城も土台が完成し、真文国は正地の乱から約一年半でほとんど落ち着いてきた。
まぁ、それでも残党達の大暴れっぷりは常に海座の耳を悩ましていたけれども。
城下も落ち着き、民が移り住んできて、ようやく民も安心して外を歩けるようになった頃だった。
「しかし、城下だと言うのに、若い者がほとんどいませんね。」
誰かが言ってた。
確かにそうだった。
この新しい都は。
以前の戦で一番最初に狙われほぼ壊滅の目にあったのは城であり城下であった。
それゆえだろうか、城の周りには恐ろしいほど若い者がいなかった。
「・・・・・高羅ァ」
「あぁ?」
高羅の敬語もほぼなくなった。
俺はそれが少し嬉しいようなこしょばいような気がしてた。
「街に行ってみようと思うんだけど。どう思う?」
高羅は少し驚いたような呆れたような顔をしていた。
「って、お前がじきじきに行くんか?」
「おぅ・・」
高羅が頭をぼりぼりかいた。
「それはあんまいただけねぇなぁ・・・。お前は仮にも一国の軍師だし。」
「でも。じっちゃんは昔よく町に遊びにいってたって言ってたぞ。」
「・・・・あぁ〜〜・・・あのお方は・・・お若いころ相当街で大暴れしていたとか・・・聞いたことがあるような。」
実話だ。
「だろぉ?」
「いや・・・でも・・まだ正地の人間がうろついているかも・・・。」
なんだかこういうやり取りを繰り返すこと十余回。ようやく高羅は折れた。
「判りました。俺がお供しますんで。」
してやったり。
二人でザクザク出来たての道を歩いた。
「・・・たしかに・・ほとんどがご老人だな。」
呟きながら頭にその風景を焼き付けていた。
「・・・・・」
しばらくぐるぐる歩いてた。
そしたら。
「いらっしゃいませっ」
急に声の高いのが聞こえて、びっくりして顔を上げた。
だって、どう考えても子供の声だったから。
顔を上げてその女の子の顔を一瞬見た。
しばらく考えた。
どこかで会った気がしたから。
そして結構、すぐわかった。
「・・・・・・。おまっ・・・!」
思わず声が出た。
「?」
俺は彼女に一回会ったことがあった。
正地の乱で、母親を亡くして一人で泣いていたところを拾って、他の村まで運んであげた子だ。
凄く印象に残っていた子だった。
「どうかしましたか?」
丁寧に言われた。
「いっ・・・いやっ!」
首を振る。
「おぉ嬢ちゃん。わけぇなぁ!いくつだよ?」
高羅が笑いながら言った。
「12ですっ。」
同じだ。
「へぇ・・饅頭屋か?」
「はいっ」
笑った。
あの時の涙だらけの顔はもうない。
「お前・・・・」
口から声が漏れるように出た。
「はい?」
「・・・・・・・・・・・」
落ちつけよ。
よく考えたらあの時俺は、まだ『王』だった。
あの時会ってたっていうと後々面倒なことになる。
「なんで此処に店置こうと思ったんだ?」
高羅が海座を見た。
高羅はこの子のことを覚えてないみたいだった。
後で言ったら、思い出したようにああ、とか言ってたし。
「・・・・私。正地の乱に巻き込まれたんです。」
笑顔のまま。
「・・・」
「その時、助けていただいた文王様に恩返しがしたくてっ」
文王・・・・・。俺じゃない。
「どうしても、できるだけ近くにいたくてっ此処にきましたっ」
莫迦みたいにまっすぐ笑う女だった。
今もそうだけど。それは昔からいっこもかわりゃしねぇ。
「・・・そうか」
笑って見せた。
「そうか・・・。よかったな・・・・」
無事で。
元気で。
あのときの涙はなくて。
そして今笑ってて。
よかった。
「?」
周りから見たら話がまったくかみ合ってなかったんだろう、サイファもちょっとわからなさそうな顔をしたが、また笑った。
「饅頭、1つ」
指をたてた。


ダン!
突然目の前に出された。皿。
「!」
目の前に湯気が白い空気を作る。
「即興で悪いんですけど。はい」
サイファが機嫌の悪そうな顔をしたまま言った。
皿に乗るのは肉やらなんやらの団子だった。
サイファの顔を見る。
眉間にしわがある。
「食べていいのよ?莫迦軍師。」
喧嘩売ってんのか。
「オゥ」
海座は右手で箸を握り、肉団子を頬張った。
「いつも食べてる饅頭を作る時間はなかったから。わるいわね」
トーンの低い声でサイファが言った。
そしてまた海座の前に座る。
じっと見る。
「・・・んだよ」
照れたように海座が言った。
食べるところを見られるのは恥ずかしい。
「ううん。嫌でも見てきた顔がいなくなると思うとちょっと寂しくてねぇー」
思ってないだろ。と突っ込めそうなくらいの適当な口ぶり。
「あぁ?」
喧嘩売ってんのか。
「お金返さないし、ツケはためていくばっかだし、口悪いし、ムカツクし。」
「・・・その喧嘩いくらで買って欲しい」
このやろう。
「でも、あんたがいないとなるとやっぱ物足りないかな。」
いつも以上に、軽やかににこっと笑った。
ボト。
箸が机を転げた。
なんだその笑顔は。
「・・・・・は・・・・。はぁ!?」
声がでかい。
「あんたみたいな莫迦は嫌いじゃないって意味よ。なにその反応。」
眉間にしわを寄せながら言う。
かわいくない!と思った。
「大丈夫でしょ」
笑った。
ころころ表情を変える。
「あぁ!?」
さっきの動揺を隠せないまま。
「あんたは、大丈夫でしょ」
「だからなにがっ・・・!」
「あんたに味方してくれる人がいっぱい居るじゃない。」
笑った。
「っ・・・」
「だから、頑張れるでしょ?」
「・・・っ。うっせぇ!!」
海座は照れ隠しかなんなのか、箸をガッと掴み、そして団子をさらに頬張った。
口いっぱいに頬張った。
サイファはそんな軍師を見て小さく笑ってた。
「だったら。おめぇだって大丈夫だろうが。」


「お。そういや海座は何処だ?」
高羅が思い出したように言った。
荷物をまとめてる。
でも、多すぎてなにを置いて行くか模索中。
美木がそんな高羅を横目で見てため息をつき、読んでいた本に眼を戻す。
「帰んないよ」
ぼつり。
「?」
麗春が窓近くに腰を落として太刀を磨きながら美木を見る。
目を軽く閉じる。
「今日は帰んないよ。俺、それに500双。」
「ちなみに私もそれに、500双。」



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