「じゃ。おめぇら。頼んだぜ」
海座がにっと笑って言った。
そしてその直後に走り去っていった幾人もの人間たち。
「・・・・・は・・」
小さくため息をつく。
「・・・無事に帰ってこいよ・・・」
風が吹いた。
「いっつもそんな事祈ってるんですかぁ?」
「うぉぉぉぉおおぁぁあ!?」
いきなり後ろから声がした。
誰もいないと思っていたので、海座は恥ずかしいやらなんやら驚いたやらで、飛び上がった。
凛だ。
「なにやってんだぁぁぁぁあ!!」
叫ぶ。
「やだなぁ。報告ですよっ」
なんだかちょっと喋り方がギバに似てきた気がする。
バサ。
また白い紙。
「寒地の間者たちの不法侵入のルート。それから、そのおおよその数ですっ。調べたのは最近からだからそっからの資料しかありませんけど。」
「・・・お・・・おぅ。ルート・・・?」
何語だろうか。と思った。
「?抜け道の事ですよ。つまりは。」
笑う。
海座はとにかくその紙を受け取る。またしても10枚はある。
「向こうの間者達は真文国みたいに連携が強くないみたいよぉ?一匹捉えても何の騒ぎにもなりゃしなかったし。」
一匹って。お前。
「そ・・・そうか。で、その捕まえた奴は・・・?」
「・・・・。・・・自害しちゃった・・・・」
凛は少しうつむきがちに言った。
「・・・・・・そう・・・か」
「申し訳ありませんでした・・・。もっと見張っとけばよかった・・・。」
「いや。気にすんな。わるぃな、ありがとさん。」
凛はにこっと笑ってまた敬礼をした。
「海座も。」
「あ?」
「甘いわよね。」
「・・・・・・」
海座は言葉を失った。
「・・・間者にまで、死んでほしくない。無事に帰ってきて欲しいって祈ってるくらいじゃ・・・多分、兵一人だって死んでほしくないとか思ってるんでしょう・・・?」
「・・・・・・・―――」
図星だ。
「・・・そんなんじゃ・・・。私達が・・・生に縋っちゃいますよ。」
「・・・・・・え?」
「死を背負わないと、やっていけない仕事ですから。覚悟が・・・緩んじゃうデショ?」
笑った。
その顔に悲しい色が見えた。
「でも。もちろん自分の強さにもなりますからっ!アリガトウゴザイマス!」
色が消える。
「あ・・・・あぁ。きぃつけてな・・・っ」
「はいっ」
そして海座の手にある次の仕事を記された紙を奪い取り笑って去っていった。
「・・・・・・・・・・・・・――――・・・甘いか。やっぱ俺は。」
くしゃ。
髪の毛を握る。
そうだよな。

それから何日も、壁をはさんだにらめっこが続いた。
どちらも銅鑼を打ち鳴らし、罵声を浴びせあった。
真文国の兵も、寒地国の兵も、次第にこの関壁に集中しだした。
「数は!」
「およそ5万」
「・・・・こっちは3万5千が限界だぜ・・・。それ以上は食糧が一週間もすりゃ尽きちまう。」
砦の中。
「あっちは国のでかさが違う。でかさが違えば人の数も違う。このまま行くと、もっと増えっぞ。向こうの軍。」
海座が舌打ちをした。
「そろそろか・・・。」
腕を組む。
「ギバの頑張り次第だぜぇっ・・・頼むぜ切り札っ・・・!」
汗が流れた。
実際ここんとこ、動きが無さ過ぎて、じれる。
夜眠ることが出来ない。
「平気か。」
高羅が海座の肩を軽く叩いた。
「・・・・・おぅ。」
嘘つけ。
「軍師・・・夜くらいは寝ないと・・・」
「・・・楠称・・・」
楠称も海座の前に座った。
「ご報告しますっ」
バサ!
突然張幕をはためかさせて、ギバが飛び込んできた。
「ギバっ!!!」
海座は思わず立ち上がった。
「ギバぁ!おま・・・・平気か!?」
高羅がドロドロのギバを見て言った。
「平気です!軍師!仕入れてきましたよ!あっちの軍体勢!」
ぜぇぜぇ、息切れが聞こえた。
海座は拳を握りながら、ギバの前に行く。
「・・・っ報告を!」
「はいっ・・・!あちらにいる四虎はお互い、己の隊が攻めると言いはるので、毎日順々に一人が一番前に自分の兵を配置、その日の動きを見ています。その間残りの3人とそれに属する兵たち何名かは何もせず、宴などを開いている模様。」
「うったげだぁ?」
高羅が呆れながら切れた。
「こっちは食糧が無くなっていって毎日毎日兵たちが南まで下っていって食糧を持って来てんのによぉ。」
「それでっ!他には?」
海座がギバの崩れそうな体勢を手で支えながら叫ぶ。
「彼らは、おそらく扉を開けるつもりはありません。」
辛そうだった。
「おそらく・・・間を使うつもりです。」
「間・・・?」
「凛から。進入の抜け道を聞きました?」
あの紙だ。
「あぁ。ライグと真文国の国境線の山だろ。今あそこは兵が張ってるぜ。一応張ってることがばれねぇように間者は適度に、と言うか、この国に入ってくる奴だけとッ捕まえてる。」
「俺らも結構捕まえたんですよ・・・っ。」
がくっと脚が崩れかけた。
「その中の一人が吐きました。」
海座がギバを支える。ギバはそれでも自分の脚で立ったままぜぇぜぇいいながら、言った。
「この砦を・・・っ・・・焼き払う命を受けたと・・・・っ」
「!」
ギバの汗が頬を伝った。
「火の手が上がれば、その時初めて・・・!あちらの兵が動くと・・・っ」
「・・・・・!」
拳を握った。
「なるほどなぁ・・・っ。混乱を誘うってはらかよっ」
高羅が歯を食いしばりながらにっと笑った。
「・・・・ギバ。・・・その命、誰が出したか、聞き出したか?」
「は・・・っ。寒王でありますっ」
「!?寒王だとっ」
驚いた。
寒波だと思っていた。
あいつがおそらくあの国一番の策士だからだ。
「寒王がこの戦に首を突っ込んできているようで、あちらが陣を敷いているオカイにも、王はやってきているようです・・・っ」
「・・・・・・・。」
ギバがもう限界だった。
「・・・そうか。・・・・・そうか、あの野郎が能無しに指示出されてんのか・・・っ」
海座はにっと笑った。
そしてギバの身体を思いっきり支え上げた。
「だったら話は簡単だっ!医療班!!!!」
叫んだ。
「誰か医療班を!急いでくれ!!」
「か・・・っ海座殿!?」
ギバがあわてた。
間者が表の医療班に治療されるなど普通あってはならない話だった。
だからこそ辛そうにしているギバを海座は何も言わず支えていただけだった。
「そんで、おめぇは!」
ドサ!ガシャン!
「!」
放り投げられたのは兵士のよろいだった。
「急いで兵になれ!」
「!?・・・・はっはい!」
ギバは痛む身体を必死で折り曲げ、起き上がり、そのよろいを着た。
その時に医療班は飛び込んできた。
「歩兵だ!忍び込んだ寒地の間者にやられた!即急に手当を頼む!」
海座が叫ぶと、医療班の男たちはすばやくギバを担ぎ出し、そして治療に走った。
「海座っ」
高羅が海座に駆け寄る。
「いいぜぇ高羅。」
「!?」
海座がどかっと椅子に座った。
「あの男がしゃしゃり出てきてねぇって事は、裏の裏まで読む必要はねぇってこった!」
バシっ!
膝をうつ。
「こっちが裏の裏まで手ぇ回してやるよ」



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