちよさそうだと、もう、どうする気にもならない。
傍らに座って、本を読むことにした。寝息が耳に届く。
風が気持ちいい。
いい夜風だ。
少し寒いくらいの。
音華は、自分の正体を知ったら、きっと泣いて怒るだろう。
そう思った。
俺は、お前の父親の、養子だ。
今、まだ、自分自身頭の中で音華の存在を整理できていない。
自分自身でいっぱいいっぱいだ。
いらつくような、苦しいような、悲しいような。
どう処理したらいいかわからない感情が胸の中でぐるぐるしている。
卑怯者。
そう言われても仕様がない。
俺は、まだ真実を伝えれない。
音華のことを、嫌いだと思ったことはない。
音華は自分のことを相当嫌っているようだが。
五月蝿いやつだ、と思うぐらいだ。
だけど、一瞬、本気で手を掴みたくなるような気持ちになる。
その手を引き寄せたい、と、思うことがある。
つっと、触れてみた。
音華の髪に触れてみた。
さらさらとしていて、赤子の髪のようだった。
自分の手を見てみる。
何をしてるんだ。俺は。
嘆息。
だけど、優しい何かが音華の身体にはあった。
触れると、優しい何かがこちらに伝わってくる。
いつも尖がって、口が悪いし、態度も悪い音華だが、その精神は紛れもなく真っ白だった。
赤子を愛しいと思う感情に似ている。
まったく。
呆れる。自分にも。音華にも。
普通寝るだろうか。こんなところで、こんな時間に。
警戒くらいしろ。
別に何もないが、これをもし、例えば峰寿のところでもするとしたら、この先心配だ。
信頼できるやつばかりではない。
阿呆が。
俺がそこまで心配してやる義務もないが、放って置けるほどひとでなしでもない。
「音華。」
肩に触れてみる。できれば起きて欲しい。
肩はやけに柔らかかった。
「・・・・・・・・・・・はぁ。」
ため息をついた。
本を読んで集中しようと思った。
しかし、うまく集中できず、やめた。
しばらく、音華の傍らで何も考えることなくぼうっと月を眺めていた。
寝息が聞こえる。
無意識にもう一度髪に触れた。
はっとする。
音華の目に少しだけ、涙が見えた。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
どうすることもできず、とにかく音華の頭を撫でた。
俺の姿をした吸魂鬼に接吻されたこと、相当ショックだったようだったので、なんだか変な罪悪感もあった。
俺は何も悪くないが。
「・・・・・・・・はぁ。」
もう一度、深いため息をついた。

阿呆が。


「お客様?」
振り向く。
「もし何かプレゼントをお探しなら、こちらはどうですか?」
「・・・・・・・・・・・・・これは?」
差し出されたのは、ガラスの人形シリーズだった。
「この人形、様々なメッセージを含んでるんです。この紙をご参照ください。当店でも売れ筋なんですよ。」
「・・・ありがとうございます。」
芳河は頭を下げて受け取った。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
迷わず、一対の人形を購入した。

「へー。それ、なんか素敵だね!」
エリカが買ってきたそれをみて褒めた。
「で?どんな意味があるの?」
「・・・・・・・・なんでもいいだろう。」
「あっれ。何、恥ずかしいこと?」
エリカが笑った。
「恥ずかしいことはない。」
「じゃあ何?」
「・・・。言わん。」
「なっにそれー!?」


ハナレテイテモ、キミヲオモウ。

 

on*** コネタ第五弾終わり

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