「陛下!申し上げます!!」
騒がしい音をたてて、汪翔が王の前に飛び出す。
「どうした、汪翔。火が上がったか?」
「はい。ただいま、薫乃が兵を率いて扉を開き、攻め入っております。」
汪翔が膝まづいた。
「そうか。よくやった・・・。おそらくもう片がついてるであろうな。これから、おぬしたちには真文国の領地をどんどん落としてもらうからな。」
王はそう言って下品な声で笑った。汪翔は小さく頭を下げたが、急に胸騒ぎがした。
「・・・・・!」
そしてその胸騒ぎは、肌に走る空気の揺れで革新へと変わった。汪翔は顔をばっと上げ、テントの外に振り向いた。
「?どうした?汪翔?」
「・・・・・―――。・・・陛下」
「どうした・・・?急に・・・――」
静かに汪翔が言った。
「・・・・・すぐにこの城を出て、都にお帰り下さいませ。」
「え・・・?」
「さあ!戦になります!!!」
突然大声で叫ぶ。汪翔は一瞬で、冷静で従順な臣下から、獣の目をした武将に成り代わっていた。
「っ!?わっ・・・!わかった!」
そして王は逃げるように付き人と共に部屋を飛び出した。
「そして出来るなら援軍を!!!!」
叫ぶ。そして、城の階段をかけおり、残っていた6千の兵の元へと走った。
「お。汪翔殿!どうでしたか?動きましたっ?」
兵達が振り向いた。のんきに酒なんか飲んで。
「すぐ出るぞ!用意をしろ!!!」
「!?」
「今すぐだ!!!」
叫んだ。汗ばむ掌を握りつぶし、猛る男は鎧をまとい馬に飛び乗った。
ジャァァァァァアアアアン!
「!!!!」
また、真文国の、銅鑼が鳴る。
「なん・・・っ!」
兵達がうろたえて、暗闇の、銅鑼が鳴ったほうを見た。
「なんだあれは!!!!」
その目に飛び込んできたのは、一万以上の、兵だった。
「・・・・・っ!」
汪翔は頬に流れる汗の軌跡を感じた。
「・・・真文・・・・国っ」
――なめてんだよ。
寒波の声がまた響く。
「・・・・・あぁ・・・。そうだな。」
目の前に、確実に自分たちより多くの兵が、いる。
「出陣んん!!!!」
汪翔は叫んだ。兵たちは、走り出した。
そして、双方は勢いよくぶつかりあった。
叫び声と、血と、体が容赦なくぶつかりあった。
汪翔も馬で走り出す。そして、向かってくる敵を次から次にぶった切った。
「ふっ・・・・!」
「うああああ!」
汪翔は流れるように次々に刺し殺していった。さすがは、九虎に数えられる名将軍だ。数人の兵では歯がたたない。
「あいつぁ・・・・!」
そして、槍を持つもう一人の男が、汪翔を見つけ心臓の血を躍らせる。
「汪翔ォォォォォォォォオオオオオオ!!!」
突然ものすごく、馬鹿でかい声が響いた。汪翔は振り返った。この戦場で通せる大声が存在することに驚く。
そこにいたのは大きな男だった。
「・・・・・・お前は・・・・?」
「俺は、高羅。」
槍を手に、馬に乗り、笑いながら汪翔を見る武将、真文国軍の総隊長。
汪翔は槍を手に、馬に乗ったまま、冷静な顔立ちで高羅を見つめかえした。
「・・・・高羅・・・。真文国一の・・・・戦士か・・・。」
「お?知ってんのか?嬉しいねぇ。」
笑った。
「会えてよかった。探してたんだぜぇ。」
高羅が槍を構えて笑う。汪翔もまた構える。
「行くぞ・・・。」
「・・・・・・」
空気が、凍ったようだった。
ガキィィィン!!
弾きあった。互いが弾ける瞬間に、火花が散る。
「やるな。」
「てめぇこそな!」
鋭く、鈍く、重い音が重なり合った。何度も、重なり合った。
「・・・っ」
「・・っの!」
互角だった。二人のやりあいは長く続いた。その間に、6千の寒地国兵たちは囲い込まれ、ほとんどが分断されて全滅していた。そんな事に気がつく事もなく、二人は真文国兵達に囲まれたまま撃ち合った。
「・・・・・っ」
それに気がついたのは、汪翔が先だった。さすがは冷静な男だった。
―――・・・終わりか・・・。
悟ったかのように、聞こえぬ声で呟いた。
ガキィィィィンンンン!!!!!
「!!」
大きな音がして、槍が、空を飛んだ。
「・・・!」
飛んでいった槍は、汪翔の物だった。
―――終わった。
汪翔はそう思って、黙って目をつむった。馬からずるりと降り、そして胡坐をかいた。
「・・・――切れ」
息を切らしながらもはっきり言った。高羅は何故かそれを黙って見つめて動かなかった。
「切れ。」
もう一度言う。周りの兵たちの空気も変わる。ざわめく。
「・・・・どうした?切れと、言っている。」
汪翔は睨むように高羅を見た。情けをかけられるのは、侮辱だ。屈辱的な話だ。
「お前。どうして寒地にいる?」
「・・・・――」
目が開いた。
「なんで、お前みたいな奴が、こんなところで遊んでんだよ」
問いかけられたのは予想外の言葉だった。そして重い言葉だった。汪翔は答えに詰まって何も言えなかった。
それは、結局。その問に対して自分が一番分かっていなかったことを証明していた。
「そうだぜ。」
そこに海座がやってきた。
「海座っ」
――海座?
汪翔が海座を見る。
「・・・・―――寒波・・・」。
「あ?」
汪翔がはっとした。
「いや・・・。」
「・・・・・。で、王は何処へ?」
今度は海座が汪翔に問う。
「・・・・もうおられん。都に帰った。」
自分が逃がした。おそらくもういないだろう。
「・・・はっ。負け戦とわかりゃあ、王自身は身をひくってわけかよ。」
笑った。
「いいご身分だな。・・・あ。でも、そうか。王だもんな。」
「ははっ」
高羅も笑った。
「・・・・・・・。違う。」
呟く。
「・・・・王は、私が、お前達が来る前に帰した。負け戦とわかって去ったのではない。」
沈黙になった。
「・・・・なるほどな。」
海座がため息混じりに言った。
「負け戦も自分で見分けらんねぇ、指揮官かよ。」
そう言われてしまえば終わりだった。何も言い返せない。
「てめぇ。何そんな奴の下で、負け戦につき合わされてるんだ?」
「・・・!」
――高をくくって猫と思いなでると、虎だったりするんだよ。それがわかってねぇ人間につくと、どうなるかわかってんのか?
寒波の言葉がまた蘇る。
「・・・・・・っ」
なぜか胸がひどく締まった。
「変われよ。」
海座が、ずしりと言葉を突き立てた。
「自分を、殺すな。」
――お前は自分を殺しすぎなんだよ!
「・・・・・・・・・・・・―――っ」
刺さる。刺さる。言葉が。
「オレのとこで、変われ。生き返れ。」
言葉が、沈黙を呼んだ。
汪翔はまっすぐな海座の目を見つめた。目をそらすことなく、見つめた。手が差し伸べられてる。
「あ。大丈夫だぞ?どっちにしてもおめぇは殺さねぇからっ。脅されたからってこっちにつかれても後々面倒な事になっからな。ただ、自分を殺さなきゃいけねぇところにお前がいるのが、もったいねぇって言ってるだけだ。それでも寒地にいてぇっていうんだったら、一時的に捕虜になってもらうだけだ。後々、外交でケリを突けたるときに・・・条件材料になってもらう。」
あっけらかんとした。
「・・・・・・・。」
海座が笑う。高羅も横で笑ってた。
「どうする?」
二人が言った。
周りの兵たちもその様子を見つめていた。
「・・・・・―――。」
汪翔が一瞬下を向いた。
「・・・・喜んで。お供させていただきます。海座様。」
震えた声で、そう答え、深くお辞儀をした。
海座と高羅はお互い顔を見つめあい笑った。その瞬間、兵たちがワっと騒ぎ、戦の終わりを喜んだ。海座も大いに笑って、撤退命令を出す。その手が、握り殺されていたのは、高羅以外知らなかった。
一体何人が死んだだろう。 


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