ピンポーン。
またチャイム。
きっとアサヒだと芳樹は思って、カーテンをちらりと開き下を見た。
「・・・?」
違う。
ガチャ。
開けて気付く。
「ああ・・・ショータさん・・・だっけ・・・?」
「ごめん、突然。青木に住所聞いて・・・」
「・・あいつ今度口縫い付けてやろうかな・・・」
「え?」
「いいえ。・・・で、なんすか。」
ショータはごくんと唾を飲んだ。
「もう一回だけ、受けてくれない・・・かな。」
「・・・・ボールを?」
頷いた。
「・・・言ったじゃないすか、一度だけって。」
「そこをなんとか!」
頭を下げた。
「・・・ショータさん。アサヒの球見たことないでしょ。」
「・・・ビデオでなら。」
「実際に・・・。」
「一球か二球放ってくれたけど・・・」
だけど多分、本気じゃなかった。
「俺、あの球しか、捕りたくないんだよね・・・」
「へ?」
「キャッチャー失格だよ。そりゃもちろん。わがまま言ってチームに迷惑かけるのは嫌だから、言わないけど。でもそれでも、俺はあの球しか受けたくないんだよね。」
「・・・。」
ショータは黙ってしまった。
「あの球は受ける者をとりこにする、魔球だよ。」
芳樹の目は、ぼーっとしてるようでまっすぐとショータを捉えてた。
「・・・その球を、放れるって言うんすか?ショータさん。」
ショータは、黙ったまま、その場を去っていった。
夕暮れ。
白いボールと赤い空。




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