「グランドでいい?」
ショータが尋ねる。放課後。練習を終えた後。
「いいっすよ。どこでも。」
「・・・あ、じゃあ、橋の下、いこっか。」
「・・・ああ。」
頷いた。
そして自転車であの場所まで行った。
軽くキャッチボールから始める。
「あの子、こっちの高校に来たんすね。」
「え?!」
「ほら、夏の。」
「・・・ああ!なんだ、渡辺もあったの?」
「会いました。」
ボールが行きかう。
「もてるんすね。」
暴投。
「・・・何してるんすか。」
走って取りに行く。
「も!もて、とかじゃないよ!」
テンパった。
「・・・アサヒは?」
投げる。
「・・・ア!サ!・・・アサヒは!そういうんじゃないよ!付き合ったりとか、好きとか、そういうんじゃ、なくって!」
テンパってるなぁ。
「ふーん。・・・好きじゃないんすね。」
「き!嫌いじゃないよ!」
好きなんじゃん。
俺は座った。
「一球。まっすぐ。」
構える。
ショータは頷いて、振りかぶる。
普通のストレート。
遅いな。平凡だ。
「もう一球。」
バシ!
今のは良かった。
「フォーク。」
要求。
頷いて、投げる。
来た。
「!」
落ちた。
良い。落ち方だ。まだ、足りないけど。この落ち方。タイミング。アサヒだ。
「・・・・・ナイスボール!」
投げ返す。
「スライダー!」
来る。
曲がる。うっすらと。もともとの持ち球にスライダーもあったみたいだけど。どうも、あんまり進歩してる気配はない。
「・・・もう一球!」
何度も、要求する。
でも、まだだ。まだだ。まだ。
まだまだだ。
もっと、捕りたい。もっと、ぞくっとさせられる球を。
俺の技術限界くらい。感じさせてもらえるような。
俺はそんな球が欲しくて、此処に来たんだから。

「練習?」
帰ったら青木が家に来ていた。
「おう。」
どさっと荷物を降ろす。
「お前、ショータとバッテリー組みたいんだって?」
「うん。監督にはそう言った。」
「ふーん。」
「別に青木と組みたくないって話じゃねぇよ。」
「言ってねえよ。」
笑った。
「俺は二年の上田と結構ずっと一緒に練習したんだ。」
「ああ、あの人はうまいよな。」
コーラをゴクゴク飲む。本当はあんまり身体に良くないみたいだけど。そんな悪くもないだろう。
「炭酸禁止だぞー。」
「・・・はいはい。」
ち。
「負けねぇよ。」
「え?」
「ショータには、俺、負けねぇからな。」
「・・・。」
青木の眼。真っ直ぐ。強いな。これはバッター、睨まれたら怖い。
「・・・青木の球も今度捕らせてよ。」
野球。
で、また。毎日がいっぱいいっぱいになる。
洪水のように。そのことばっか考えて。
食事とか、睡眠とか。そんなことまで、全部。繋がってく毎日で。
でも。
悪くないな。
「捕れるもんならな。」
「捕れる。俺、速いって理由で球こぼしたことない。」
「美河はそんなに早いってわけじゃなかっただろ。お前ずっと美河の球ばっかり捕ってたくせに。」
「バッティングセンターで練習した。130は余裕。」
「生意気!」
「じゃあ、140投げろよ。」
笑う。
悪くないな。

また、毎日が野球で、苦しくて、窒息するのも。
また、夏が待ち遠しくなるのも。

⇒あとがき

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