12,恋人 (塔1-31, 裏エピソード)⇒塔1-31,へ


「ひさしぶりーっ。あ、憶えてる?私の彼氏!シードル!」
「・・・・・・・・・・どうも。」
愛想なくそれだけいって彼を見つめた。
「あれ?あのこは?あのかわいい子。女の子みたいな。」
「スピカか?」
すごい言われようだ。
「そう。あの子が来るかと思って一応私も彼氏連れてきたのにー。」
「スピカは来ないよ。」
「ふーん。」
「じゃあ、俺もちょっと席外そうか?」
「えっいいじゃない。いなよいなよ!」
コウヤは彼を引き止める。相変わらずだな。この子のテンションは。
「じゃ、ちょっとお酒かって来るよ。セツちゃんは何飲む?」
セツちゃん?ぞわっとした。
「林檎酒。」
「コウヤは?」
「ワインっ。」
「おっけー。」
シードルという男は席を立ってカウンターへ行った。
「セツっ。」
「なに。」
「ねぇねぇあのこっ!スピカ君?何処で会ったの?何歳?」
「・・・なんだよ。スピカのことなんてどうでもいいだろ。」
何歳?知らない。一つか二つ・・・や、もっと下だろうか。上ではないだろう。
「えー!だって、セツの彼氏デショ?」
「・・・彼氏って・・・。いや、そんなんじゃないよ。」
「彼氏じゃない?えっじゃあ、なんで一緒にいるの?」
「・・・なんでって。一緒にいて問題があるか?」
「そうじゃなくって。彼氏じゃない子と一緒に旅とか、ありえないよーっ。」
「・・・・。」
ルクはどうなるんだろう。あいつは確実に恋人ではなかった。
「ありえないか?」
「ないない。えっでもじゃあ、好きなんでしょ?」
「・・・スピカを?」
「うん。告ったの?」
「・・・なんでだよ。」
「好きじゃないの?」
「・・・嫌いな理由はない。」
コウヤは呆れたようにため息をついた。
「だめ、だめよーセツそんなんじゃっ!」
「なにがだよ。」
「だって、セツもうなんだっけ、19?20?じゃん!え、じゃーさ、一緒にいるのはなんで?」
「・・・なんでって、一緒に行ってもいいかって言われて。断る理由がなかったんだよ。」
「えーっ!じゃあスピカ君はセツのこと好きなんじゃないの?」
なんでそうなる。
「セツって鈍感だよね。」
ちょっとむっとする。鈍感?何に対して?
「なんか時々セツって男の子振り回してる時あるよね。」
「・・・・振り回す?」
「セツのこと好きな子とかにさ、なんか希望もたすようなことする、みたいなっ。」
「・・・誰の話?」
「アルのこと。」
「・・・あいつか。あいつ元気なのか?」
「うん。多分っ、ちょっと前にここの仕事辞めちゃって町でてっちゃったよ。」
「で?アルが私のことを好きで?なんだ?」
身に覚えがない。
「ほら、一回アルの家に泊まりにいったりしてたじゃない。」
「宿がなかったんだよ。此処らへんは・・・。泊めてやるって言われたから泊めて貰っただけだ。」
「や、セツにその気がなくっても、むこうにはその気持たせちゃったんじゃないの?私はそう思う。シードルも言ってたよー。」
自分の話が知らないところで、こんな『主観』で話されていたと思うとむかついた。
「・・・じゃあ、アルの好意蹴って野宿したほうがよかったのか?」
「そうじゃないけどさ。わかんない。アルのこともよくは知らないし。どんだけセツのこと気にいってたとか。」
知らないのにそんなに決め付けるのか。
「で、だからさっ。スピカ君もそうなんじゃないのー?セツっもうちょっと男の子のこと考えてあげてよ。」
「・・・言っても私はそんなに女の子って感じじゃないし。女の子扱いされるほうが少ないよ。そういう対象で見てないだろ。」
「わかんないよー。だって私もシードルが私のこと好きだって、告白されるまで知らなかったもん。シードルって、すごいポーカーフェイスだからさっ。でもシードルから言わせたら、私もぜんぜん何考えてるか読めないんだってっ。」
「・・・まぁ、常にそのテンションだしな。」
どうしよう、帰りたくなってきた。
「はい。おまたせ。」
そこにお酒が届く。なんしか、これを飲まなければ。
「どうも。」
シードルは微笑む。
「で、なになに?なんの話してたの?」
「セツの恋について。ねぇシードルも何か言ってあげてよ。」
これ以上?もうほっといてくれ、私の恋愛なんてどうでもいいだろ。
「うーん。あんまり状況知らないんだけど、セツは多分もうちょっと自分が女だってこと自覚たほうがいいよ?」
「・・・自覚?」
心臓がざわめく。
してるつもりだ。
そうしないと何かに飲み込まれそうになる。
『俺』、がやってきて頭を埋める。
窒息させられてしまう。
それがこわくてこわくて確かめたこともある。
「してるよ。」
「や、足りないんだよ。」
足りない。ずくんと痛む。
これがいっぱいいっぱいだ。
女だとめんどくさい事がある。
だから男のふりをすることはある。
だけど意識が消える時以外は、自分の身体は、精神は、女だと思ってた。
たとえ『俺』と自分のことを呼んでいたとしても。
「あーなるほどなぁ。」
「え?」
コウヤがスピカのことを説明したらしい。
「男としてはどっちか分からないのは結構辛いからなあ。コウヤは結構口に出してくれるから助かるけどさ、セツちゃんはどっちかっていうとあんまり喋らないタイプだろ?」
タイプ?まぁ、喋るほうではないが。
「や、甘えたい時とかあっても、あんまりうまく甘えられないタイプだろ?」
「・・・・・・・・甘える・・・・?」
それは塔に反する行為だ。二度としない。
「コウヤはなんか上手に甘えてくれるから男としては楽だなぁ。いつもは何考えてるかわかんないけど。」
笑う。
「甘えたくない。」
呟く。
「えー?甘えたくないんだ?」
コウヤが目を丸くする。
「へんだよへんだよーっ!」
へん?そうなのか?
「私結構甘えるよ。甘えたらいいじゃん。甘えなよっ。」
「・・・・・甘えたら、どうなるんだ?」
「え?どうなるとかじゃないよー。ただなんか楽になるじゃない。甘えちゃいなよ。」
「・・・甘えたくないのに?嘘ついて甘えた方がいいってことか?」
「わかんないけどさ。」
また、わからないのか。なんなんだ。
「スピカ君って多分すっごい奥手だと思うんだよね。多分だからセツが甘えるの待ってるよ。」
「・・・だから、スピカはそういうんじゃないんだよ。」
いらいらしてきた。
続く、この恋バナとやらに。
頷いて、適当にしてやりたかった。
だけど、ところどころ塔が軽く否定される。
それに心が痛む。
問い直さずに入られない、じゃあこうなのか?でも答えはいつも「わからない」だった。
いらいらした。
3杯目の林檎酒を飲み切って席を立った。

帰り道。
どうしようもないイラツキが体を、頭を襲った。
めんどくさいんだよ。
恋だとか。
そういうのは。
汚いものしか見てきてない。
ふと、母親と、王を思い出した。
むかついた。
こんな呪いを産むような、そんなものなら、いらないんだ。

「おかえり。」
スピカが毛布から身を起こした。
「・・・楽しくなかったの?」
「あ、ごめん。起こした?」
「ううん。待ってたから。」
「ありがとう。・・・・・・・・・・あー・・・。」
だらしない声をはき出した。
「大丈夫?」
「うん、疲れただけ。」
「久しぶりの友達との再会、楽しかった?」
「うん。・・・でも、疲れたよ。」
疲れてしまった。
寝る時にもさっきの会話が頭をまわる。
スピカに愚痴ってしまったと言う後悔がまわる。
次の日、目を覚ましたらスピカの前にも壁が出来上がっていた。


12,恋人 おわり
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