野球少年3


「・・・あ。」
なんだか休憩をはさむみたいで、球児たちが集合した。
「・・・えっ。」
どきりとする。一人の少年が。あの投手が、その輪の解散と同時に、こちらに向かって駆けてくる。
「わ、わ、わ!」
どうしよう!
心の準備が!
何話せば、何言えば!み、見てるだけでよかったのに!
「ちわ!」
彼は鋭い声で挨拶して、帽子をとって頭を下げた。
「こんにちは。」
佐奈さんは微笑みながら挨拶した。
「こ!こんにちは!」
私が挨拶した時、彼は頭を上げて、こちらを見た。
うわ!
「あの・・・、なんか、わざわざすいません。」
なぜか謝ったのは彼だった。
「えー・・・と。俺、原田です。えっと。あの、練習、あんまり面白くないと思うけど。まぁ、あの見てってください。」
「・・・・は・・・、あ・・・は・・い。」
うわあ。言葉がうまくでてこない。
顔がほてってきた。
「あ、お名前は・・・。」
「あ!の!野田、真琴です!」
「野田さん。あ、どうも。ほんと。」
「い・・いえいえ!」
お互いにてんぱりまくっている。それを見かねて佐奈さんが。
「二人とも、なんか似てるねぇ?」
「ええ?」
こんな人と、私が?!そんな、めっそうもない!
私は平平凡凡ピープーですから!
「そんな・・・原田さんみたいな・・・!すごい人と・・一緒にしちゃ・・・!」
慌てて訂正する。
「あ・・・いや、俺。全然すごくないっす。」
「・・・・いや!そんな謙遜!」
「いや、本当に。」
彼は笑った。
照れくさそうに。
「俺、ずーっと、平凡で。レギュラーとか、まだまだ夢っつぅか。」
「・・・・・え?」
「前はもっと、何やっても、中途半端って感じで。自信ないし。」
「・・・・・。」
「自信ないと、パフォーマンスも落ちるし。」
「・・・・自信・・・なかったんですか?」
「い、今もあんましないよ!」
「・・・嘘!」
「嘘・・・じゃ、ないよ。」
彼は笑った。
「俺が誇れるのは、あのフォークだけ。それだって、まだまだ。約束した奴を満足させるに至ってない。」
「・・・それを投げれられる自分は・・・?」
「・・・あのフォークは、俺が預かってるだけだから。」
「・・・預かってる?」
「うん。多分、ずっとだけど。」
「・・・・・・・・。」
何を言っているのか、私には分からない。
「わ・・・。私。」
何を言おうとしているのか、私。分かんない。
「・・・全然。自信なくて。」
俯きそうになる。
「皆、見てると。皆すごいし。私、とりえとか、ないし。暗いって言うか。・・・キラキラできなくって。」
「・・・。」
何話してるの。私!
でも止まらない。
「昨日の試合で原田さんを見て、あのボール見て・・・、原田さんに会って話してみたいって思ったんです・・・!」
それは、失礼ながら。
彼が平凡なボールを投げながらも、強烈な、閃光を放って宙を駆ける、あのフォークを投げるから。
一瞬の煌めきが、嘘のように心をつかんだ。
「・・・俺、平凡でしょ。」
彼は微笑んだ。
「でも、ある人が言ったんだ。俺が、平凡だから、あのフォークを投げれるって。」
「・・・。え?」
「俺にあのフォークを預けてくれた人。その人がね、平凡だから。変な癖無いから。教えたら、綺麗に憶えてくれそうで。ってさ。」
「・・・褒め・・言葉?」
「多分そいつは褒めたんだろう。」
あ、なんか。良い笑顔。
「俺、野田さんにちょっと似てるかも。」
「え!?」
「なんかそういう、自信なくって苦しんだりするところ。」
「・・・・。あ・・・。」
「遠目にさ、ああいうレギュラーとか、選抜組とか見て、あぁすごいな。いいな。って思ってた。で、自信なくしてさ・・・。でもさ、それって負けず嫌いだからなのかなって、思う。」
「負けず嫌い・・・。」
「自信が人一倍ないのも、それで苦しくなっちゃうのも。全部。悔しいから・・・かな、なんて。」
へらっと笑う。
「野田さんも、もしかして、すっごく負けず嫌いなのかもね。」
「・・・そ、そうなのかなぁ?」
んー?競争は好まないタイプだぞ?・・・あ、でもこの人も多分、好んだりするタイプじゃない。
「知ってる?負けん気強いやつは、なんでもできるんだって。」
「・・・え、何それ・・・?」
「うちのばあちゃんの言葉!はは、なんか元気でるだろ?」
「・・・・・・う・・は・・・はい。」
耳が熱くなる。
「野田さん。多分俺があのフォーク投げるから会って話してみたいって思ってくれたんだと思うけど。俺ってそんなすごくないんだ。」
「・・・すごいです。」
「じゃあ、俺に似てる野田さんも多分、すごいんだよ!」
「・・・・・。」
どうしよう。
「って、ことでよくない?」
どうしよう。今日。
「・・・ひとつだけ。」
「ん?」
「違うかも。」
「・・・何が?ごめん、変なこと言った・・・?」
「あ、いいえ!あの、私が、原田さんに会いたいって思った理由。」
「・・・?」
「・・・原田さん、私に似てるのかなって、期待したから・・・だと・・今なら、・・・思います。」
「すごいね。ピッチング見ただけで分かっちゃう?」
「目・・・!目だけはいいから私!モノ、とらえて、描いたり、洞察したり、そういうのは・・・得・・・意だから・・・!」
「す、すごいね!いいな、動体視力。俺も欲しい。」
「あ。そういうのは、あの、よくて。そうじゃなくて、・・・今日・・・。会えて、話せて、よかったです。」
会えてよかった。本当に。
「想像通りで。」
平凡で。
「・・・勇気、もらいました。」
私も、私にもあなたみたいに輝けるかも、って。
なんか失礼だから、言葉にはしないけど。
「今、原田さんが全部言葉にしてくれたこと、全部。今日聞きたかったことだった。」
「・・・そっか。良かった。」
彼はにっこりと笑った。
「あ。そ、そろそろやばいから!いくね!」
「あ、はい!」
「わざわざありがとう!じゃあ!失礼します!」
頭を下げて、彼は駆け足で皆の方に戻っていった。
「・・・なんか、面白い子だね。」
佐奈さんが呟く。
「うん。」
頷く。
原田さんは、仲間の人にこずかれてた。
「・・・帰ろう。」
私は、夏の風を感じて呟いた。

次の日。
原田さんの学校は、負けた。
8―3。
原田さんは、出てくることはなかった。


「・・・お母さん。」
「んー?」
「私、おばさんのところの高校。受験する。」
「・・・・・・・・・・・・はぁ?」
持っていたせんべいを落として、母は驚いた。
「止めても無駄だからね。絶対、行くから!」
「と、とっと、と!ちょっと待ちぃ!」
待たない。
走る。
私は。
絵を、勉強するんだ。

そしていつか、原田さんに会いに行こう。
負けない。
負けない。
負けない。
それだけあれば、なんだってできるんだ。

その言葉を、私が証明しよう。


野球少年3 終わり
⇒あとがき(イラスト有)


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