―――明朝。3千の兵と軍師が、城を出た。
「おめぇ昨日帰ってきたんかぁ?」
高羅が馬で海座の横につきながら言った。
「あぁ?」
海座が振り向く。
「・・・お〜・・・」
小さく言う。
足音と馬の蹄が地面をうつ音で、声は掻き消された。
「何処行ってたんだよ、探したんだぜ」
「お〜・・・ちょっとなぁ。わりぃ」
また小さい声。
聞こえない。
これから長い旅になる。
これから始まる。
これからが、大変なんだ。

―――美木と麗春の賭けがどうなったかは、置いておく。

「・・・・文王様?」
はっと王が顔を上げた。
「聞いてました?」
美木が尋ねる。
「や・・その。すまない」
謝った。
「だから、これ、ちょっと変えなきゃいけないと思います。間の情報駆使して軍師が動いたわけですからこれから戦になることは必至ですし、たぶん軍師が西にも有力な将軍達を置いていったのは西、つまり、岩他国のほうからの一手を警戒してのことだと思います。つまり、北だけでなく西でも戦が起こるか確率はゼロじゃあないってことです」
「ああ。西の境にも今日から砦を築いてる。真文国は基本的に境は山で、関壁は設けていないからな・・。」
「・・・税を増やさなくちゃ、ちょっとやってけないかもしれませんね。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
沈黙。
美木は部屋をでた。
真文国。この国は、これから。大きく揺らぐ。
「・・・・・・・・・はぁ」
一人の部屋になって、文王はため息をついた。
「人は、どうして戦を起すのかな・・・・・・」


―――岩他国。
「なに?寒地国が。」
「はい。どうやら戦を仕掛けるとか。」
岩王と九李。
「・・・しかし、あの国境には巨大な関壁が立っていると聞くが。」
「ええ。あのどちらにも開く関所の戸が、今回の戦の鍵でしょうね。」
たんたんと話す。
この間の印象はここでは見受けられない。
「・・・ふん。しかし真文には海座軍師が居るからな・・・。寒地は所詮領地だけが馬鹿でかい国だ。どうなるかわからんぞ。」
「しかし、寒地国の将軍たちはなかなか、名が高いですよ。」
「・・・まぁな。軍師こそ、そこまで有能とはいいがたいが、あの国の軍事力は、数と、それから九人の虎達だからな。」
腕を組む。
「・・・しかし。おもしろいことになってきた。」
「・・・・・?」
「漠国という海座軍師と同格の軍師雅のいる国と戦うか、今寒地に手一杯になっている海座軍師を相手に取るか。・・・我々は寒地国とは国はほとんど面していないからな。」
「・・・しかけるんですか?」
九李が振り向かず、外を見ながら言った。
「大陸をあげた大きな祭だ。みこしを担がずに何をしろと言う?」
笑った。
相変わらずの無愛想さで、無言のまま九李は外を見た。
「・・・・どちらが得策でしょうかね。・・・ただ以前漠国にいった時、噂を耳にしたのですが。あの国は今内乱が起こりかけているそうで。3つの勢力が互いに弾きあうだろうと聞きました。」
「・・・ほぉ」
興味深げ。
「あの国の王ももうお歳ですからね、次の王を決めることにも相当もめているそうですよ?」
「雅は何をしてる?」
「・・・あの軍師は戦にしか興味がない・・というか、戦でしか頭をつかわない、典型的な戦莫迦ですから。なんにも。・・・暇そうにしているのではないでしょうか」
「・・・・ふ」
笑う。
「よし。将たちを集めよ。これより我が国における、最も大切な会議を行なう!」
バシ!

膝を打った。


―――寒地国。
「汪翔!汪翔はいるかっ!?」
「どうした、寒波。」
汪翔という男が振り返る。
背の高い、浅黒い男だ。
彼の冷静な感じとは逆に、寒波という男は体の小さな、髪が橙の、騒がしそうな男だった。
「真文国が動いたんだとよ。」
「・・・・まじか」
「あぁ。だから今すぐ。来てくれ。」
寒波が汪翔の手をひく。
「お。おい。・・・他の奴らはどうしてる。」
ひかれながら汪翔が尋ねた。
「あぁ。一応俺らも省を治めてるからなっ。集まれたのはあとボウと薫乃だけだ。」
「・・・四虎か・・」
「きぃにすんなって!軍師は来てねぇしっ!俺らが好きに料理しちまおうよ」
寒波は楽しそうに言った。汪翔はため息をつき、やれやれとついて行く。
「あ。」
突然寒波が立ち止まった。故に汪翔は彼の肩にぶつかった。急に止まるな。
「あっちゃぁ・・・。わッすれてた。」
「・・今度は何を忘れた」
「今回の戦。軍師は来てないけど、寒王さんが来てるんだ。」
なんだ。その嫌そうな顔は。


―――真文国。
「軍師っ」
そう言われて振り向く海座。後ろに立ったのは高羅だった。大きな木材を両手両肩に担いでいる。
「おぅ。高羅。」
海座は持っていた白い紙の束をバサッとまとめて高羅と一緒に歩き始めた。
「なんだその紙?」
「凛の報告書だよ。」
「あぁ・・・。」
凛の報告書といえば唯一海座を苦しめる報告書のことだ。
「どうやら真文国の国境周辺に集まってる将は四人みてぇだな。」
「へぇ?」
「ボウと、薫乃と、汪翔と・・・それから寒波・・・ってやつ」
「・・・・・・なるほどね。」
木材を1つ下ろす。
「ここ、置いとくぜ!・・・寒地の南部や東部の省を治めてる奴らが一極集中してんだな。」
「お?高羅にしちゃあいろいろ知ってんじゃねぇか。」
「俺だって戦いたい奴の名前くらい知ってんよ。」
戦いたいのかよ。
「ボウといやぁ、大太刀の使い手で、そうとうの手練だって聞く。まぁ中身的にはかなりくれぇやつっていう噂だがな」
「あぁ。そいつが治める省はあまり活気がねぇとか聞くしな。」
笑った。
「薫乃はなんかよくわからん形の武器を操る男で、変な奴だっていうし。」
「野心家で王のご機嫌ばかり取ってて、それから、手柄は横取りするとか。」
「最悪だな。で、きぃつけなきゃなんねぇのは、汪翔とそれから・・」
「寒波だ。」
「あぁ」
砦が少しずつ形をはっきりさせてくる。
「汪翔っつたら、槍の手練で、冷静な男だって聞く。」
「あぁ。実際その才能は国事でも大きく発揮されてて、王の信頼はでけぇらしいしな。」
「でもあの王に飼われてちゃぁ・・・。きっと殺されてんだろうな・・・。あいつの芯は。」
高羅がそう言って残念そうな顔をした。海座はそれを横目で見て、ため息。
「・・・・・主張を抑えちまう奴なんだろ・・・。勿体ねぇ話だな。」
「あぁ。」
「・・・でも・・・。手加減すんなよ・・・高羅」
海座は重く言った。高羅は少し固まったが、すぐに大きく頷く。
「わかってんよ。軍師殿。」
笑った。
「でも・・・。一番のやばい奴は」
「あぁ。寒波だな。」
海座が殺気を放つ。
「恐ろしいまでの策士で、まだまだガキっぽい所がある。癇に障る男だ。」
「・・・・・・・・・知ってんのか?」
そのもの言い。
「いや。」
「・・・?」
「向こうはオレのことはしらねぇよ。」
風は、風はまだ冷たい。
夜にかけても兵に休みはなかった。
月がまた落ちるまでに、砦はほとんど完成していた。

「おねぇさん」
「!」
美木がそこに立っていた。サイファの店の前。
「美木!どっ。どうしたの?」
サイファはぼうっとしていたらしく、なんか慌ててた。
「いや。大した用じゃないんだけどね」
ゴソゴソ。取り出す、袋。
「?」
「海座のツケ。未払いの分。持ってきたんだ・・・」
「・・・・・・・・――――――」
風が吹いた。髪が揺れた。
「・・・・・・美木・・・。」
「俺が国家会計士なの、知ってるよね?隠さなくても、もう。」
「う・・・・うん」
この間の美夜の騒ぎの時、ばれてしまった。
「だから、はい。ちゃんと海座のお小遣いからひいてきたから。受け取って。」
「・・・・・・・――――」
サイファはその袋を受け取る事なく見つめていた。
「おねぇさん?」
「・・・・・・・・・・。も・・・・」
「え?」
「・・・・・貰えないよ。」
小さく言った。
「・・・・おねぇさん?」
もう一度尋ねた。
「ごめん。そのお金。今は、受け取れないや・・。」
「え・・・?」
わけがわからない。
「どうしてさ?でもこれ!海座が・・・っ」
「違うの。」
「え?」
「だって・・・・・・―――」



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