on***コネタ第二弾

華が咲く
 

「・・・紫苑の・・・!?そう・・・・若草が言ったのか!!」
姫は珍しく声を大きくして驚いた。
「はい。確かに・・・そうおっしゃいました。」
「・・・・・紫苑・・・だと・・・?どういうことだ・・・!若草は!」
「今は・・・意識も絶え絶えで、話せる状態ではありません・・・。」
「・・・・・ッ・・・!」
姫は立ち上がりかけていた足を、もう一度折り、座った。
傍に峰寿が控えている。
「・・・・。峰寿。このことは・・・口外するな。」
「はい。」
頭を下げる。
――― まじかよ・・・。
峰寿は芳河の顔を思い浮かべた。紫苑・・・つまり芳河の義父に、子供?
しかも芳河も慕っていた若草様との?
どういう因縁だ。どういう運命だ。
「・・・。」

その数日後、若草は死んだ。
そして子をどうするか、それだけが決まらず、数週間たった。


「若草の娘はどのような娘だ。」
「名を紫 音華というようですわ。」
婆やが答える。
「・・・まぁ、施設で育っているのはわしらも知ってはいたが、ろくな女子には育ってないようどす。」
婆やがほっほと笑った。
「?どのような娘だ。」
「まぁ喧嘩っ早い、じゃじゃ馬のようですわ。写真を見ましたが若草殿には似ても似つきません。」
「・・・そうか。」
「かといって、紫苑にも。似ちゃあいませんわ。」
「・・・そうか。」
姫は俯いた。
峰寿は傍には居ない。来週からの修行月は霊山で籠りを行うため峰寿に様々な準備をさせていたためだ。
「しかし・・・そうか。華・・・か。」
「?なんどすか?」
「いや。なんでもない。」
姫は少し微笑んで、そして目を閉じた。


「姫ちゃん。」
若草が笑顔で抱きついてくる。
「若草・・・その姫というのは、やめないか。」
「いやよー。姫ちゃんは御姫様みたいだものっ。これが素敵っ!」
「・・・お前の方が美しい女子だがな・・・。」
「そんなことないよっ!姫ちゃんの眼は、いちっばん綺麗!綺麗な色で吸い込まれそう。」
にっこり笑った。
つられて姫も笑った。
「名前があるのだぞ。私にも。」
「知ってるよっ。お父様につけていただいたお名前でしょう?」
「・・・あぁ。」
その頃には姫は随分、父とも会っていなかった。
思い描く。父。しかしうまくいかない。
「ねぇ姫ちゃん。姫ちゃんに子供が生まれたらどんな名前にしたい?」
「・・は・・?」
「赤ちゃんよ。名前をつけるのであれば、どんな名前がいいかなぁ?」
ふふっと楽しそうに若草は笑った。
「そうだな・・・。あんまり、想像したことがない。私に・・・赤子・・・。」
想像できなかった。
「私の名前はね、姫ちゃん。」
若草が嬉しそうに言った。
「お母さまがつけてくださったのよ。」
「・・・そうか。」
「それでね。意味があるの。私は若い草木のようにいつまでも瑞々しい魂でいなさいって意味なんだって。」
「・・・あぁ。良い名だな。」
へへっと彼女は笑った。
「だからねっ姫ちゃん。私も私の子供には良い名をつけてあげたいの。」
「どんな?」
「うーん・・・。」
考え込む。
「私が草だから・・・綺麗に咲く花の名前をつけたいなっ。」
結論。
「・・・花の名か。」
「うん。朝顔とか、向日葵とかっ!」
「いいな。」
「一番好きなのは竜胆なの。でも、竜胆ってなんだか男の子みたい。」
「女が生まれると決まっているのか?若草。」
笑った。まるで、女の名前しか考えていないようだったから。
「女の子がいいなぁ。って思ってるところ。」
まるで華のように笑う若草が、眩しい。
「ならば男なら竜胆にすればいい。女なら、別の花の名をつけたらいい。」
「うんっ。そうする!なんだか楽しみっ。」
「はは。気が早いな若草。」
まだ、10にも満たない少女だった。あの頃のことだ。

「なんでも、若草様が持たせた布に縫ってあったそうです。」
「え?」
婆やの言葉に顔を上げる。ぼうっとしていた。
「何がだ?」
「音華の名が。」
「・・・・・・・・・・・・・それはつまり・・・・。」
「若草殿が、名をつけたのでしょうな。」
「・・・・・・・・・・。」
名をつけることは、許されていなかった。だけど、若草は、ひそかに名をつけていたのだった。
「・・・・・・・・・・そうか。」
なんだか、全てがつながった。
「そうか。だから・・・紫 音華なのだな・・・・。」
「え?」
「いや。なんでもない。榊。手配しろ。」
「と、いうと?」
「若草の娘を、連れ戻す。」
「・・・・・姫・・・。」
「私は修行月は此処にはおらぬ。榊、お前が全て手配してくれないか。」
「・・・ええんどすか?」
恨まれるのを、覚悟しているのですか?
そういう意味の、「ええんどすか?」だった。
「あぁ。いい。」
頷いた。
「頼む。」
「・・・御意。」
婆やは頭を下げた。
「音華のしつけ役は誰にしましょう?」
「・・・・・・・・・・・・・この屋敷に居る人物がいいな。」
「・・・しかしそれだと・・・。」
「・・・・・・・・・・。いたしかたあるまい。」
ため息をついた。
「芳河に、頼んでくれないか。・・・・全てを、話して。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・御意。」
婆やは頭を下げてから部屋を出ようとした。
「榊。」
「・・・はい?」
「・・・すまぬ・・・。嫌な役を、押し付ける・・・・・・・・・。」
「・・・ええんです。姫様。」
婆やは微笑んだ。
「姫も・・・早く、整理がつくと、ええどすな。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・。礼を言う・・・・・。」
「いいえ。」
婆やは言ってしまった。
姫はため息をついた。
目を閉じる。
いつでも思い出せる。若草の笑顔。
彼女のために、彼女のために全てを捧げてきた。
今。彼女を失って残っているのは、屈辱の連鎖とぎこちない空気だけだ。
キマリが引き裂いた様々な絆の傷跡だ。
「・・・・・・・お前も、私を怨むだろうな・・・・。紫音・・・―――紫苑・・・華。」
だが、せめて。
母親の墓前に立たせてあげたい。
此処を。
母のいた場所を知ってほしい。
世界で一人ぼっちだったなんて思わないでほしい。
そんなことしかできないが。
せめて。

姫は眼を開けた。
そして呟く。
「華が咲いている。」
確かに香った花の匂い。

on*** コネタ第二弾終わり


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