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蹴り倒した。
馬が叫ぶ。
「はぁ・・・っはぁ・・・!」
汗をぬぐった。同時に手についた血が頬についた。
「・・・っあー!」
喉を伸ばす。上を向く。
ガタン。
戸が開く。
「・・・終わったのか?」
「ん。」
後ろは振り向かない。フェレスの声を背中で聞いた。
「・・・多かったな。」
「んー。あー!疲れた!」
どすっと腰をおろす。
「・・・スザンナ。」
「何?」
振り向いた。
だけど、しまったと思った。
顔は笑っている。
フェレスは無表情で見下ろしていた。
ゴクン。
唾を飲み込む。
随分たくさんの人間を相手に戦った。
突然だった。
奇襲だ。待ち伏せだった。
馬車を守りながら一人で戦った。
戦いのさなかひやっとした事も何度かあった。
自分の死角の馬車の扉を破ろうとする。
この状況で最後まで馬車が倒されなかったのはこの馬車が随分頑丈だったからだと思う。
「弟、無事か?」
「あぁ。無事だ。」
なんとか。
なんとか、この緩んだ笑顔を少し元に戻さなくては。
笑う場面じゃない。
自分は血まみれだ。
たくさん人が倒れてる。
つくづく自分の武民の血がいかに濃いかつきつけられる。
「よかった。」
顔を背けて立ち上がった。
「おじさんは?」
「だ・・・大丈夫です。」
「よかった。」
微笑む。
御者のおじさんは、うまいこと影に逃げる事ができたらしく、無事だった。
「行こう。フェレス。」
「あぁ。だが、その格好。」
「気にしないでくれ。大きな町に入る前には退散するから。目を引くような事しないよ。ちょっと血なまぐさいけどなっ。」
フェレスはじっとこっちを見た。
「着て。」
そして自分の服を差し出した。
私は首を振った。
受け取れない。
そんな、絹の。
「着れないよ。」
「汗をかいている。身体が冷える。肩や腰を冷やすのはよくないぞ。女なんだろ。」
「・・・・。それなに?なんの迷信?」
「医学だ。」
ぽいっと投げられた。
結局受け取ってしまった。
ゆっくりと袖を通す。
確かに、汗で身体が随分冷えていたらしい。
すごくぬくく感じた。
フェレスの匂いがした。
血の匂いじゃない、いい匂いだ。


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