野球少年5


夢が終わった後、夢ってのはどうなっちまうんだろう?
「・・・。」
目を覚ました。
「・・・やべ・・・遅刻!」
がばっと起き出す。
「裕也!ごはんは!」
「いらない!行ってきます!」
走り出す。

あぁ、なまったな。

こんなささいな瞬間ですら、そう思ってしまう。


大学に入った。
推薦をもらって野球バリバリキャンパスライフを送っているモトと、同じ大学だ。
俺は、普通に受験をして、正門からこの大学に入った。
推薦をもらわなかったわけじゃない。
でも、なんでか、そっちを選べなかったんだ。
「大伴!」
「!」
おっと。心の中でも噂をすれば、現れるものなのかな。
「よぉ。」
モトが笑いながらやってくる。
「おっせー!一限終わったぞ。」
「や。寝坊でさ。」
「へぇ?珍し!お前絶対遅刻解かなかったのにな!」
「・・・。」
ああ、そうだった。
「今日も部活?」
「ん、おう。そう、4限に。夜もちょっとあるな。」
「そうか。」
野球のにおいが、する。
「なあ、大伴。」
「あ?」
「なんで。」
真剣なモトの顔。
「なんで、野球やめたんだ。」
キャプテンの顔だ。

レギュラー争いはいつもこいつとだった。
モトの肩はすごいし、バッティングも得意。んで、人望もあったら、もう勝てる気なんかしない。
結果、俺はずーっと、モトの金魚のフンみたいに2番手に控えてるやつだった。
監督は俺も同じくらい評価してくれてたのか、試合に出る回数は大幅に差はなかった。
変な2人体制だった。
ただ、俺は3年間エースの球はほとんど捕ってない。

「別に。」
笑った。
「野球バカってのから、ちょっと足を洗ってみたくてさ。」
本音だ。
嘘はない。
「・・・。」
モトの顔は納得のいかないって顔だ。
「あ、やべ。2限始まる!じゃな!」
俺は走り出した。
それは、逃げ、だったのかもしれない。


甲子園に行った。
それは、小学生の時からの夢だった。
夢がかなった。
だけど、それは苦しい夢だった。
息が切れる。
汗がにじむ。
あの炎天下の中。
俺は一瞬たりとも夢をかなえた幸福感を感じなかった。
結果は、3回戦で敗退。
終わった時。
俺、すごい虚無感に襲われたんだ。
純粋にここまでこれたのは嬉しい!って気持ちと。
優勝旗が欲しかった!っていう悔しい気持ちと。
それから。
夢が無くなってしまったという、空腹感。
全部入り混じって、俺は立ちすくんでしまった。

専攻は、教育。
体育は落ちてしまったので、まあ無難な社会を専攻してる。
部活はやってない。
なにもやってない。
バイト、始めようかな。なんてぼんやり思ってたら、ゴールデンウィークなんてものが近付いてきてた。
「・・・ああ、もうすぐ合宿だな。」
呟いた。
俺達の高校はゴールデンウィーク、選抜だけで合宿に行く。
俺は3年間行った。



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