三振 6つ。
「約束。」
「・・・わかってるすよ。」
そう言って芳樹は一度部屋へ引っ込み、すぐに戻ってきた。
「・・・それ。」
「俺のグローブ。借りモン、手に合わなくて気持ち悪いんすよ。」
「あ、だよな。俺、自分のじゃないとなんか痛い。」
「痛い?・・・へー・・・。」
同意はしないらしい。
「あ、アサヒ呼んだから。」
「・・・。なんで。」
「なんでって、え、不都合?」
「・・・別に・・・。会いたくないだけで・・・。」
「会いたくない?なんで?」
「・・・ずけずけ訊く人だなぁ。」
「え!ご、ごめん!」
「・・・いいけど・・・。」
くっと、芳樹は笑った。なんでこんなにテンパるんだろう。この人。
「・・・アサヒには、合わす顔がないんすよ。」
「え?」
「最低なこと言ったし、したから。」
「え!な、なに・・・」
「・・・ぶっ・・・」
今度は本当にふきだした。
「やっべ・・・」
ツボにはいった。この人、変だ。面白い。
「聞いたら妬くかもよ。」
「へ?!」
「なんもないっす。行こう。日ぃ暮れる。」
「え!う、うん!」
自転車をこぐ。

あれ、こんなに夕日って綺麗だったっけ・・・?



「ナベちゃん!」
明るい声だ。アサヒの声とは大違い。本当に兄弟なんだろうか。似てない。
何度も想った。
「ナベちゃん!見てってば!」
「へ?」
「ほら!空!」
「・・・ユーフォーか?」
「違うよ!」
短い声で笑う。
「綺麗だから!」
「・・・綺麗?」
「うん!夕日!」
「・・・あぁ、まあ綺麗ッちゃあ綺麗だな。」
「俺、試合の後の夕焼が一番好きなんだよね!」
「なんだ?今日は。お前詩人になりたいのか?」
「違うよ!だってさ!」
自転車が進む。
「気持ちいいじゃん!赤い空に白いボール!」
「・・・・・・・詩人じゃん。」

今は居ない。居ないのに。嘘のように鮮明に、思い出した。あの日の夕方を。

 

「行くよ。」
「うす。」
芳樹は一瞬こっちを見た。
「・・・い、いい?」
「うす。」
だけどすぐにショータに呼ばれてショータを見据えた。
「じゃ・・・。」
ショータは振りかぶって、

投げた。


―――気持ちいいじゃん!赤い空に白いボール!





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