夏が来るらしい。

蝉の音がする。じりじりと何かがこげる音。そうだ。この湿気だらけの風。夏だ。夏の匂いだ。

「アサヒ!?」
はっと顔を上げた。
「・・・ショータ?」
ショータだった。ゆっくりと見上げた。
「何してんの、こんなとこで。」
ショータが訊ねる。
「・・・ん。ちょっと。涼んでた。」
「寝てただろ。橋の下だから影だけど、熱いから、こんなところで寝たら危なくない?」
「大丈夫だよ。」
「・・・汗すげぇ。ちょっと待って、飲みモン買ってくる!」
そういうとショータは駆けだした。
あぁ、眠ってしまっていたらしい。ショータと練習をしたあの河川敷の橋の下。

夏の予選が始まった。

ショータはまだ試合に出ていないらしいけど、学校は3回戦に進んでいる。
「はい。」
「ありがと。」
ショータが戻ってきて冷えたアクエリアスを渡してくれた。
「いくら?」
「いっ・・・いいよ!お金なんかっ!」
「・・・。ありがと。」
あんまりおごられるのは好きではないが、しつこく言うのもなんだか嫌で、とりあえず感謝した。
「ショータ、練習しに来たの?」
「ん?うん。最近あんまり来れなかったからなぁ・・・って思って。今日練習昼からだから。アサヒこそ、土曜なのにこんな早くから・・・しかも制服で何やってんの。」
「・・・蝉がうるさくて、眼が覚めたから。」
ショータは不思議そうな顔をして、ふーん、と言った。
「確かにフォークは、投げれるようになったけど。」
ボールを掴んでひょいっと空中に投げ、もう一度掴んだ。
「アサヒのフォークには程遠いから・・・。やれる時にやんねぇと・・・。」
そして構えて、ゆっくりとワインドアップし、ボールを投げた。
確かに。フォークとはいえ、慎之介が投げていたものよりは球威はない。
まだ、あのフォークには程遠い。
「・・・ねぇショータ。」
「ん?」
「・・・そのフォーク・・・。今月中に、完成させれる?」
「・・・・・・え?」
ショータは唖然とした。当たり前だ。こんな質問をしたんだから。
「投げてほしいの。」
「・・・え?」




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