知る世界27

「で?お前。どうしたい?」
木下が俺の前に座って目を閉じたまま聞いた。
「・・・どうしたい。って子姫を。か。」
「あたりまえだよ。この数カ月何考えてたの。」
「なにも。」
「・・・・。はぁ。」
ため息。
「子姫ちゃんには会った?」
「数回な。」
「どう?」
「どうも。」
「話した?」
「挨拶を。」
「・・・抱きしめた?」
「抱きしめれるわけがないだろう。」
「・・・キスは?」
「しない。」
「したい?」
「しない。」
「質問聞いてた?したいか?って聞いたんだけど。」
「しない。と俺は答えた。」
「じゃあ、したいけどしないんだね。」
「・・・。」
「沈黙はイエスととるから。」
木下は笑った。
「どうしてキスしない?」
「触れられない。」
「触れないんじゃなくて?」
「不可能だ。」
「なぜ?」
「子姫は、俺を好きではない。それに気づいた。」
「お前はそれに気づいてた?」
「・・・分からない。」
「そう思ってた?」
「・・・思ってた・・・かもしれない。」
少なくとも、あのハグをした時には、感じてた。
拒絶を。
「今、然の言う『好き』って。人間的にってことかな。それとも、恋愛?」
「恋愛だ。人間的まで嫌われてたという自信はない。」
「どういう自信だ。・・・なるほど。で。然は子姫ちゃんのこと抱きしめたい?」
「抱きしめられるわけないだろう。」
「どうして?」
「同じ理由だ。二度も聞くな。」
「じゃあ、子姫ちゃんが然のことを好きといったら、抱きしめる?」
「・・・そういう状況はない。」
「望む?」
「・・・ない。」
「望むけど、ない。」
「・・・お前な。」
「否定しないほうが悪い。」
木下は笑う。
「子姫ちゃんをどうしたい?今のままを望む?」
「・・・なにも望まない。ただ。」
「・・・ただ?」
木下が妙に間をとって訊いた。
「・・・あいつが壊れないのなら。それでいい。」
「それは、心配?」
「そうかもな。俺も人並みに他人を心配くらいする。」
「壊れたら、困る?」
「・・・壁を叩かれるぶんはな。」
「子姫ちゃんに幸せになってほしい?」
「・・・そうだな。それは望む。」
「じゃあ子姫ちゃんの幸せって?」
「・・・それは個人に訊け。俺に訊いても答えられん。」
「お前ができることはありそうか?」
「・・・知らん。本人が必要とすればできることはする。」
「愛せと言われたら?」
「・・・・・言わない。」
「もしもボックスだよ。然。」
「・・・・・・そうだな。」
俺はため息をついた。
「できることなら。するよ。」
「・・・そう。」
木下は微笑んだ。
「不可能では、ないんだね。」
「・・・・できるなら、と言った。」
「ボンが。」
木下がふと壁にかかる絵を見て言った。
「ボンが、子姫ちゃんに告白をして。そして、お前がいない隙に子姫ちゃんを奪ったら?お前、どう思う?」
「・・・・知らん。すべて子姫による。あいつが選ぶなら。」
「それでいい?」
「・・・いい。」
「子姫ちゃんと銀が付き合って。それでいいのなら。彼らがキスをすることも、それ以上のことも、いいんだな。」
「・・・俺にはどうもできないだろう。」
「もし、子姫ちゃんが本当はボンが好きじゃないのなら?」
「・・・・は?」
「嫌いではないが、本当は恋愛として好きじゃない。でも子姫ちゃんはボンのことを、拒めないでいる。その場合は?」
「・・・・。」
黙る。
想像する。
「・・・嫌だな。その場合は。」
「じゃあ、どうしてやればいい?」
「・・・引き離す。二人を。」
言いきってはっとする。なんて勝手な。
「そんな権利は、俺はないが。」
「・・・今の。聞いたね。」
にこっと木下が笑った。
「・・・それがお前の願望だよ。然。」
「・・・願望?」
「二人がくっつくのを嫌だ。もし子姫ちゃんがそのことで困っているなら自分が何とかしたい。そいういう願望。無関係の、自分が。・・・はて。本当に無関係か?」
木下はつらつら独り言のように言い始めた。
「無関係ではない。子姫ちゃんを幸せにしたいと思ってる。そしてそのためにできることは、二人の仲を引き離すことだったらそうすることはいとわない。ほかの誰でもない自分がやる、と。」
「・・・俺がやるとは言ってない。」
「言ったよ。『俺』に権利はないが。と言った。お前がやる気だったんだろ。」
木下を睨む。
この誘導タヌキ。
「お前は。お前が子姫ちゃんを救いたいと思ってる。」
「・・・それがなんだ。それが。」
「もう一度訊くよ。然。抱きしめたい?それが救いになるなら。それが、心を埋める行為なら。子姫ちゃんのために。」

ああもう。くそ。
 


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