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花吹雪が舞っていた。
「すごいな。」
アングランドファウスト家は、本当に民に慕われてるらしい。
彼らの邸宅の前の広場で、たくさんの民がフェレスの姿を一目見ようと集まっていた。
前に進めない。こりゃ、会えないかもしれない。
「・・・・あれ、あっちの道は?」
邸宅へ入る三つの門のうち、一つの門へと続く道には誰もいなかった。
確かに正面のテラスには面してないからそこからじゃ姿を見つけることは難しいだろうけど。
「あっちは立ち入り禁止なのよ。」
金髪の女の人が親切に教えてくれた。
「へぇ、なんで?」
「あの道はフェレス様をお祝いするためにやってくる貴族達が通る道なの。」
「へぇー。フェレスって、他の貴族たちにも好かれてるんだな。」
「あらっ。それは勿論。アングランドファウスト家の長子だものっ。たくさんの貴族達がフェレス様にとりいろうとしてるのよ。」
「とりいる?」
「フェレス様も成人されるわけだから、妻を娶らなければならないものね。」
娶る。
「あぁ羨ましいわぁ。私も貴族の娘だったらパーティに連れていってもらえたでしょうにっ!なんてっ!おこがましいわね。」
「・・・いや。」
「あ!伯爵よ!」
わぁぁ、と人々の歓声が聞こえた。
顔を上げる。
そこに男が立っている。
見た事がない人だが、彼が伯爵、つまりフェレスの父親だとすぐに分かった。
あの髪の色はクシスに似てる。
そしてその直後に黒っぽい髪の毛の少年がテラスに立った。
フェレスだ。
「・・・・・・・・・・・・・・・・。」
あぁ。
フェレスは立派な格好をしていた。絹の衣に、金糸の刺繍。
成人の証である指輪を指にしていた。
少したくましくなったかな。
背も伸びた。
想像していた通りの成長ぶりだった。
顔も引き締まって、気高さがよく見える。
相変わらず微笑すらしない。
手を小さく振ってフェレスはその場を去った。
「・・・・・・・・・・。」
自分の頬に手をやってみる。
土がついてた。
きっと昨日蹴られた時のものだ。
服も、手にも、埃と土がついていた。
血かもしれないなにかのしみがついていた。
髪の毛もぼさぼさだ。
「・・・・・・・・・・おめでとう。」
微笑んで見た。だけど、なぜか結構無理矢理だった。
あの門へ続く道を走る、煌びやかな馬車を横目に、私はすぐに邸宅に背をむけ、真っ直ぐに帰路についた。
「・・・もう、会えないなぁ。」
ふっと笑った。
いつまで子供でいたんだろう。
今気がついた。
フェレスは、貴族で、私は、武民だ。
それも地図から消された町の。
会えるはずないだろう。
「莫迦だな。」
小石を蹴っ飛ばした。
微笑んで息を吸い、口笛を吹いた。
あの日、吹いていた戯曲の一曲。


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