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「なんていう曲?」
「悲愴。」
悲愴。悲しい名前だと思った。
「でもなんでこんなところにピアノがあるんだろう。だって、朝露や雨で傷んでしまう。」
セツが不思議がった。森のど真ん中だ。大きな箱。何処から持ってきたんだろう。アップライトとはいえ運ぶのは力がいる作業だ。
でもよくみれば、その道の先に小さな家があった。
「あの家のかな。」
「そうだろうね。」
セツは黒い箱を閉じた。その時声がした。
「誰が今弾いていた?」
しわがれた声。セツはゆっくりと振り向いた。
「私です。弾いてはいけなかったのですか。」
「いいや。」
老婆はかぶりをふる。
「ありがとう。」
感謝した。老婆は懐かしそうにピアノに触れる。
「・・・あなたのものですか。」
「いいや。孫のものだった。」
今は違うということか。
「よくここにピアノを運んできて弾いていたんだよ。」
「・・・そうですか。」
「あなたが運んできたんですか?」
僕が尋ねる。そんな力があるようには見えない。
「いいや。もちろん、息子だ。あれは時々孫を悼んでここにピアノを持って来てやるんだよ。」
「・・・・じゃあ。」
僕は言いかけた。セツは黙ってた。
「ありがとうな。お嬢さん。」
「いいえ。」
セツは表情を作らずにそれだけいった。
「私も久しぶりに弾けて、嬉しかったです。」

久しぶり?
「あれだけ弾けるのに、どうして体を鍛えてたの?」、
「質問として、その二つを比べてる意味がわかんないんだけど。」
「あ、だからさ。アレだけ弾けるんだったら、音楽家とかになれるんじゃない?」
「あはは。君、音楽きかないでしょう。」
笑った。ちょっとむっとした。
「しかたないだろ。音楽なんかと触れ合う場所がないんだから。」
「あぁ、そっか。ごめんごめん。うん。私のピアノ。聴く人が聴けば酷いものなんだよ。」
「え?」
「基礎も何もないからね。私はあの曲しか弾けないから。」
「・・・・・どうやって、ならったの?」
セツは口を閉ざした。
僕も口を閉ざした。
「ねぇセツ。セツって、なんでナイトオリンピアで勝とうと思ったの?」
セツは暫らく口を閉ざしたまま、あるいてた。
そして口を開く。
「逃げるために、お金がいったから。」



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そう、めちゃくちゃだ。
「その指使いも。そのタッチも。めちゃくちゃだ。」
「わかってるよ。」
「でも弾き遂げる。どんどん速さもついてきた。基礎のない君が。」
「だから?」
「でも君は、人に対する対応の仕方は、基礎があるのにやり遂げる事が出来ないんだね。」
黙る。
「や、基礎がないのか。」
訂正する。
「だからあの時、なにか言葉をかけたかったのにかけることが出来なかったんだろう?」
「別に、声を掛けなくたってよかったでしょ。」
「よかったかもしれない。でも、かけたほうが人間らしかった。実際君も何か言いかけた。それは暗黙に。誰にも気付かれずに。」
「私は何も知らなかったんだ。だったら何も知らない私が下手な慰めを言うのもおかしいと思った。何を言ったって偽に聞こえそうだ。だって私には他人の気持ちをしる術なんてないんだ。」
「それは誰もが持ち得ないものだよ。」
「確かなものがない人間に、何かを言われるのは不愉快でしょう。何も知らないくせに、なぜ人に口出しできる?」
彼はため息をついた。そして窓を見る。
「ねぇ、セツ。でも君は、慰めてほしいと思ってるじゃないか。」
和音が間違っている。
「君は、誰かに慰められたいじゃないか。声を聴きたがるじゃないか。」
「そんなことない。」
「あるだろ。」
彼が少し強い口調で言った。
「君は他人を渇望してるくせに、意地をはってるにすぎないんだよ。それは他人にも少なからずあるものだよ。人間は必ず一人じゃ埋め切れないものを抱えてるんだよ。だれもが未完成だ。なぜその弱さを否定する。」
「弱さなんか嫌いだ!」
叫んでた。フォルテは、響く。世界に響く。

僕はその音を空の彼方から聴いた。



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旅は続いた。セツは相変わらず無口だ。僕はセツの事が知りたいと思う気持ちが大きくなっているのを感じた。森をそろそろぬける。
「あぁねぇ。セツ。」
振り向いた。
「こっちの方にいくなら、峠の魔女の所に行かない?」
「魔女。」
「うん。ラピス・ラズリのこと、何か分かるかもしれない。」
「魔女って、本当に魔女なの?」
「まさか。通り名だと思うよ。僕もずっといって見たかったんだ。」
セツは考えてから頷いた。なにかをためらっていたがそれがなんなのか想像が出来なかった。
「ちょっとまってて。そこらへんの人にきいてくるからさ。」
僕は走り出した。セツは何か言いかけたように見えたけど、何も言わなかった。
僕は近くにいた女の子に声を掛けた。馬車の近くにいた。身なりのきれいそうな女の子だ。
「峠の魔女?」
彼女は笑いながら繰り返した。
「しってるわ。あなた彼女の所に行きたいの?」
「えぇ、まあ。」
「いいわ。私、つれていってあげる。」
「え?いや、そういうんじゃなくて。ただ道を。」
「お金なんか取らないわ。ただ行く方向が一緒だからついでに乗せてあげるって事。」
「乗せる・・・?」
「馬車よ。嫌い?」
ふふ、と彼女は上品に笑う。
「あ・・嫌いじゃないけど、連れがいるんだ。一人。」
「一人くらい平気よ。馬車の事なめてるの?」
彼女は半ば強引に僕らの旅を手伝ってくれることになった。
セツはぼーっと立っていた。僕を待っていた。僕は走ってセツの元にいきことの事情を話した。セツは黙ってじっと馬車を見た。
「馬車、平気?」
「・・・うん。ねぇでも、彼女は貴族なの?」
「わかんないけど、良い家の生まれだと思う。」
セツが何故そんな事を聴くのか不思議に思った。
「わかった。でも1ついいかな。」
「うん。」
条件がでた。
「私が女である事を隠したいんだ。」
「それは。」
「つまり、男だってことにしてほしい。」
「・・・うん。いいけど。何故?」
セツは答えない。もう歩きだしていた。
「御機嫌よう、お嬢さん。」
セツはそういって彼女に挨拶をした。手を取り口元にもっていく。微笑んでいる。僕とで会った頃のあの無表情な挨拶ではない。
「御機嫌よう。あなたが彼の連れね?」
「えぇ。」
「彼のお名前を、訊くのを忘れてしまったんだけど。」
「それは失礼しました。彼はスピカです。私はセツ。お嬢さんのお名前は?」
流暢な言葉で喋るセツに唖然とした。
「わたくしは、ロイサ。カザンブール家の娘です。」
「そうでしたか、お会いできて光栄です。私の故郷もイルル地方なのですよ。」
「まぁ本当に?」
「あなたの御好意に感謝いたします。ロイサ様。失礼ながらお1つよろしいですか?」
「えぇ。」
微笑んだ。セツ。こんな風に笑えるんだ。と思った。
「この短剣。これは家族が私に残した唯一の品なのです。肌身離さずもっていたいのですが、失礼でなければこのまま帯刀していてよろしいですか?」
「えぇ。勿論よろしいわ。あなたのような紳士の方を疑うのは失礼ですもの。」
ロイサはにこやかに笑っていた。セツはありがとうといって微笑んだ。
こんなに、愛想のいいセツは初めてだった。僕はそれに驚いた。



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「君が作る仮面の質はきっとピカイチだよ。選手権にでも出たら?」
セツはにらんだ。
「持続性はないけれど、一瞬で完璧に変わる事が出来る。どこまでもどこまでも穏やかに親切に優しくなれる。それも拒絶の一種としての。」
「褒めてるの?」
「それが美徳とはいわないね。」
セツは黙る。
「その仮面が、君は初対面で警戒をとかない状態の時恐るべきスピードで壁を構築する。薄いけれど自分をすっぽり隠してしまえる位のね。見事なものだ。綺麗に自分の世界からはじき出す。君はとりあえず世界に入れてみると言うことをしない。とりあえず拒絶するんだ。」
「そうかもね。」
「そうだよ。」
彼は彼女を見つめた。
「君はなろうと願えばどれだけでも紳士になれる。どれだけでも愛想よく振舞える。でもそうしてそんな事をするの?なんで自然のままで相手に接しない。」
「自然?」
セツは問いただすような眼をみせた。
「自然って何だ。」
問う。
「私の自然って何だ。」
「君の自然は君にしかわからないよ。」
「思うことは言う。隠さない。そうやって振舞うのが自分の自然を出してるってことじゃないか。私はそれを拒んでない。私はそうやって振舞うことだって出来る。」
「知ってる。」
頷く。
「君が特に親しいものに対してそれを怠ってないことは知ってる。それは、自主的なもので、それは、塔の一部だ。柱の1つだ。君の理想で形がつくられたものだ。」
「形作られたもの、じゃあ自然ではないといいたいんだ。」
「自然かも知れない。だけどセツ。君は、そうした後悔やむじゃないか。」
心臓が痛む。
「そうやって一瞬壁を壊したことを悔やむだろう。そしてすぐに今度は壊れないような、壊さないような壁を再構築する。それも猛スピードで。」
「・・・・・・・・・。」
否定はしない。できないから。
「その業を、どうして自然と呼べるかな。」



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ゴトン、と時々馬車が揺れる。思いのほかセツは沈黙していた。あの時みせた絶妙の笑顔や、紳士な言葉遣いは今は沈黙している。
目をつむり考え事をしているようだった。ロイサも一方で向かいあって、目を閉じている。そのすました顔が気品を漂わせる。
「魔女のところまでどれくらいかな。」
僕は呟く。
「馬車に乗ったところから3時間よ。じきつくわ。」
ロイサがすかさず説明した。
「山のふもとで降ろすけれど、それでもいいかしら?」
「えぇ。」
僕は頷く。ロイサは微笑んだ。気高い笑顔だ。
「だけどあなたたち、どうしてあの魔女の元に行こうとしているの?」
ロイサが尋ねた。
「あ、ちょっと探し物をしているんです。」
「なにを?」
「よくわからないんだけど、多分、石だと思う。」
「よくわからないのに探してるの?」
ころころと笑った。
セツがこっちをちらりと見たのがわかった。そしてにっと笑った。
僕は心臓が鳴って。驚いた。
ロイサの上品な笑いよりも、セツのその笑い方に、なんだか心奪われた。



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「壁を壊すのは君が望むから。でも壁を作るのは君が恐れるからだ。君は決して欲して壁を作ってるんじゃない。」
「そうかもね。だけど、あんたは壁を否定してばかりいる。」
セツは反撃に出る。
「塀がない世界なんて無秩序を極めるだけだ。壁のない家がないように塀のない世界もありえない。」
彼はうなった。
「塀がなければ敵だって簡単に世界に侵入してくる。世界が向きだしになるんだ。塀は必要なものだ。それをあんたは否定する。」
「構築の仕方を否定するんだ。」
「いっしょのことだ。」
「違う。それに僕は構築することをまるまる否定するわけじゃない。」
セツは無視してピアノのほうへ歩きだした。
「セツ、気付いてる?君の世界の塀は一部決壊したままなのを。」
椅子をひいて座る。
「君のそのピアノも、君の塔の裏側も実は知りうる人間には丸見えなんだよ。」
最初の和音。重い。
「その悲愴、皆が実はしってるんだよ。」
指を走らせる。
「でも、それに同情はしてないみたいだね。」
指がすべる。音が違う。
「セツ。」
音が違う。速さが増す。
「君は本当は可哀想だと思われたいんだ。だれかに可愛がられたいんだ。だれかに、気にしてもらいたいんだ。だけどそれを恥じてる。それは塔に反している。それは君をかき乱す。変えたいと願う。」
すごい速さだ。16分音符が時々すっとぶ。
「沈黙は肯定だよ。」
セツは指がつりそうに痛くて、顔をゆがめた。
「セツ、だからそうやって、自分を消して行くのかい。男のなりをして。自分を作り直して行くのかい。」
「私は。嫌いなんだ。」
ひどい和音で終わった。
「そう、君は自分が嫌いなんだ。本当は誰よりも優しいのに。」



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「じゃあ、どうもありがとうございました。」
僕は丁寧にお礼を言った。セツもお礼を言った。あの紳士な笑顔で。
どういう訳かその笑顔にはなにも心うたれなかった。
「また、どこかで。」
ロイサは笑って手を振った。馬車がどんどん遠のいて行く。彼女は一人でどこに行くんだろう。
「セツ。」
振り向いたらセツはもうすすんでいた。さっきまでの作りすぎたような空気はない。
「セツ。まってよ。」
追いつく。
「ねぇセツ。なんでさっき男のふりしたの?」
質問する。セツはちらりともこちらをみない。
「なんでって。そのほうがめんどくさくないから。」
「めんどくさい?」
「めんどくさい。」
何がだろう。僕は首をかしげた。
「セツ、さっきイルル地方の出身って言ってたけど、本当?」
「嘘。」
即答した。
「でもカザンブール・・・ってきいただけでよく地方がわかったね。」
「・・・記憶力がいいんだ。」
「旅した事があるの?」
「そんなとこ。」
質問攻めをしている自分に気づいた。僕はフェアを崩そうとしている。
情報におけるフェアを崩そうとしている。口を閉じた。そしてセツを追うように歩いた。
セツは訊き返してきたりしなかった。なにも。僕については。
暫らく急な坂道を二人で登り続けた。うっすらともやのある変な山だ。
「大丈夫?」
セツがいきなり僕を見て言った。
「え?」
「や、だまってるから。疲れた?」
「・・・ううん。」
「そう。つかれたら言って。無理しないほうがいい。」
「うん。」
セツは表情を緩めたりはしなかったけど、その言葉はすごく優しく僕に投げられた。
セツのそっけない態度の中に、深い、むしろ深すぎる親切さがあるように感じた。
セツの足取りは、決してスピードを落とすことはなかった。



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「人に言われたい言葉をきちんと人に言えるところが、君のいい所だ。」
「・・・人に言われたくない事は、言わない。そんな莫迦な人間にはなりたくないから。」
「それもある。でも君は、君が他人に優しい言葉をかけるのは、君が他人にそう言われたいからなんだ。」
彼はセツの座っていた椅子に腰をかけた。
「自分も優しくするから、優しくしてよ。そう考えてる。」
「フェアを求めることは普通じゃない?」
「そう、でも誰しもが君のようには生きてない。人間は基本的に自分が一番大切だ。ひいきだってするし、嫌だと思ったら自分勝手に非難する。ある程度のフェアは誰もが基本的一線をひくけれど、君が求めるほど深くは人間フェアになれないんだよ。君は自分にも厳しいけど、他人にも厳しい。いっそそれは押し付けがましい。」
「押し付けがましい。」繰り返す。
彼は黒いカラスを開いて、白い板に人差し指を乗せた。
「だって、他人は他人じゃないか。自分と同じ考えなんか持っていない。でも君は自分の正義を具体的に描く。つまりこの塔を立てる。太く。そしてそれに反する人間に失望する。」
「自分の尊敬できない人間に学ぶことなんかにない。」
「自分の描く完成にそぐわない人間、つまり尊敬に値しない人間。彼らに対する君の壁はすさまじく太い。というか、もはや、切り離してあって、決して中には入れない。世界からの切捨てを完了させる。でも、扱いに困るのはそこまで切り捨てられていない人間に対する小さな失望。」
「・・・つまり?」
彼は白い鍵盤をはじく。
「自分が与えた優しさに匹敵するくらいの優しさがかえって来ないと、君は、傷つくんだ。」
「・・・・・・・・・・傷。」
彼は指を開いて見る。ドからレまで指が届く。セツよりもとどく。
「君は非常に傷つきやすい。君のその傷はすぐに膿む。それを拒むために相手に失望する。つまり小さく切り捨てることで自分の傷を守るんだ。これ以上膿まないように。」
「・・・・・・・・結構、あんたって癇に障るこというね。」
「僕は一番君を知るものだからね。」
セツは嫌そうな顔をして目をそむけ窓を見る。
彼は黒い箱を見つめて、ドからドまで指で弾いて見る。綺麗な音がする。美しい調律だ。
「君を知るのは、本当に難しいんだよセツ。」
ピアノが悲しい音をだす。
「セツ。セツが自分を理解してもらいたいのに、してもらえないのは、そのためだ。」
大嫌いな音が鳴る。

19,
どこに行こう。
どこに逃げよう。
どこにいったっておんなじだ。
ラピス・ラズリをさがさなきゃ。
それを手にしたら私はきっと変われる。
そしたら、きっと何かが変わる。
私はただ真っ直ぐいきたいんだ。
私はただ、この欠けたみたいな心をなんとかしたいんだ。
人を心から、愛してもみたいんだ。

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ノックの音をきいて、老婆が顔を出した。
「いらっしゃい。」
彼女は僕たちの名前や素性を聞くことなく、僕達を家の中に引き込んだ。まるで来る事がわかっていたみたいだった。セツは黙ってた。
「探してるものがあるのかねぇ?」
老婆はそういった。僕は驚いた。
「なぜ?」
「そう顔にかいてある。」
「ラピス・ラズリを探しています。」
セツがはきっと言い切った。
「それは大変な物を探してるね。」
「・・・存じてます。」
「ふむ・・・・・。名前は?」
「セツ。」
「セツ。ラピス・ラズリを手に入れて何を望む。」
「完成です。」
「なるほど。」
老婆は腰を降ろした。
「確かにラピス・ラズリは完成をもたらす石だ。」
あぁ、やっぱり石だったんだ。僕は確認した。
「蒼い光をもって、欠けたものをうめる。」
「埋めたいんです。」
「何故?」
「・・・自分を認めたい。」
セツが言った言葉が心に響いた。自分を認めたい?セツの心の中が見たくなった。
何をそんなに。認めたいって言うんだ。
「いいだろう。」
魔女はいきなり観念したように言った。
「ラピス・ラズリの見つけかたを教えよう。」
「みつけかた。」
「そう。スペルだ。ラピス・ラズリを見つけるにはスペルがいる。」
「・・・・・スペル?」
魔女は頷く。
「そのスペルは見つける者によって形を変える。とても見つけにくいものだ。」
「・・・・難は承知です。」
「よろしい。」
魔女は微笑んで見せた。
「では、スペルを見つけておいで。そしてここに戻ってきなさい。」
「ここに。」
「あぁ。そしたらきっと見つかる。」
「・・・・・・・・・・・・ここにあるんですか?」
「ここにはない。正確に言うと、まだ、ない。」
セツは黙ってその言葉を確かめていた。
「ここは、単に、スペルを発動させる場所であるだけだ。」
セツは頷いた。
「スペルですね。」
「そう、セツだけの、セツにしかわからないスペルだ。」
「わかりました。」
セツは頷いてから、頭を下げた。
「ありがとうございます。」
「いいさ・・・でもセツ。」
「はい。」
「未完成ではダメなのかい?」
「・・・・・・・・だめです。」
言い切った。
「未完成では、認められないんです。」
「・・・・そうか。難儀だね。」
魔女は悲しく笑った。



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