4,北へ

僕の顔はすぐに熱くなる。
セツはいつも冷静に僕を見る。
莫迦。
「なんだよ。」
「なんでもない。」
セツは息をつく。嘘がばれている。
二人で旅を始めて一ヶ月くらいたった。
反乱軍達は情勢をどんどんたてなおしているらしい。
詳しいことは知らない。
僕とセツは一度北に行くことにした。
ゆっくりと歩いて旅をしている。
「・・・スピカはいつも赤くなるんだな。」
ますます顔が熱くなる。
莫迦。
セツが笑った。
莫迦。
「なれないのか?」
「何が。」
ふてくされる。
なれません。なれませんよ!
セツはますます笑った。
「・・・セツは・・・昔恋人とかいたの?」
僕はきいてみる。
「・・・ききたいの?」
僕は尋ねておいて躊躇する。
だって聞いても絶対にムカツクだけだ。
分かってるのに、気になる。
「・・・まぁ。人並み以下だ。いい思い出なんかないよ。私は・・・逃げていたから。」
セツの顔はもう笑わない。
「・・・ルク様・・とか?」
そして複雑な表情をする。
「ルクは・・・違うな。・・・ルクは・・・共犯だ。」
共犯?なんの?
「・・・ルクを・・・利用したようなもんだから。」
「・・・セツ。」
セツは俯きかけていた顔を上げた。
「それで?スピカは?」
「え?」
「情報におけるフェアだ。崩す気じゃないだろうな。」
「ちょ・・・。そんなに情報得てないよ。」
「スピカ。男らしくないぞ。」
「だって・・・っなにもないもん。なにもない!」
僕は言う。
だって本当に何もない。
じゃなかったらこんなに苦労していない。今。
「ふーん。」
セツは思ったよりあっさりと信じた。
なんかそれも悔しかった。


スピカはいつもすぐに顔を熱くする。
私はいつもそれをまじまじと見てしまう。
あ、今、莫迦って思った。
手に取るように分かってしまう。
「なんだよ。」
聞いてみる。勿論答えは。
「なんでもない。」
嘘つきだ。
息をつく。
スピカと旅を始めて随分だった気がする。
時間的にはたったの一ヶ月くらいだろうけど。
今は北へ向かっている。
大した理由はない。
というか、理由はない。
随分のろいペースで歩いている。
「・・・スピカはいつも赤くなるんだな。」
あ、ますます顔が熱くなった。
なんだか可笑しくて笑った。無駄に無垢なやつだ。
「なれないのか?」
茶化してみる。
「何が。」
ふてくされる。
すぐに膨れ上がる。
いっそう笑った。
「・・・セツは・・・昔恋人とかいたの?」
スピカが聞く。それは疑い。
「・・・ききたいの?」
スピカは尋ねておいて躊躇する。
「・・・まぁ。人並み以下だ。いい思い出なんかないよ。私は・・・逃げていたから。」
昔を振り返ってみる。
気持ちのいいことじゃない。
塔の間を通り抜けて、そしてもどって見なくてはならないから。
結構嫌な物だった。
「・・・ルク様・・とか?」
スピカがおそるおそる聞く。
苦い何かを噛み砕いた。
水溜りの泥に右の足がはまった感覚だ。
「ルクは・・・違うな。・・・ルクは・・・共犯だ。」
思う。
あぁ、結構心臓がしまる。
ルクの塔は特別なところにある。
尊敬しているし、好きだ。
だけど、自分の呪いの全てを知る男。
自分が恥ずかしくなる。
一緒にいて、複雑だ。
「・・・ルクを・・・利用したようなもんだから。」
そう。利用した。
一度、苦しくて、苦しくてルクに呪いをうつした事がある。
そうしたことで自分の呪いが軽くなったわけじゃなかった。
むしろよりいっそう苦しくなった。
無様に泣き続けた。
ルクは次の日なにも言わなかったし、その後自分を求めることもなかった。
ただ、本当に私がルクを利用しただけになってしまった。
あぁ、まいったな。結構思い出してしまった。
「・・・セツ。」
スピカが心配そうな顔で名前を呼んだ。
「それで?スピカは?」
くるりと振り向いてスピカに尋ねてみる。
「え?」
「情報におけるフェアだ。崩す気じゃないだろうな。」
「ちょ・・・。そんなに情報得てないよ。」
スピカは首をふった。
「スピカ。男らしくないぞ。」
「だって・・・っなにもないもん。なにもない!」
必死で言う。
まぁ。これくらいにしてやるか。
「ふーん。」
・・・あ、またすねた。
分かりやすい男だと思った。いっそ愛しい。
「いくぞスピカ。」
すこし脚を早めてみる。
「あっ。待ってよ。」
スピカが追いかけてくる。
その手を掬い取る。
スピカの手はぬくい。
そんなに大きいほうじゃないけれど、どうも安心する。
スピカは微笑んだ。
「セツ。今、僕の手って安心するって思ったでしょ。」
「え?」
「肩の力がすこしだけ抜けたから。」
スピカはにっと笑う。
肩の力?
気にしていなかった。そうなんだろうか。
じっと彼の笑顔を見る。
「・・・・・・・スピカには、まける。」
「あはは。」
その無垢な笑い声が。
なんでか耳に心地よかった。
ふっと息を吐いてから青い空を見た。
ラピス・ラズリ程青い空ではないけれど、やっぱりいい天気だ。

北へ 終わり

■5,葉で染む■□□

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