知る世界19

銀は泣いた。
やつれた子姫を見て。
「もういいか。」
「・・・はい。」
ぐすっと鼻をすすって、銀は頷いた。
銀を連れて、子姫の部屋を出た。

「・・・大丈夫か。」
呆れるほど、まっすぐな奴だ。
「はい・・・。」
頷く。
「・・・あの。」
俺を見上げる。
「子姫さん・・・本当は体調不良なんかじゃないんでしょう?」
「・・・なんでだ。」
「・・・あの目・・・。姉ちゃんも昔してた。」
ずくんと。胸の奥で何かが音を鳴らす。
「・・・姉ちゃんもあんな風になって、すっごくやつれてた。だから・・・分かるんです。」
恭子が?あの、強い女が?
「子姫さん・・・何かあったんでしょう?」
「・・・。」
黙った。それは、イエスに等しい。
「・・・あったんですね・・・。」
「・・・言わんぞ。」
「・・・分かってます。」
銀は眼を伏せた。
「・・・俺。何か、できませんか。」
「俺に聞くな。」
「俺!」
顔を上げて叫んだ。
「俺!子姫さんが好きです!」
貫かれた。
「あの子を助けたい!」
「・・・。」
「俺!また来ます!・・・い・・・っ一応!許可・・・ください!」
「・・・・俺に許可を?」
「いっ!一応!一応、その・・・子姫さんと、そういう。仲なわけだから。」
顔を赤らめて言う。
「許可!ください!」
「・・・・・・・・・。勝手にしろ。」
そう、言うほかなかった。

スキ?


「正峰さん。」
彼女は、夜中の二時を回ったころ。静かに部屋にやってきた。
「お前は・・・。何時だと思ってる。」
「・・・すみません。」
ため息をついた。
「どうした。」
「・・・・・・・・・・。」
答えない。
「・・・なんだ。」
立ち上がった。ベッドのきしむ音と、床がきしむ音がする。
「正峰さん。」
「ここにいる。」
子姫の手を取った。冷たい。相変わらず。
「・・・泣いてるのか。」
「いいえ・・・。」
嘘だった。
暗闇の中、少し洩れる外の光が子姫の顔を照らした。
そのほほに間違いなく光の筋が見えた。
どうしようもなくなって、抱きしめた。
だけど、うまく抱きしめられない。
心が噛み合ってない。俺が戸惑っているのか、子姫が拒んでいるのかは分からない。
だが、お互いに、ただ体がぶつかっているだけの行為だった。
「銀君・・・何か言っていましたか。」
「・・・いいや。」
「嘘。」
子姫はすぐにそう言った。
「嘘でしょう。先生。」
疑った。
先生、と俺を呼んだ。
「先生。」
抱きしめかえされた。
そして。
「・・・ごめんなさい。」
謝られた。

一体、何について、謝ったというのだろう。


銀の言葉が頭痛を起こす。
「好き」
と言った。まっすぐに。
そして俺に許可を求めた。子姫に会う許可。
俺は、子姫をどう思ってる?
スキ?
好きなどという、軽いものではない。では愛か。

わからない。

惹かれている。
だが、それは、恭子に以前感じたような恋慕の情ではない。
これは、何という名前の、感情だろう。

木下。
そんな思いを持って彼女を抱いた俺は、異常だろうか。
お互いが、お互いを求めてはいたが、お互いがお互いを拒んでいた。
この夜の俺たちは、お前の眼にはどう映る。
 


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