―――寒地国
「ったりぃよ〜!」
「うるさいぞ。寒波。」
寒波がだるそうに酒を飲んだ。
「だってよぉ・・・っ。俺っ俺が策練りてぇんだよ!」
「しらん。お前がいつもそんなガキみたいに振る舞ってるから王がお前が策を練れるとは思ってくれないんだ。」
汪翔がうっとうしそうに言う。
「主張はしてんのにぃ」
「その主張が、ガキっぽいんだろ。」
「主張は出来なきゃ意味ねぇもん。お前に言われたくねぇ〜!」
寒波はやれやれ、と椅子に落ち着いて座った。
「そんなに言うならな、寒波。」
「ん〜?」
「お前はこの策。どう思う。」
寒波は急に真面目な顔をし、酒を机に置いた。
「・・・穴がでかすぎる。」
静かに話す。
「だいたいあの軍師相手に捻りが無さすぎる。間者を使って火を放つとか。この国の間者はそこまで本格的に訓練を積んだものとは違う。それに引き換え、真文国は間者の層が厚い。あの国を支えてるのは間者達だと言っても過言じゃねぇくらいだからな。それから。この場所に四人の将を集めたままって言うのもどうかと思う。」
「・・・・なるほど。道理だ。」
「でも、そんな事いったって、聞いちゃぁくれないだろうしな。王さんは。」
ため息。
「・・・。俺が言ってみよう。」
「え?」
「間者のこととかには口は出せんが。あとの、四将の一極集中は俺もどうかと思う。俺も自分の省が心配だ。言ってみるさ。」
汪翔が立ち上がった。
「汪翔・・・っ」
「大丈夫だ。俺はお前より言葉選びは上手だ。」
そう言って汪翔は行ってしまった。
「・・・・・」
――確かに、自分の省が心配だ。寒地には九つの省があってそれぞれ将軍の俺達が治めているけど。俺たちはそこまで強い結束なんか持っちゃいない。こうして留守にしてる間に、他の将軍が自分の省を乗っ取ってるかもしれない。王さんはホントにただのでしゃばりだし。嫌いじゃないんだけど。好きにやらしてくんないかな。軍師なんて戦が怖いとかいいそうな奴で頼りになんないしさ。今回だって来ないのは絶対仮病だろ!
ブツブツ心の中がだんだん不満でいっぱいになった。
「・・・・面白くね・・・・」
ガシャン!

酒の器をほおり投げた。
「荒れてますな。」
そこにやってきたのは、薫乃だった。
いつ見ても嫌な顔だ。媚を売ることしか脳がないみたいな。
「荒れてませんよ。」
ぶすったれた顔でよく言うよ。
薫乃はくすっと小さく笑う。
「一応この省はオレの省。暴れないでくれるかの?」
「はいはい」
薫乃が寒波に新しい酒をつぐ。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
間が持たない。
寒波はこの男が苦手だった。
王にへぇこら言って、常に機嫌を取ってるように見える。
地位を護る事に必死なんだ。
「・・・・陛下はなんて?」
寒波が薫乃に聞く。
「なにがかな?」
「なにかおっしゃっていないんですか?この戦について。」
酒を飲む。
「・・・特に?おそらくもう決着は見えておられるのだろう。」
「・・・火がつくと?」
「あぁ。」
寒波は聞こえないようにため息をする。
「兵は何人いましたっけ。」
「こちらが今5万。あちらが3万ちょっとですな。」
「・・・・しょぼい数字での戦ですね。」
大国同士、普通の戦なら、ん十万とかになるのに。
「まぁ、あの小国を相手に本気になることもありますまい。」
笑った。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・。・・・そうですね」
寒波はその笑いを無視して、呟くように同意した。
「・・・・では俺は必要ありますまい。」
ボツリ。
「え?」
寒波の突然の言葉に、薫乃は驚くように振りかえる。
「俺も、自分の省が心配ですから。この戦。勝利が見えているのなら。俺は必要ないでしょう?」
「・・・ま・・まぁ。そうだな。」
「もし陛下にご了解いただけたら。俺、波省に帰ります。」
はっきり言った。
「・・・戦場を抜けるなど、あなたらしくないですな。」
少し焦った。薫乃は寒波の腕を知っていた。
それに兵を置いていかれては、数にも不足が生まれる。
「ご心配なく。兵は多少置いて帰ります。」
見え切ったように寒波が言う。
「そ。そうか。わかった。もし、陛下がお許しになったらな。」
寒波は頷いた。
夜は更けた。
そしてその頃汪翔が帰ってきた。
「2名の将がここに残るのであれば、あとの2名は将に帰ってよいと言われた。」
汪翔が寒波に告げた。
横にいた薫乃は少し驚いてた。
寒波はやっぱりな。と心で呟く。
だって判ってた。
汪翔は王がおそらく最も信頼している将軍だったから、彼が何かいえば結構承諾してくれていた。
「じゃぁ俺。一抜けた。」
寒波がそう言って立ち上がった。
「おっおい寒波どの!」
薫乃は止めようとした。だけど寒波は完全に無視してテントを出ていた。
「薫乃殿はこの省の将軍ですから。ここに残るとして。明日関壁をはるのは私の番ですので。私が残りましょう。」
というか。王が汪翔には残ってくれと言ったんだけれど。
それは薫乃にも分かっていた。
だから薫乃は歯がゆかった。
「ボウ殿にも省に帰って良くなったと伝えましょう。私が馬で行ってきます。」
汪翔もテントを出ようとした。
「ま!待て!私が行こう!もう夜だ。道に迷うこともあろうが、私ならばその心配は無い!」
なんだか必死に止めた。
汪翔は振り向き小さく頷き、お願いいたします。と言ってテントを出た。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
薫乃は小さく、歯ぎしりをした。

テントを出た汪翔は、寒波を探した。
「寒波!」
呼ぶ。そして彼のテントに入った。
「なんだよ?」
寒波は荷造りをしていた。
汪翔はやれやれと言って黙って入っていき、椅子に腰掛ける。
「なに、怒ってんだ。お前。」
寒波は応えない。
「意地悪でもされたか?」
「んなわけあるか。」
ツッコミ。
「・・・・・なめてんだよ。」
「ん?」
急に声が低くなった。
「王も、薫乃も、真文国をなめてんだよ。」
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
「俺は帰るぜ。おめぇも帰れ。」
ごしゃごしゃのまま、着物を布に突っ込む。
「・・・いや。俺は残るよ。」
「えぇ!?」
振り向いた。
「おめぇ!だって自分の省が心配だって!そのために王さんとこに交渉にいったんだろ!?」
つかみかかるいきおいだ。
「・・・のこれといわれた。」
「あぁ!?なんでだよ。」
「しらん。とにかく俺は残る。」
汪翔は寒波の息の弾む肩に手を置いた。
「・・・・負けるかもしんねぇぞ」
小さく言った。
「寒波・・・そんなこと言うと首が飛ぶぞ」
「高をくくって猫と思いなでると、虎だったりするんだよ。それがわかってねぇ人間につくと、どうなるか分かってんのか?」
「寒波。」
肩をつかんだ。目が強い。
「・・・・・・・・っ。なんでお前は普通なんだ。」
「?」
「お前は自分を殺しすぎなんだよ!」
寒波はその手を弾き。
背を向けてまた荷造りをはじめた。
「・・・・・・・・・・・・・」
汪翔は、その言葉が、刺さったのを感じた。
その目が、自分なんかより数倍強くて刺さったのを感じた。
そして夜を越えて、朝が訪れ、寒波とボウの二将軍は軍を残し、去った。
汪翔と寒波が口を聞くことは、なかった。



→次のページ


■ホーム■□□   拍手   意見箱   投票
■イントロへ■ 

6

inserted by FC2 system