15,ラピス・ラズリ ※挿絵あり


探さないといけないものだった。

青い石。
群青の石。
宝石のように輝いて、完成をもたらすもの。
真理なるもの。
埋めるもの。
この心の中の空洞をなんとか埋めてしまいたい。
切実に、死ぬほど思った。
未完な自分に腹が立つ。
ほつれる糸で、絡まってしまっている自分にいらいらする。
どうしてみんなその空洞を埋めたいと思わない?
完成している人間なんて、知ってる限り一人としていない。
どいつもこいつも、どこかで、欠けている。
こっちがイラッとする位の人間もいるのに。
世界を作ってもいない人間もいる。そういう空っぽを極めたみたいな人間を見ると、問いかけたくなる。
―――どうして、空白を埋めようとしない?
どこで知ったかは憶えてないが、ラピス・ラズリを求めた。
知る人間には知られている。
事実クシスに話した時にやつは知っていた。ルクも知っていた。


「過去に手にしたやつはいないと聞くよ。」
クシスは白いワインを片手に言った。
こいつと飲む時、奢ってくれるのは白だけだ。
いつまで白の甘口が好きだと思ってるんだろう。赤だってもう飲める。
「それでも望むのかい?」
「・・・上等。簡単に埋められるものなら、埋めてる。難しいのは百も承知です。」
「完全なものなどこの世界にはないよセツ。神話の中の神たちですら不完全だ。戦いの女神もね。」
「・・・戦いの女神・・・?」
「レイン・シュスプーだよ。」
「知りません。」
「ツェウス神話だ。レイン・シュスプーは見目麗しい女神だが、その手で剣をふるえばいかなるものもかなわなかったと言う神話最強の女神だよ。」
「・・・へぇ。」
「でも彼女にも一つだけ弱点があった。」
「弱点。」
「孤独だよ。」
「・・・孤独?」
「孤独に耐えられない女神だったんだ。」
「なんですかそれ。」
「欠陥だろ?」
「・・・空白だ。」
「そう、彼女はその空白を埋めようとする。その美貌で常に男には苦労しなかっただろうけどね。」
「単なる尻軽女だろそれじゃ。」
「あはは。だけど欠陥が此処にも一つ。彼女は他人を愛せない女神だった。」
「・・・・・・・・・・愛せない?」
「全能の神のプロポーズを蹴ったんだ。それで怒りをかってそういう風にされてしまった。」
「・・・・全能の神もなかなかひどいことするな・・・。ふられた腹いせじゃないか。」
「男なんてそんなもんだよ。手に入らないなら誰にも奪わせない、ってね。だからレイン・シュスプーは戦い続けたんだよ。戦いの中にいれば、人の中にいれば孤独にはならないからね。」
「・・・・・・・・・・へぇ。」
「悲劇だよね。」
「・・・まぁ。素敵な御伽噺じゃないですね。」
「そんな神たちから派生したのが人間だ。欠陥だらけなのは当たり前だろう?」
認めたくなかった。そんなこと。
欠陥なんて要らない。
「その、レイン・シュスプーは。」
「ん?」
「・・・ラピス・ラズリを求めなかったんでしょうか。」
「・・・・・・・・・うーん。」
クシスは難しい問題を噛み砕いてうなった。
「どうだろうね。」
そして笑った。


魔女はスペルがいると言っていた。
そしてあの魔女の元へ戻ってスペルを発動させる事が出来たら、手に入れる事が出来ると言った。
そのスペルは、他人と共にいないと手に入れる事ができないものだった。
他人の中でも、『鍵』とでなくては、手に入れる事が出来ないものだった。
そのスペルは、手に入れた。
だけど、今はもう、あの場所に戻って、スペルを発動してラピス・ラズリを手に入れようとは思わない。
このスペルだけで、十分だ。
水色の空も悪くない。
群青に染めるまでもない。


15,ラピス・ラズリ おわり
⇒挿絵ページ
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