「芳樹。」
アサヒと帰り道に会った。
相変わらず、ふらふらといろんな所を散歩してる。猫みたいなやつだ。
「何してんだ。」
自転車から降りて近寄る。
「散歩。」
分かってたけど。
「飯でもいかね?腹減った。」
「お母さんに連絡しないと。」
「あー、もう用意されてんならいいよ。」
歩き出す。
「ショータの球、捕った?」
「今日は捕ってない。俺、1年だぞ。で、あの人は2年。」
「・・・そか。」
「でも合宿いけることになった。」
「そうなんだ。」
「あの人もくんだろ。」
「うん。行くって。」
「クラス一緒だっけ?」
「ううん。分かれた。」
「そか。」
アサヒを見る。
なんか久しぶりに、並んで歩いたな。
「・・・。」
こんなに背が低かったっけ。
「なんか持とうか?」
アサヒが問う。
俺は自転車にどかっと大きな荷物を乗せつつ、肩からもカバンをかけている。
アサヒは軽そうなカバン一つだ。
アサヒの方を見る。
「いや、別に持ってもらうほどじゃ・・・、な。い。」
「?」
「・・・なんでもね。」
・・・分かった。
ナチュラル、なんだっけ?悩殺?って言われるわけ。
ふたつあいたブラウスの隙間から、見えてしまった。
昔からボタンは開いてたけど。気にしたことなかった。
うわ。あの時より絶対大き・・・―――
ダメだ。・・・やめとこう。考えるの。
「・・・乗るか?」
「・・・歩いてもいいけど。」
「俺けっこう疲れた。」
「・・・乗る。」
俺は自転車にまたがり、アサヒを後ろに乗せた。
細い手が、後ろから腰に巻き付く。
「・・・。」
やっぱ、女だ。こいつ。
小学生の頃のあの骨っぽい細さじゃない。柔らかいラインがある、細さ。
「汗くせえけど。」
「・・・気にする?」
今更か。
お互い汗だくになって一緒に野球していた仲だ。
こぎ出した。
あたりはすっかり暗い。
「・・・ねぇ芳樹。」
「んー。」
「寄って欲しいところがあるんだけど・・・。」
「・・・・・うん。」
分かってた。
分かってた。どこに行きたいのか。
俺も、行きたい場所があったから。
あぁ、ホント。お互いのことって手に取るように分かる。
多分俺が、アサヒのことを一番わかってると思う。

自転車を止めた。
墓地。
アサヒは手を合わせる。俺は、その細っこいアサヒを後ろから見つめてた。
「・・・ずっと。全然来れなかった。」
「・・・うん。会わなかったね。」
アサヒはきっと毎日のように来てたんだと思う。
「芳樹に会えるかもって、思って。いつも期待してたんだけど。」
「・・・悪かったな。」
アサヒは振り向いた。
俺はそのアサヒの横を抜いて、墓前で屈みこむ。
そしてゆっくり手を合わせた。
「・・・ごめんな、シン。」
泣きたくなった。
どうして、いなくなったんだ。って、恨んでた。
俺は俺のことで精一杯で、全然周りが見えていなかった。
シンが一番、死にたくなかったよな。
シンが一番、泣きたかったよな。
ごめん。
「芳樹?」
あ、ダメだ。
俺、泣いてる。
そのままぐっと屈みこんで、震えるしかなかった。
「・・・。」
アサヒが側に来て、横で屈んで、肩を抱いてくれた。
何も言わない。
何も言わなくても、分かってる。
俺も、アサヒも。
分かってる。


「ショータさん。」
廊下ですれ違って声をかけてみた。
「あ!渡辺!」
にっこり笑ってやってくる。
・・・なんか、ちょっと。シンに似てるかも。
「何?」
「あの、今日夜暇っすか。」
「え?練習後?」
「はい。ちょっと、投げてほしいんすよ。」
「・・・。いいよ!俺も練習したかった。」
「ありがとうございます。」
「渡辺も合宿行くんだろ?」
「はい。」
「青木も、三善も喜んでた。」
「・・・どもす。」
「頑張ろうな!」
「・・・はい。」
頷く。
やっぱり。
シンに似てる。
「あ!ショーター!」
三善さんの声がして、駆けてくる。
「う、わ!三善!なんだよ。」
ぶつかる。
・・・いつもこの人は突進してくるよぁ。
「れ、渡辺も?」
「ちわす。」
「なぁなあ、ショーター!昨日の女、誰?誰?」
「・・・女?」
「うわ!ちょ!三善!」
慌てる。
「美河アサヒに加えて、もう1人ってー?憎い!憎いぞショータ!」
「あれは!ほら、あの子だよ!夏の試合の時に、練習見に来た・・・!てかアサヒもそういうんじゃないから!」
「・・・。」
あ、なんかいたかも。
「へぇ!?あの子って九州の子だったんだろ!?」
「あ、なんか、こっちの高校に入ったんだって。美術の専門、あるだろ?」
「ああ!青高か!って、へぇー!美術の子だったんだ!ってかすげぇ!そんなところからショータの追っかけかよ!」
「そうじゃないって!なんか親戚の人の家がこっちにあって・・・!」
「チャイムなるんで、行きます。」
「って、渡辺!」
スタスタ。
と。
実は、ああいうの、苦手だ。
わいわい、と。女の子の話したり、ま、猥談したり。
あんまり得意じゃない。どうしてもって時は、聞きに徹してしまう。
話を振られても、答えるものなんかないからだ。
小学生の頃は、そんなことより、野球の話。みたいにしてしまってたし。
中学の時は、興味ない、と一点張りできた。
実際そうだし。
―――美河は?
絶対訊かれてた質問。
・・・なんて答えてたかな。
実際明確な答えなんて、俺自身分かってない。
「好き」なのか、「嫌い」なのか、とか。「女」なのか「投手」なのか。とか。
そこの境界線が、俺自身引けてないんだ。
もし1つだけ言うとしたら。
「・・・・。」
一番、お互いを理解し合った存在、ということだ。



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