知る世界22

好きって言ってた。
好きってなんだ。
好き?
私は先生を、好きなのだろうか。

どうしようもなく惹かれた。
それはイコール好きなのか。
答えにならない。

「子姫ちゃん。」
尋ねられる。
「然さんのこと好き?」
「・・・・え。」
「俺。・・・。」
もたついて、でも顔をしっかりあげて言った。
「俺、子姫ちゃんのことが好きだよ。」
「・・・・・・・銀君。」
「・・・俺、子姫ちゃんのこと。支えたいし。子姫ちゃんと、笑い・・・たい。」
顔が赤くなってる。
「・・・好きだよ。」
「・・・あり・・がとう。」
「あ!・・・あの!別に付き合ってほしいとかそういうんじゃなくて!あの!然さんがいるの知ってるし!その!伝えたかっただけっていうか。・・・め、迷惑だったら忘れてくれていいんだ!」
「・・・迷惑じゃないよ。」
「ごめん!こんなとこで・・・。言う・・・つもりじゃなかったんだ・・。ケド・・。」
「いいよ。ありがとう。銀君。」
銀は笑った。
だからつられて、笑った。気がする。
「送るよ。」
「え。いいよ。大丈夫。」
「送る。」
「・・・・ありがと。」
立ち上がってお勘定をすまして歩き出す。
「・・・然さんのこと。好きなんだよね。」
「・・・。」
答えに困った。
「・・・子姫ちゃん?」
「・・・好きって。言葉にしたこと・・・ない。」
「・・・え。と。」
「・・・必要だと思った。惹かれて、傍にいてほしくて。それで・・・。」
「・・・それって。きっと好きなんだよ。」
銀は微笑んでくれた。
「そうなのかな。」
分からない。だけど微笑んでくれたから、救われた。
「もし。」
彼は微笑んだまま言った。
「もし、然さんじゃない、って思ったんだったら。そう思った時に考えたらいいよ。自分の、身の振り方も。全部。」
「・・・・・・・・・・・・・。」
彼は。
なんてしっかりした意見を持って、人を好きになるんだろう。
尊敬すら、感じた。
「俺。待ってるから。」
「・・・ま・・ってる・・・?」
「うん。俺、子姫ちゃんが、泣きつきたい時は、一緒に泣くし。逃げてきたいんだったら、その時は逃げ道になってあげる。いつでも、待ってる。」
いつまでも、ではなく。いつでも、と彼は言った。
「・・・ありがとう。」
だから。
微笑むしかできなかった。

「じゃあ、また。学校で。」
「うん。」
手を振って別れた。
少しだけ。心が軽くなっていた。
あの部屋に戻っても、今夜は腐らずに済みそうだ。
部屋に入ろうとした時。エレベーターが上がってきて、この階で止まった。
「・・・・・・・。」
ちらりと見やる。もしかしたら、と思った。
「子姫」
もしかしたら、は的中。
「然さん。」
「・・・。」
彼は少し黙って、それからため息をついた。
「先生はやめたのか。」
「・・あ。・・・いえ。」
無意識。
無意識だ。
「あの・・・。」
「下で銀に会った。」
「え。」
「今日は一緒にどこかに行ってたのか。」
「学校・・・に。」
感じるのは、なんだろう。
これ。
違和感?
「今日は行ったのか。」
「はい。」
「そうか。」
私の横を通り過ぎる時に、彼は私のほうを見なかった。
「あの。」
「なんだ。」
「・・・私は・・・然さんが、好きなんだと思いますか?」
彼は立ち止った。
「・・・スキ・・って。」
ごくん。
変なことを聞いてるのは分かってる。
飲みこむ。つば。
「・・・言ったこと・・・が、ないから。」
「・・・分からん。」
「じゃあ・・・。」
彼はこちらを見ない。
私はすがるように、彼を見つめた。
「・・・然さんは、私のこと、好きなんですか?」
彼は答えなかった。
何も。
「スキ・・・て。なんですか?」
「・・・俺に、聞くな。」
彼はそれだけ答えて、自分の部屋に吸い込まれていった。

暗い廊下。

私はただ、立ちすくんで壊してしまった何かを感じてた。

きっと彼はもう、私を抱きしめないだろう。
無断で部屋に入ってくることもないだろう。
きっと彼はもう、私にキスはしないだろう。
無為に思えるような、空っぽなハグもしないだろう。
恋人ごっこのような、この関係をきっと、もう。

魔法を解いてしまうスペルを私は言った。

「スキ」

こんなもので、私たちは繋がっていなかった。

後悔が襲う。
 


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