「お、ショータ!」
どきっとしてショータは跳ね上がる。
「お・・・大伴さん!」
「なーにしてんだ?こんなとこでっ」
「大伴さんこそ・・・。」
「あれ。言っただろ?俺元五中。ここらへん一応地域に含まれてるんだぞ。」
「・・・あ・・・。」
そっか、アサヒと同じ中学だったんだ、とショータは考えた。
「なに、あの例の彼女とのデート帰り?」
「・・・ち・・・違います・・・。」
「・・・なんだなんだ。辛気臭いな。」
大伴は笑って、がしっとショータの頭を掴むように撫でた。
「喧嘩か?」
首を振る。
「・・・俺・・・口ばっかりで・・・。」
「・・・口ばっかり?」
あんまり口、使ってないけどな。大伴は思う。
「絶対って・・・言ったのに・・・できなくて・・・。」
「おいおいなんの話だよ?ショータ?お・・っおい!泣くなよ!」
「泣いてません!」
嘘ついた。涙が出てきていた。
大伴は、その後ずっと一緒にいてショータの話を聞いた。
「・・・へぇ・・・美河も、なかなかすごい女だな・・・」
「・・・アサヒは・・・本当に投げるのが好きな投手だったんだと思います。」
「ん。そりゃそだろな。なんせ親に隠してまで続けてたんだ。」
「でも・・・それって多分・・・その捕手のためでもあったんだと思うんです。」
「・・・うん。そうかもな。」
大伴は微笑んだ。
「バッテリーは、夫婦みたいなもんだからな。」
「・・・・・・・・。」
「なんだ、ヤキモチか?」
「ち!違いますよ!」
「じゃあ何?」
「・・・悔しくて。」
「悔しい?」
「アサヒの球、俺が投げるって決めたのに。アサヒの分まで投げるって決めたのに。かっこ悪くって・・・。」
「・・・うーん。」
こいつには決定的に度胸が足りないからなぁ、と大伴は唸った。
「でも、こういうのって。」
「え?」
「でも、こういうのって結局努力でしか乗り越えられねぇんだよなぁ。」
「・・・・・・・・・・・・・。」
ショータはじっと大伴を見る。
「やれるだけやれ、ショータ。全身全霊でやりゃ、見えるもんだってあるからな。」
「・・・・・はい。」
「よし!明日も試合だぞ!5回戦!これ勝てば準決勝だ。」
「はい!」
見えるものに、見合う、努力を。
 

チャイムをもう一度鳴らす。
「・・・またすか。」
ショータがまた、芳樹の元へ現われた。
「これ。」
「え?」
差し出す何か。
「これ、予選の準決勝の場所と時間。」
「・・・は?」
「来てくれ。」
「・・なんで・・・」
「俺・・・多分出るんだ。」
「多分?」
「そんで、もし。」
ぎゅっと拳を握る。
「俺が三振5つ取れたら。」
「・・・・5つって・・・」
「もう一回捕ってくれないか・・・?」
真剣な目。真剣な声。突き刺さる。
「・・・・・・・先発なんすか・・・?」
「え!?や!先発は3年生!俺は控えだ・・・から・・・。」
「・・・。・・・いいすよ。」
「え?」
「いいすよ。5つ。取ってみてくださいよ。」
「・・・・う・・・おう!」





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