バシ!!!!
「・・・・・・・・・・・。」
沈黙。
「・・・芳・・・」
「もう一球。」
ビュン!白いボールがピッチャーに返る。
「!あ、うん!」
「次、まっすぐ。」
「え?!あ、うん!」
バシ!
バシ!
バシ!
「フォーク。」
「うん!」
バシン!
そこでボールはショータに返らなくなる。
「・・・あの・・・・。」
ショータが心配そうに言う。
「あのキャッチ、大伴さんすよね。」
「え?あ、うん。しってんの!?」
「強かったから。あの人が居たチーム。」
「あ、うん!すごいうまい!」
「・・・あの人、三年だろ。」
芳樹は顔を上げずに、ボールを見続けている。
「うん・・・この夏、負けたら、引退。」
「・・・・・・・。」
沈黙。
「アサヒ。」
「え?」
芳樹はゆっくり顔を上げた。そしてこっちを見る。
ひゅ!
「!」
パシッ!
ボールが飛んでくる。
「今のあの人の。お前のボールにゃ、まだ遠い。」
「・・・・うん。」
私は頷く。
ショータは俯く。
「でも、お前はもう、投げねんだな。」
「・・・・・・・・うん。」
頷いた。
「・・・そか。」
芳樹は立ち上がった。
「じゃ、それ、ショータさんとやらに渡せ。」
「・・・。うん。」
ショータはこっちを見る。
「・・・ショータ。」
「うん。」
ショータにボールを投げた。白いボールが宙を馳せる。
「ナイスボール、アサヒ!」
にこっとショータは笑った。
そっか、解かった。今、わかった。
どうしてショータを選んだのか。
慎之介に、似てるんだ。ボールを持った時の笑い方が。
ガチャン。
芳樹が自転車にグローブを乗せた。
「あ、か、帰るの?!」
「はい。」
「わ、渡辺!」
ショータが何か言おうと口をパクパクさせる。
「次。」
ショータの言葉を待たずに芳樹が口を開いた。
「え?」
「次に会う時、アサヒ以上の球、放ってみせてくださいね。」
「・・・・・・・・・。うん!」
芳樹はふっと笑って自転車のストッパーを蹴飛ばした。
「それから・・・アサヒ。」
芳樹は私の目を見る。
「あん時は、ごめんな。」
私は芳樹の目を見る。
「ううん。もう、いい。」
芳樹は笑った。相変わらずボールを持ってない時は眠そうな顔してる。
そのまま自転車にまたがり、いなくなってしまった。
二人残された、私とショータ。
「・・・アサヒ・・・。」
「ありがとう、ショータ。」
「え?」
「ありがとう。」
ショータは微笑んだ。
「帰ろ。送る。」
「いいよ。歩ける。」
「じゃ、歩いて送る。」
「・・・ありがと。」
歩き出した。
夏の暑い夕方。ひぐらしが泣いている。
「あいつ・・・来るかな?」
ショータが呟いた。
「・・・来るよ。」
私は頷いた。
「来る。」


夏が、始まった。そして、続く。



野球少年2 終わり
呼んでくれた皆様。ありがとうございます。
是非「読んだよ〜」の一言でもおかけください。


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