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「勝者!」
歓声が巻き起こる。
息を切らす。
「譲ちゃん強いねぇ!どこの子?」
手を引っ張られて問われる。
アルブの町の広場。
腕だめしだ。
「バルガン。」
「・・・あぁ!あの武民の!」
「賞金は?」
「うんうん!ここに!さぁ受け取れ!名前は?」
「スザンナ。」
「よし!今夜の勝者はスザンナ!スザンナ!」
手を引っ張りあげられる。
もう一度大きな歓声が聞こえる。
息をはく。

バイトをやめた。
ピティの護衛と、この腕だめしで金を稼ぐと決めた。
剣だけで生きていく事を決めた。
私は武民だから。
アルブの女だから。
「・・・もうすぐ誕生日だ。」
呟いて空を見る。もう16になる。
早い。
家族が亡くなってから、もう3年もたつ。
それはフェレスに会わなくなってからの期間とほぼ等しい。
だけど声がして、びっくりした。
「スザンナ。」
「・・・・。フェレス!」
思いっきり振り向いたら、彼はそこにいた。
「な・・・っなんでここに!」
完全に想定外の出来事だった。
「今ピティにいるんだ。だから、腕試しでもと誘われて。」
「ど・・・どこから?」
「あの塔。あの塔は貴族たちの腕試し見物スポットなんだ。」
「・・・・へ・・。へえ。」
顔を背けてしまった。
顔は笑ってるけど、汗が出てる。
どうしようもない。
隠す術がないんだから。
泥だらけの姿。
「久しぶりだな。」
「うん。久しぶり。」
「こっち向けよ。」
どきっとした。
フェレスの声。
こんなんだっけ?
強い声だった。
言われた通りにフェレスのほうを見た。
「ごめん。」
「なにが?」
「ごめん。会いに行くって言って、結局・・・全然、会いにいけなかったこと。」
「・・・あぁ。」
どうしよう。
真っ直ぐ見れない。
理由はよくわからないが、ちょっとムリだ。
「あ。」
話題を思いつく。
「成人、おめでとう。」
「知ってたのか?」
「あ、うん。皆が噂してて。そんで・・・。」
「・・・それで?」
「・・・行ったんだけど。」
「サリーナ・マハリンに?」
「う・・うん。」
「なんで訪ねなかった。」
「だって・・・っ!」
そんなの。そんなのムリに決まってるだろ。
「あ・・・。そう言えばさ。」
言いかけた時に、フェレスは私の手をいつものようにすくい取っていた。
「やめ・・!」
それを引き抜こうとしたが、彼は手を離さなかった。
まるで私が拒絶することを分かっていたかのように、初めから強い力で掴んでいた。
「来て。」
「何処に!」
「ピティ。」
「ちょっと待て!」
「なんでだ?」
「私がピティに行けるわけないだろっ。」
「俺がいるだろう。」
「そういうんじゃないよ!」
「じゃあなに。」
「なにって・・・。あ・・・あのさ。」
「うん。」
「・・・結婚、したのか・・・?」
「何の話だ?」
フェレスはじっと私を見た。
「・・・してないの?」
「どこから聞いた話だ。俺は未婚だよ。」
「・・・だって、いっぱい貴族の家が。」
「してない。」
「・・・あ、そうなんだ。」
てっきり、婚約したんだと思っていた。
「笑ったな。」
「は?」
「やっと笑ったな。行くぞ。」
「だ・・・待ってってば!だって、私、こんな泥だらけ・・・。」
「服くらい見立ててやる。早くしてくれ。結構腹が減ってるんだ。」
口元が緩んでしまった。
変わってない。
変わってない。
彼は、いつも笑わない彼は相変わらず、微笑みすらしない。
だけどなんにも変わってない。
どこか凍っていた心の奥が、コロンと音を立てた。
そしてじわじわと溶けていくのを感じていた。


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