11,
「後には引けない。」
「そんなこと分かってるよ。」
セツは天上を見つめた。彼はセツを見つめる。
「僕は知りたい。」
「何を。」
「君は、自分が思っているよりもずっと、ずっと他人に敏感だ。」
「だったら?」
「気付いているの?」
「・・・・なにを?」
セツは真剣に問うた。
「あの鍵のことだよ。」
「・・・・・・・。」
彼は微笑んだ。殆んど苦笑いだった。
「あの子が、一度、君に対して壁を再構築したの。気付いてる?」
「・・・気付いてるよ。」
セツは息をつく。
「だけど、これは私のせいじゃない。そうだろ?」
「・・・おそらくはね。」
「だったら、放っとくしかないだろ。」
「・・・見た?」
「は?」
「こうやって、他人に壁を作られるっていう悲しさ。そして、どうこうしようとも思わせない失望。」   

「・・・・・・・・・・。つまり?」
「これが、君の犯してきた事だよ。全ての民たちに対して。」
「・・・そうかもしれない。」
「幸運なことに、それはほんの一瞬のことで、壁の再構築はわずかなものだった。」
「・・・今はおさまっている。」
「うん。でも、君はすこし懼れてる。」
「なにを?」
「君はとても敏感だ。だから。なぜ彼が壁を再構築したのか、その理由を、懼れてる。」
「・・・・・・。つまり?」
セツは睨む。
「最悪は、君の正体がばれたんじゃないかって懼れてる。」


12,
「それで。追われているって?」
ロイサは驚いていた。僕は頷く。
「何故?何かしたの?」

「それは・・・今はいえない。」
はっきりと、いった。ロイサは息をつく。追求はして来ない。


「・・・いいわ。それで、セツ様も一緒に追われているのね?」
「あ・・・セツは。」
「えぇ。」
セツは微笑んで頷いた。何も語らない気だ。自分のことは。
セツの目の前に、壁が見える。僕には。
「分かったわ。でも面白そうね。」
ロイサは笑った。
「面白くないよ。」
「面白いわ。その不貞の輩を、捕まえてみましょう。」
「へ?」
「追っているのが、どこかの貴族なら、私はスピカの方につくわ。貴族同士なら、向こうも簡単に手は出せな
い。」
「ま・・・待ってロイサ。僕はロイサを巻き込みたくは・・・。」
「私が巻き込まれたいのよ。スピカとセツ様の役の立ちたいわ。」
「ロイサ・・・っ。」
「聴いてスピカ。」
ロイサは真面目な顔で僕を見た。
「私は、此処が嫌いよ。」
セツはロイサの目を見た。その目の中に光が一瞬浮んだ気がした。
「私は、此処が、嫌い。貴族たちの醜い権力競争も、窮屈な決まりも。」
ロイサの目は真剣だった。
「何をどう悪く言ったって、私はその貴族。甘い蜜をすって生きている側。だから、甘えたこと言ってるって、
思ってくれて構わないわ。でも、簡単に逃げ出すこともできない。だったらせめて、内側からこの世界を壊し
てみたいの。」
「・・ろ・・ロイサ。言ってること分かってる?」
僕はたじろぐ。
「分かってるわ。いかれたことを言ってるって。」
くすっとセツが笑った。ロイサはセツを見る。
「確かに、甘い考えをお持ちのようですね。」
「・・・・・えぇ。存じてますわ。」
「セツ!」
「此処がお嫌いなら、今すぐに出て行けばいい。剣を取り、走ればいい。追われれば、逃げ切り、向かってく
るのなら、蹴り倒せばいい。」
沈黙。
「セツ・・・っ。ロイサは・・・っ。」
「分かっています。令嬢に失礼なことを言いました。」
それはとても皮肉っているように聞こえた。
「だけど、その甘えた考え。気に入りましたよ。」
「それは嬉しいですわ。」
ロイサは、微笑んだ。セツも微笑む。


「ありがとうございます。ロイサ嬢。あなたにご協力していただけるなら、私たちの旅も幾分楽になりましょ
う。」
「・・・それはなにより。」
「ですが、お約束ください。」
「なにを?」
「全ての事が終わった時に、あなたが此処を変えてください。」
「・・・・・・・?」
ロイサは首を傾げた。だけどセツはそれ以上説明しなかった。
「あなたに同意しますよ。ロイサ嬢。ここは、腐った世界だ。それから。スピカのことはどうぞ面倒を見てやっ
てください。」
そして、ロイサの手を取った。
ロイサは微笑んだ。
「セツ様は、此処を知っているんですね。」
セツは微笑んだだけだった。


13,
「なかなか言ったね。」
重低音をならす。
「自分を思い出した?」
「まさか。」
セツはグリッサンドする。
「私だったら、自分でそれを知ることはなかったよ。それを見つけることはなかった。」
「つまり、もっと馬鹿だったと。」
「認める。」
「君はあの時、全てを悟ったね。そして剣を持って走り出し、追われたら逃げ切り、向かってくるものが居れ
ば蹴り倒した。そうやって生きてきた。」
ハノンは、もう何処かへしまってしまったらしい。
「それがいかに厳しく、いかに過酷か、君が一番知っている。」
「私が一番知っている。」
繰り返す。
「あの場所にいて、捨てたいとはそう簡単には思えないさ。嫌悪したとしても、ある程度のきっかけがなけれ
ば、そうは思えないだろう。」
「そう、それは、脳を引っかき出されるような。それは、心臓を引きずり出されるような。それは、目玉をく
りぬかれるような。そんなきっかけだ。」
そしてある程度の、脅迫。
セツは目をつむる。
「さぁ。君は、それから、どうするの?」



14,

「これらの貴族を尋ねる?」
紙を見て、ロイサが呟く。
「うん。出来る限り。」
「・・・本気で言ってるの?」
「うん。本気。」
「・・・いいわ。私も行きましょう。」
セツがロイサを見る。
「私が行ったほうがすんなり通れるでしょう。」
「ロイサ嬢。」
「はい。セツ様。」
ロイサは振り向く。
「それはとてもありがたいのですが、いいのですか?」
「なにがですの?」
「協力と言っても陰ながらされるのと、おおっぴらにされるのとでは、色々違ってきますよ。」
「つまり?」
「そうすることで、ロイサ嬢も確実に狙われることになる。」
にこりとロイサは笑った。
「私は大丈夫ですわ。この吐き気のするくらいの檻にずっと閉じこもっています。檻は時に頑丈な要塞にな
る。」
「・・・ですが。せめて、身を隠したほうがよいかと。」
「・・えぇ。そうですわね。ありがとう。けれどねセツ様。」
「・・・。」
「私は生半可に協力したいんじゃないんですのよ。セツ様がおっしゃる約束を果たすくらいのことをするのな
ら、こそこそやったってしかたありませんもの。」
「・・・・・ご尤も。立派な令嬢だ。」
「あら、お褒めに預かり光栄ですわ。」
ロイサは微笑む。そして僕を見る。
「ねぇ、スピカ。あなたとセツ様はどこでしりあったの?控えめに言っても面白い二人組みだと、思うのだけ
ど。」
「あ・・・えっと。」
「西。川のある村で。」
「へぇ。都のほうですわね。」
「えぇ、でも都よりは随分離れていたと思います。私はスピカにナンパされました。」
「まぁ。」
ふふっとロイサは笑う。
「セツ!なんてこと言うのさ!」
「何も間違ったこと言ってないだろ。」
僕の顔は赤くなる。
「なんにしても。」
ロイサは静かに言う。

「明日早速出発しましょう。」
「待った。」
セツが止める。
「ロイサ嬢。せめて現地で落ちあってもらえますか?」
「え?」
「旅の途中が一番危ない。私が守れるのはせいぜい一人です。」
「・・・・・分かりました。」
ロイサは笑う。
「じゃあ、この日に、ここで落ちあいましょう。」
紙に住所を書いて渡した。


15,
カチャ。
刃物の音が闇にする。
「・・・・・・・・・・お前か。」
深い声が、暗闇で呟かれた。
黒い髪の毛からのぞく鷹のような目はそれを捉える。
「久しぶりだな。」
ルクだ。ルクはそういって彼を見つめる。
「どうした。」
彼は黙ったままルクを見る。
「あぁ。光があって近寄れないのか。」
彼は焚き火を足で踏んで消す。もう消え掛かっていたのでそれは簡単に消えてしまった。真の暗闇が訪れて、
ルクは顔を上げる。真っ暗闇だが、彼がこっちを見ている事がわかる。
「いつ以来か。」
「ずいぶん前だった気がするね。」
彼が口を開く、光があっては口を開くことも出来ない。
「何か用か。」
「用が無かったら来ないよ。」
「そうだな。お前は俺を嫌っている。」
ルクは笑った。
「お前はセツに殺す術を教えたから。」
「守る術だ。」
「同じだ。」
彼は睨む。決してルクには近づかない。
「お前は誰だ。」
彼は黙る。
「なぜセツの中にいる。」
無言。
「・・・それで?用件はなんだ。」

「セツが都に近づいてる。」
「・・・・・・・・それはあの少年と?」
「スペルを探して。」
「・・・ならば問題はないだろう。」
彼は頷く。
「鍵はセツの呪いを解く鍵だ。言ってしまえばスペルそのものだ。僕はお前に言う。」
「何を?」
「セツを止めろ。」
「・・・・・・それは、スペルを探す事を?」
「違う。呪いだ。」
「・・・あの少年に託せ。あの少年しか呪いは解けないと分かっているんだろう。」
「間に合わないかもしれない。」
「何故。」
「セツが地下に行った。一度。そして、女の顔を見た。」
「・・・それは?」
彼は首を振る。
「お前なら分かると思っていた。」
「・・・分からんでもないさ。」
「セツもきっと本当は、どこかで分かってる。だから、怖い。呪いが勝ってしまいそうで怖い。」     

「それで、俺に、俺を嫌っているお前がわざわざ頼みに来たって事か。」
彼は黙る。
「随分、セツのことを大事にしてるんだな。」
「・・・僕はセツの塔の住人だから。」
「どうすればいい。言ってみろ。」
「西へ行って。」
指をさす。
「西へ行って。セツを追いかけて。」


16,
「ねぇ、セツ。」
「なに?」
僕は満天の空を見上げて呟いた。
「スペルを手に入れて、ラピス・ラズリを手に入れたら、その後、どうするの?」
「・・・・・・・・・まだ分からない。」
「・・・それ以外に、目的が無く旅をしていたの?」
「そう言うわけじゃない。」
「じゃあ、何?」
セツは黙った。僕は、卑怯だった。今も。昔も。
今、この質問をぶつけたのは、セツのあの日の言葉の意味を知りたかったからだ。
殺さなくちゃいけないのか。


誰を?体を走った一種の寒気。セツが誰だか分からなくさせた一言だ。
この寒気を消したかった。冗談だと思いたかった。もしくは夢。
「セツ?」
「・・・初めは。別の目的だった。」
「うん。」
セツはこちらを見ない。僕はセツを見る。やわらかい髪の毛が地面にぶつかって波を描いている。
「・・・・・・・・言えない。」
セツは呟いた。僕の胸はしまった。お願いだ。お願いだ。消し去ってくれ。
「セツ・・・。」
セツはぐるんと向きなおって僕を見た。ばっちり眼があった。その目はどうにも強い。だけど一瞬で涙が零れ
落ちそうな脆さがあった。
「スピカ。」
セツが僕を呼ぶ。僕の心臓が鳴る。どうして?どうして?セツ。
「最初は、どうしても強くならないといけなかったんだ。それでルクと一緒に旅をした。」
「どうして強くならないといけなかったの?」
「それは・・・言えない。」
セツは目を閉じる。
「スピカには、言えるのか?」
僕の心臓は貫かれる。
「・・・・・・言えないよ。」
「同じだ。」
セツが微笑んだ気がした。
「ごめん・・・。」
僕は泣きそうになった。
「ごめん・・・セツ・・・。ごめん。」
「・・・いいよ。」
セツの優しい手が、僕の額に触れた。
それは、一瞬躊躇し、そしてゆっくりと離れた。


17,
「確信したろ?」
セツが振り向いた。
「何処に行くの?」
セツは、頬に汗を滲ませた。
「行くなよ。」
「・・・・離せ。」
彼がセツの手を取っていた。
「行くな。」
「離せ!」
セツの声が荒くなった。

「お前だって、この間何処かに行っていただろう。ここから、何処に行こうと、私の勝手じゃないか。」
「でもセツ。其処には行かないって、約束してくれたじゃないか。」
「・・・・っ。」
あの地下への扉の目の前だった。
「今行ったらダメだ。」
「・・・でも・・・。」
「行くくらいならば、言葉にして、問え。」
「離してくれ・・・っ。」
セツは泣きかけた。
「確かめに行きたいんだね。」
「・・・っ。」
「そうじゃないと、言い切りたくて。確かめに行きたいんだね。」
セツは力なくうなだれた。
「信じて。」
「何を。」
「鍵を。自分を。世界を。」
「・・・・・・無理だ・・・っ。」
声がかすれた。
「行かせてくれ・・・っ。」
「セツ。」
ぎゅっと彼はセツを抱きしめた。
「ダメだ。今行ったら。きっと君はもう一度あいつを殺す。そしてあの女も殺してしまう。」
「・・・・っ。」
「それは容赦なく。顔を分からなくさせてしまう。引きさいて、貫いて。君は叫ぶ。そんなの僕はいやだ。そ
の後の君を見たくない。」
「もう消したいんだ!」
「だめだ。セツ。呪いに負けないで。」
セツは彼の腕を掴んだ。ものすごい力だ。
「もう消してくれ・・・っ。早く・・・っラピス・ラズリが欲しい・・・っ!」
泣いた。


18,
「セツ!」
「え?」
ばさっ!
僕が叫んだ時にはすでに遅かった。セツは大きな袋に入れられてそのまま乱暴に抱えられた。
「セツ!」
僕は叫ぶ。だけどそいつらは奥へどんどん消えていく。まだ朝焼けも来ていないそんな早朝。僕は簡単に見失
う。僕は追いかけようとする。だけど、うまいこと脚が回らない。叫ぶ。だけど、誰も答えない。それは迅速
に、そして冷酷に行なわれた。

セツ!
らしくない。いつものセツなら、戦って蹴り飛ばして、そして叩きのめしてしまう。
はっとする。セツの荷物が転がったままだ。僕はその袋を開いた。中にあの短剣が入っている。
ぞくっとする。いつも肌身離していなかったあの短剣が此処に在る。セツが短剣無しで戦っているところを見
た事がない。僕はとっさに荷物を担いで追おうとする。だけど身体が何かが縛った。
ロイサは?
このまま、セツを追いかけていく。そうすると絶対にロイサとの待ち合わせに間に合わない。つまり。あの貴
族にも会う事が出来ない。このままセツを追いかけていく。それは確実なことじゃない。すでに見失っている。
僕は醜い二つの選択肢にはさまれた。
汗がつたう。
立ちすくむ。



19,
「ちっ・・・!」
セツは袋の中で舌打ちをする。手元に、腰に、短剣はない。今、手は出せない。丸坊主なのだ。
ぼーっとしていた。認める。
今もがいても対して効果はない。あいてはプロだ。暫らく酔いそうな揺れに耐えながら黙って運ばれた。
足が止まった時。それが勝負だ。そこでまずは蹴り飛ばす。武器はない。ならば奪うのみ。一瞬の隙だ。そこ
さえ突ければ。なんとかなる。
「!」
足が止まった。セツは体を一瞬折り曲げて勢いよく足を伸ばした。ごっ!という鈍い音と共に誰かがうめいた。
綺麗に決まった。
袋が地面へと落ちていく。どすん!と土に叩き付けられる。一瞬すごい衝撃が生身の身体に走るが。すぐに起
き上がり、袋を引きはがす。その瞬間に一撃。後ろから殴られる。背中にその打撃を受ける。息が詰まる。
「何者。」
「分かっているんだろう!」
「何も分かっちゃいなさそうな、下っ端の家来に言われたくないな。」
「この女!」
「エラルドの手のものか。発信機でもついてるのか。うっとおしいな。」
「おとなしく捕まれ!」
セツは舌打ちをする。
「誰が好んであんた達に捕まるか。」
「ならば力ずくだ。」
「ご尤も。」
セツはコンコンとつま先を地面で鳴らす。背中が痛む。息がまだちゃんと整わない。
4人。いけるかな。武器無しで。
セツが飛ぼうとした瞬間だった。
「うぁあ!」
「!」



叫んだのは、相手だった。
「え?」
驚いた。
「セツ。まだまだ鍛えたりないか?」
「ルク!」
ルクが立っていた。大きな刃を持って。ルクは瞬間、それを振り回し、そして残りの男たちも動けなくしてし
まった。
「足だけだ。命の別状はない。」
ルクはそう吐き捨ててセツの方に向かう。
セツは息を呑む。これだからこの男は。ほんの一瞬だった。最強の傭兵。伝説級の男だ。
「・・・・・セツ。」
「・・・・・っ。」
「鍛えなおせ。武器無しだからといって、これではもたん。」
「・・・っ分かってるよ!」
あらぶった。
「・・・。どうした?」
「・・・ごめん。」
セツは目を背けた。
「・・・行くぞ。一緒に来い。」
「何処へ?」
「お前が来たほうへ戻る。西だ。」
「・・・・・・・・・・・・。」
なるほど。これはあの男がわざわざ俺の所まで来るわけだ。


20,
「スピカ!」
ロイサは約束の場所にいた。
「早かったわね。セツ様は?」
ロイサは微笑んだが、すぐに異変に気が付いたようだった。
「・・・どうしたの?顔色が、悪いわよ、スピカ。」
「・・・・・・・・・・・ごめん。」
「え・・・・?」
僕は、謝った。
「ごめん・・・・。」
涙が出そうになった。ロイサは一瞬躊躇した。
「・・・・・・・・そう。」
だけど、全てを悟ったようにそう言った。
「とりあえず馬車に入って。ここは人通りも多いから。目立つわ。」
僕は無言で頷いた。
謝りたかった相手はロイサじゃない。セツだった。

僕は結局セツを追わずに、真っ直ぐ此処へ来た。それは足早に、半ば競歩で。
僕は顔を覆ったまま暫らく動けなかった。後悔がひどい。気分が悪い。
セツを見捨てて真っ直ぐここへ来てしまった。それは自分のために。紛れもなく、自分だけのために。醜い選
択肢の誘惑に、見事打ちまけた。
「なるほど・・・セツ様は武器を持っていらっしゃらなかったのね。」
ロイサは俯く。何かを考えるように。
「いつも腰に刺してらっしゃる短剣よね?」
僕は頷く。
「今は此処にある。」
ぎゅっとい抱きしめる。セツの鞄。
「ねぇ、スピカ。」
「え?」
「セツ様って本当に、貴族でいらっしゃるんじゃないの?」
僕は言葉を失う。心臓が渦巻く。
「少なくとも私はそうだと思うの。今は違っても、昔は貴族だったんじゃないかしら。」
「・・・・エラルド摂政に・・・追われるような?」
「エラルド?」
「あ。ごめんこれはいってなかった。セツはエラルド摂政に追われてるんだ。」
「・・・・・・・・・・・・・・それは。なかなか大事ね。」
「うん。」
「興味本位で申し訳ないんだけど。私、セツ様が何者なのか、知りたいわ。」
僕は黙る。そして一度躊躇して、そして顔を上げる。
「ねぇ、訊きたい事があるんだ。」




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