on***コネタ第一弾

『エリカ』

「え?」
峰寿が振り向いて音華を見た。
「エリカだよ。」
「・・・ははっ。」
一瞬間をおいて、峰寿が笑った。相変わらずなんて曇りのない笑顔だろう。
「ねぇの?好きになったこと。」
歩く峰寿の後ろについて歩く。峰寿が墨を運ぶのを手伝ってくれと言ったので、持てる最大数の墨の入った小さな壺を持っていた。
「うーん。ない・・・かなぁ?」
峰寿がよくわからない語尾で言った。
「なんで疑問形なんだよ?」
「多分、だからさぁ。」
「・・・・・じゃ、あるんだろ?」
「ない・・・んだよねぇ。」
煮え切らないなぁ。
「それ、いつ頃?」
あるってことにして話を進める。さもないと埒があかない。
「たしか・・・まぁ・・・13,4くらいかな?」
結構前だ。
「へぇ。それで?なんかあったのか?」
「んーなにも。・・・って、何、音華ちゃん。今日。恋バナって好きだったっけ?」
「や、別に好きじゃないけどさ。」
音華は壺から墨をこぼさないように壺を見つめながら歩く。
「なんか・・・やっぱエリカってすげー美人で、スタイルもいいだろ?」
「・・・まあ。同意するね。」
峰寿が笑う。なんだか照れているようだった。
「それであんなに明るくてさ、頼れるし・・・。」
「あーうん。頼れるよねぇ。」
「そういう女の子って、学校ではもれなくもててたからさ。」
「・・・へー・・もてるんだ。」
あ、と音華は思った。学校、の話は極力避けてきていたのに。
興味深そうな顔を峰寿がしている。
「で、エリカの周りにいる男って絶対エリカを放っておかないと思うんだよな。」
「・・・で、俺ってわけ?」
峰寿が笑った。
「そ。」
音華は頷いて峰寿を見上げる。
「うーん。そうだねぇ。」
峰寿は微笑んで音華を見る。
「ま、好きって言うか、いいな、くらいには思ったことあるよ。」
「へぇ・・・。やっぱり。」
「陰陽術すげぇし?なんか時々悔しい思いもさせられたしね。」
「・・・・・・・・・・なぁ、此処の人たちの人を見る基準って常に陰陽術なのか?」
げんなりした顔を見せる。
「あははっ、まさか。まぁ・・・そうだなぁ、なんていうか、だよ。」
峰寿は歩き出す。
「なんていうか?」
「うーん。まぁ、てっとり早く言うと。」
「言うと?」
「いいなって思ってたんだけど・・・。」
「うん。」
峰寿が頭をかいた。
「怖かったなぁ〜・・・あれ。」
「え?」
怖い?
「や、エリカがさ、酔って英語で陰陽術使うとか言いだして。」
あれ、この話。聞いたことあるかも。
「マジで洒落にならないくらいの子鬼が発生してさ・・・・・・・。」
げんなりした顔だった。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・それで、恋愛感情も?」
「子鬼と一緒に消しました。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
音華は一瞬何も言えなくなり、その後思いっきり吹き出した。
「ちょっ、音華ちゃん笑い事じゃないから!なかったから!!」
峰寿も笑いながらそう言った。
「あはは・・・悪ぃ・・・そっか、ははッ・・・・!」
苦しい。腹が笑う。
「あれ?何?二人ともー。」
ドキー!
って擬音が似合うほど二人はびくっとした。
「え・・エリカ。」
「な・・・なんでもないよ!」
エリカの方を見てなんとか繕う笑顔。
「へぇ・・・?」
エリカがにんまりした。
「なになに隠し事?まぜてよー!」
「なんでもない!なんでもないから!」
「そうだ!エリカ!芳河呼んでたぞ!」
「芳ちゃん?」
エリカはきょとんとした。
「そんなわけないじゃん。私今まで芳ちゃんと一緒にいたんだよ。」
しまったー!峰寿が心の中で叫ぶ。
「で?なになに?」
迫る。
「え・・・エリカって!もてるのかなって話!」
音華がなんとかうまいこと言った。話自体は嘘じゃない。
「えー?」
エリカが笑った。
「もてないよ、音華ちゃん。」
「え・・・だって、学校ではエリカみたいなタイプはもてるんだぞ。」
「えー!?本当に!?」
嬉しそうに笑う。
グッジョブ音華ちゃん。峰寿は心の中でまた叫ぶ。
なんせ自分が昔エリカのこといいなって思ってたことなんか恥ずかしくて話せないし、恋愛感情を消した事件についても怖すぎて話せない。
「いいなぁ学校!学校に行きたかったよ!もてるかもしんなかったんだー!残念!」
「今はもてないのか?本当に?」
「もてないよぉ。」
「そっか、変なの。」
「ふふっ。音華ちゃんが男の子だったら惚れてた?」
「うん。多分。」
「・・・。」
なんて迷いなく言うんだろ。エリカは自分で言っといて照れてきた。
「そっかそっか!ありがとー!」
音華を撫でた。
「私が男だったら音華ちゃんをほっとかないよ。誰かさんたちみたいに。」
「へ?」
にやっと笑った。
「私も含めてみーんな音華ちゃんが好きなんだからねっ。」
「・・・・・ありがと。」
ふふっと笑った。そして峰寿の方を見やる。
「ねー?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・、お・・・おう。」
峰寿が頷く。
エリカはにやりと笑って行ってしまった。
「・・・・・・・・・・・・・・・・怖かった・・・・。」
峰寿は呟いて音華の横に並んだ。
「行こっか。」
「おう。」
音華は頷いて歩きだす。
「なぁ、芳河はどうかなぁ?」
「・・・芳河は・・・。」
考える。
「知らないなぁ。」
「ふーん。あいつ、人とか好きにならなさそう。」
「どんだけ鬼のイメージ定着してんの?」
あはは、と峰寿は笑った。






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