知る世界12

「寄るな、汚い。」
その言葉に貫かれた。
「・・・きたない・・・・?」
汚れていたのかな。私。
掌を見てみる。
あの場所から、逃げるように立ち去ってしまった。
置いてきてしまった。
気づけば、駅にいた。
「・・・・・・・・・・。もう、いないかな。」
マンションの前に、もういないだろうか。
もう少し此処にいよう。そう思った。誰もいない時間に、戻ろう。
駅のベンチ。
腰が痛くなる。
「・・・あっれー?」
「え?」
顔をあげた。知っている声が聞こえたから。
「子姫ちゃん?」
「・・・あ。」
「覚えてる?」
にっこり笑った男は。
「・・・木下・・・さん?」
「そうそう。」
にこにこ笑って頷いた。
「何してるの?ここで。そろそろ寒くない?」
「あ・・・・いえ。木下さんこそ。」
「ん?俺?俺は然のところに行って晩酌でもって思って。あれ、もしかして然待ってるの?」
「・・・いえ・・・誰も・・・。待っていません。」
「・・・・・・・・・・?」
木下はすっと横に座った。
「コーヒー飲む?」
「・・・・・・はい。」
木下はまた立ちあがって近くの自動販売機にお金を入れた。そしてコーヒーを片手に戻ってきた。
「はい。」
「ありがとうございます。」
「いいえ。」
沈黙。
「・・・然と、喧嘩?」
「・・・いえ。」
「・・・そか。」
木下は何もかもわかったようだった。
「あの・・・。」
「ん?」
「・・・私のこと・・・女に見えますか?」
「・・・・・・え?」
木下は笑った。
「見えるよ。そりゃ。めちゃくちゃ綺麗な女の子だよ。」
「・・・あ・・・そ、そうですか。」
なんて何事もないように言うのだろう。
「・・・じゃあ、汚い?」
「・・・・・・・・・・。」
木下は黙った。
そしてため息をついた。深い。
「・・・汚いって?」
「・・然さんが。」
「・・・そう。」
木下は俯いた。
「・・・汚い人間には、キスしないと思うけどね。」
木下がふいに首元に触れて言った。
びくっとする。
「あ、ごめん。くすぐったかった?」
「・・・いえ。」
どきどきした。躊躇なく触れるから。
「もうちょっと場所考えろよな。あいつも。」
くすくす笑う木下。
「?」
「いや、こっちの話。それで・・・?どういう成り行きでそんなこと言われたの?」
「・・・あ。あの。多分、正峰さんの親戚の方が・・・」
「・・・親戚?」
眉をひそめる。
「・・・あ、はい。親戚の方がマンションの下にいらっしゃってたんです。」
「・・・誰・・・?」
「正峰 恭子さんです。」
そう言った瞬間。空気が張り詰めた。
「・・・木下さん?」
「・・・・あ、や。ごめん。・・・なんでその人、そこに?」
「なんか、然さんに用があったみたいで・・・。私は偶然会って言伝を頼まれてたんです。」
「・・・なんて?」
「忘れてはいないでしょう?って。それだけ言ってくださいって。」
「・・・。」
「そしたら正峰さんが帰ってきて。・・・そしたら、血相を変えて私を引っ張って・・・。」
「・・・で、汚いって言われたんだ。」
「・・・そういう・・感じです。」
うまく説明できてないけれど、木下は分かったようだった。
「・・の・・・キツネ。」
「え?」
「いやいや、こっちの話。」
「・・・あの・・・。それで・・・私。どうしたらいいのか分からなくて。その場から、逃げてしまったんです。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・。そか。」
震えた。声。泣きたくなっていた。
「子姫ちゃん。」
「・・・はい。」
「・・・然。多分話せないと思うんだ。」
「・・・え?」
「これからする話。俺から聞いたって言って。」
「・・・あの・・・?」
「大丈夫。俺、あいつに殴られまくってて慣れてるから!」
「・・・へ!?」
彼はにっこり微笑んだ。
口はその後すぐ開く。

「あれ、然の姉なんだ。」



→次のページ 


■ホーム■□□   鬱になった人拍手   意見箱   投票
 

12

inserted by FC2 system