「芳樹。」
「!」
芳樹がびくっとして振り返った。
「・・・アサヒ・・・。」
「久しぶり。」
「おま・・・なんで此処に。」
「青木に訊いた。」
芳樹は舌打ちした。
「・・・懐かしいね。」
「・・・別に。」
球場。あの優勝を勝ち取った、球場だった。
「ハルシオンズ。準決勝まできたんだ。」
「・・・おう。」
沈黙。歓声。ヒット。
芳樹はブスっとしたまま転がるボールを見た。こちらを見ない。
「芳樹。」
「なんだよ。」
「野球、やめないでよ。」
無言。歓声。アウト。ツーアウト。
「やめないでよ。」
「・・・・お前が・・・。言うなよ。」
芳樹は俯いて硬く目をつむった。
「捕ってほしいんだ。」
「何をだよ。」
「私の、フォーク。」
「・・・は?」
やっとこっちを見た。
「私はもう、投げないけど。」
「・・・何言ってんだよ。」
芳樹は、睨むように笑った。
「お前が投げないフォーク?慎之介が投げないフォーク?いらねぇんだよそんなの!」
「・・・芳樹。」
芳樹が立ち上がって、ぶっきらぼうにカバンを掴み、歩きだした。
「待って。」
「いいから、俺のことはほっとけ!」
「芳樹!」
「もう、放っといてくれよ!」
ばっとこっちを見て芳樹は叫んだ。
「ほっとけよ!・・・もう野球はしねぇんだ!」
「芳樹。」
「お前も・・・!なんでそんなにしつけえんだよ!やめたんだろ野球!」
芳樹の眼が泣いていた。
「もう考えるなよ!考えなきゃいいだろ!全部!」
「でも芳樹は此処に来たじゃない。」
「・・・!」
「忘れられないから・・・来たんでしょ。」
「違う!」
違わない。だって知ってる。どれだけ芳樹が野球を好きか。
「いい加減にしろよ・・・!なんで俺なんかにかまうんだ!俺のことなんざ諦めろ!嫌えよ!」
ばっ!と手を掴んだ。
「ゎ・・!」
芳樹の手は随分冷えていた。
「放せよ・・・。」
「放さない。」
「お前なぁ・・・!」
「一緒に来て。」
「え?」
「一緒に来て。お願いだから。」
歓声。耳を劈いた。ホームラン。白いボールと青い空。




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