―――――始まる。

天武天文の国、真文国。7年前先の王が没した後、真文国の王に立った文王。冬樹。
彼の政治は他に類を見ないほど優れている。若干17歳の天才。
7年前起きた正地の乱の時に一人の少年を拾い軍師にした。その民、軍師の名前は海座。
彼の軍策もまた恐ろしく優れていた。彼は正地の乱におけるすべての軍事を行い、見事に正地を討った。
当時、若干10歳の、少年だった。
だけど。事実はその裏側。
新の王こそが、海座と名乗る軍師、冬鬼であり、文王と名乗る冬樹こそ、あの日拾われた少年海座だった。

そして今、この国は大陸四大国に指おられる強国になった。二人の天才の下に。


「それでもあの国は広くはない。」
「領土を広げることを拒んでいるようだ。」
「ならば、今しかないのでは。」
「そうだな。」
カタン
何人もの男達が立ち上がる。
「始まるぞ。大陸の統治者を決める戦が。」


すっかり春になった。
真文国はいつもに増して晴れだ。
温かさはまだまちまちではあるが、悪くない気候だ。
鼻歌が聞こえた。
「ふんふんふんふ〜ん」
高羅がうきうきと渡り廊下を歩いている。この男は春が好きだから。
「おぅ、海座!」
海座を見つけると、高羅は手を上げ、振った。
海座はその浮かれた顔を見て少し呆れ笑い、おぅ、と小さく言った。
「どうしたぁ?こんなとこで。」
「あぁ。ちょっとな。おめぇはなんだ?」
「訓練さ。近頃平和ボケしてっからな、今日は厳しく行くぜ〜。」
そうか。海座が呟いて、ふっと中庭を見る。
間を待っているのだ。
高羅はそうとは知らず、海座が何をしてるのかも解らず、槍を担ぎ直してまた鼻歌を歌いながら歩き出した。
「あぁ・・・高羅」
海座が思い出したように言った。
「はい?」
振り向く。
「・・・しっかり士気はあげといてくれ。」
「?」
「そんだけだ」
海座は笑った。高羅は良くはわからないがとにかく笑ってまた歩き出した。
「・・・・・・・・・・・・・・・」
行ってしまった高羅の背中を見て海座は黙った。
「・・・・・・・・・・始まるか・・・・・・――――」
握る、拳。

「ねぇギバさん、四大国ってなぁに?」
「ん〜?」
尋ねた凛にギバが振り向いた。凛が興味津々で見つめてる。
「あぁ、凛は知らないやね。」
ギバが前を見て歩きはじめた。
屋根の上。
凛もそれに追いつき横に並ぶ。
「大陸の最も力のある四つの国のことやさ。」
「・・・・強国?」
頷く。
そしてすばやく屋根をつたう。
「この国のすこし西にある、岩太国と、その北にある漠国と、この国の北に面する寒地国、それからこの真文国さ」
「・・・へぇ〜・・・・。」
凛はまったくわからない地名達にへぇとしか言えなかった。
「真文国もなのね。」
「はは・・・意外?」
「うん。だって、小国なのに・・・」
みんなそう言う。
「まぁね。真文国はまだあまりでかい戦ってものをしたことはないから、四大国のなかで一番下に見られてはいるさな。実際には3大国っていう奴もいるくらいやしね・・。」
「じゃあどうして?」
凛がのぞきこむようにギバを見た。
「・・・・・正地の戦を知ってるかいね?」
屋根から、屋根へギバが飛び降りながらいった。
「・・・・一応。知ってる。」
本で読んだくらい。
「あの時の海座殿の見事な軍事が、そう言わせたんさ」
「・・・・・?」
「この時代。軍師が国の強さの要として捉えられる。あの時の軍師の大逆転撃は他国を揺るがしたんさ。」
「・・・・・・へぇ・・・」
脚が速くなる。
「それに年々、侵略はしないから少しずつではあるけど領地は増えていってるしね」
「・・・・・・・・そっか」
凛は頷いた。
「じゃあ・・・・今、その大国にとってはこの国は目障りでしょうね・・・」
飛び降りた。
ガサササ・・・っ!
「!」
海座は生えている背の低い木々が揺れるのを見た。
「遅くなりました!」
その影からギバが出てきた。
「おせぇ」
機嫌悪そうに海座が言った。
「す、すいません・・・」
謝るギバの後ろから凛が出てきた。
「ごめんなさい海座っ!でもこれっ。」
手渡す紙の束。
「う゛っ・・・!?」
海座が紙の束を見てびびる。この間すごく苦しめられたから、凛の書類には。
「なん・・・」
「北局あたりの動き」
凛が軽くいう。
「それから、ギバさんが調べた寒地の情勢。」
10枚はある。
「お・・おぅ。まとめてくれたのか・・・・?」
「や〜助かりますよ?凛はそういうのものすごい速いすから。」
ギバが笑って言う。てめぇは黙ってろ。
「それよか・・・どうだった。」
海座が真面目な顔をして尋ねた。
「・・・結構活気づいてますよ。急に軍備を始めましたし。各地を治める将軍達は集結してるし。・・・なにより・・・真文国よりに砦が造られ始めています。」
「やる気まんまんってか。」
海座が舌打ちをした。ギバはうなずく。
「それで、北局は」
凛を見る。
「こっちも結構うっとおしいですよぉ?何人も寒地の明らかな間者が紛れ込んでて。」
北局はもと魏太国の領地だった。
昨年あの国を取ったから、寒地とは隣接国になった。
「・・・・・・・・・・・」
「・・・仕掛けてくるみたいですからね・・・もう随分噂になってますし。」
凛が真面目な顔をして言った。
「・・・ああ。9割がた、そうだろな。」
海座も返す。
ギバはそんな海座をじっと見つめた。
「始まるな。・・―――でけぇ戦が・・・・・っ!」

ザシ!
大きく突き刺された立て札。民がざわついた。

「高羅!」
錬兵場に海座の声が響く。
高羅は槍を止め、振り向いた。
周りの兵士達も久しぶりに見る軍師を見て手を止めた。
「軍師・・・!」
高羅が駆け寄る。
「どした?」
「わりぃんだけどよ。すぐ軍議できっか?」
「今か?」
「あぁ。」
頷く。
「城下の全ての将を集めとけ」
そう言った海座。
空気を読んだ、高羅。

「・・・・・なんか騒いでる・・・。」
美木が窓から外を見下ろし、立て札に騒ぎつく民達を見て言った。
「なにが?」
「・・・町」
麗春が磨いていた太刀を腰に戻しやれやれといった感じで立ち上がり美木の側に行く。
窓から下を見る。
「・・・ホント」
麗春が適当に言った。
「何か見てるね」
「・・・なにかしら」
目を細める。
「・・・・・・・・黄の札・・・・・・」
美木が呟いた。
「・・・・つまり・・」
軍事に関する立て札だ。


「地理的な要素の確認から行くとだな。」
と・・・
指が地図をなぞる。
「真文と寒地の境線は北局が魏太国だった頃に、魏太国が関壁を造ってある。そこは真文と寒地は魏太国を取るまで付き合いがなかったから、関所としての機能は果たしてねぇ。関壁は一部だけ切れてるんだが、そこは崖になってる小高い山があって、天然の壁になってる。北局付近に寒地の間者が何人か忍び込んでるそうだが、どこから入ってきてやがんのかはまだわかんねぇ。即急に調べさせてる。俺が思うにはライグ経由して来てんじゃねぇかと思ってんだけどな。」
一気に喋る。
「それから注意しなきゃなんねぇのは水だ。もし北局に陣を張るんなら水に気をつけなきゃなんねぇ。川が近くにねぇから。」
「じゃぁ。陣ははれねぇのか?」
高羅が尋ねた。
「はれねぇことはねぇよ。ただ北局は領地にしてまだ日が浅い。食糧も蓄えてある所がねぇんだ。長期戦は不利になる。」
高羅はうなった。
難しい話は嫌いだ。
「というかな。今回戦が起きた時厄介なのは、あの関壁なんだよな」
海座は頭をかいた。
「あの大扉を開けねぇことには正面切って戦うことができねぇんだ。でも、俺らがあの扉を開けて寒地国に押し入るのは不利だ。あの扉の向こうは次第に道が細くなっていて、そこを突破するとなると狙い撃ちにあう可能性が高い。だがそれは少なからず向こうとて同じだ。大扉を通ってくるしかないんならそこを狙い撃つ方が賢い。」
「別の場所の壁を壊したら?」
「もっとグダグダになっちまうよ。」
高羅が、そうか、と言った。
「軍師殿。」
新しい声がした。
「あぁ、なんだ?楠称将軍。」
「つまり、この戦。先にあの扉を開けたほうが、負けということになるのですか・・・?」
楠称は深い声で聞く。
彼は総隊長補佐の一人で、金の髪をした背の高い男だった。歳は30くらいだったか。
「・・・・ああ。そのとおりだ。」
海座は頷く。
「今度の戦。あのあちらにもこちらにも開く扉は戦いの勝敗を分ける要になる。俺らに関しては食糧不足っていう不利がある。」
「・・・」
「賢くいかなきゃなんねぇなぁ」
にっと、海座が笑った。



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