道を歩く。
手をひく。
道を歩く。
下を見る。
美夜。
「・・・どっから来たわけ?」
呟くように美木が尋ねた。
少女は脚元から美木のさらさらの髪の毛に目をむける。
「・・・・・・・・」
応えない。
美木がため息。
こういう仕事はほんとは美木の仕事じゃないんだけれど。
多分城下の役所につれてくほうがいいんだろうけれど。
城下の役所は遠かった。
だから、城につれていったのだ。
「なんでもいいけど、安心しなよ。城には怖い奴なんていないから。」
未だに震える手をひきながら美木が言った。
美夜は黙った。

「ただいま」
美木が言った。
「おぅ、美木っ・・・どこ行って・・・たん・・・・・」
城の一角に着くなり、海座とはち合わせた。高羅も一緒だ。
美夜はばっと美木の後ろに隠れる。
「ってなんだよっその子!彼女か!!!!!」
「美木・・・お前もやっぱり男だったんだな。」
うるさいな。
「違うよ。海座と一緒にしないでくれる?迷子。連れてきただけ。」
美木が切れかけながら言った。
「迷子を口説いたのかよ!てめぇなかなかやるな・・・」
海座。
「美木・・・お前もやっぱり男だったんだな。」
高羅。
「切れるよ?」
美木が恐ろしい殺気を放った。
二人は後ずさった。
・・・怖い。
「へぇ。で、名前は?」
海座が美木の後ろに隠れてしまった美夜の方にまわりこみ、かがんで尋ねた。
「美夜。」
美木が応えた。
「歳は?」
「10・・・」
美木と同じくらいか。
「ふ〜ん・・・。家は。」
「・・・・・・・・・」
美夜は応えない。
「あっちだって。」
美木が指を指す。
さっき美夜が指した方角の空を。
海座は少し悲しい顔をした。
サイファがしたような、美木を拾ったあの日の海座がしたような。
「そか・・・。・・家族は・・何処にいるのかわかるか?」
「・・・・・・」
美夜は黙ったまま海座を見つめ、そして地を指差す。
「?」
「殺されて・・・土に返りました。」
凍った気がした。
背中が、凍った気がした。
美木も海座も高羅も、なにも言えなかった。
この少女が放ったこの言葉は、この年頃の少女にはそぐわなくて。
空気が凍った。
「・・・そ・・・そか・・・。分かった。」
海座が無理に笑って見せた。
美夜も寂しく笑って見せた。
高羅はそんな海座を見て、やりきれずにいた。
「戸籍とかあっかな・・・。生まれた町の名前とかはわかんねぇか・・・?」
「・・・・・・・・・。」
わかんないのか、美夜は考え込んだ。
「あ、わかんねぇならいいんだぞっ!2ヶ月もすりゃぁ戸籍なんて洗うこたできるし、住んでた場所は南西みてぇだから、住籍がわかりゃぁ芋ずるでわかるし・・・・!」
「・・・あおい。」
「へ?」
呟く。
美夜は美木の背中で呟くように言った。
「あおいかぜ・・・・」
なんのことか分からなかった。
この時は。

「あの子誰?」
幹部の部屋にて、麗春が尋ねた。さっきのやりとりを窓から見ていたのだ。
「迷子だよ」
海座がまた書類と戦いながら言った。
美木はいない。
ミヨをとりあえず城に泊めることになり、その部屋にミヨを案内してたから。
「迷子?なんで美木がつれて帰ってくんのよ?」
「知らねぇよ。なんでか知らんが、町に行ってたんだろ。」
麗春が太刀を磨きながら息をはく。
「わるい遊びをまねちゃったものね。」
「なんのことだよ」
お前のことだ。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
麗春は黙り込んだ。
「ねぇ海座。」
「あぁ?」
「今思えば。美木には友達がいなかったわね・・・。」
海座が手を止める。
「・・・・・・・・・・・・・・・・おぉ・・・・・・」
書類に目を釘ずけたまま小さく応えた。
「・・・・・・・・・・私たちと・・・同じ鉄を踏ませてたのかも・・・しれない・・・・」
海座は筆を握り締めた。
麗春は太刀に映る自分の細い手の輪郭を、目でなぞらいながらため息をつく。
海座も、麗春にも、幼い頃には、友達なんて物は、いなかった。
というか、許されなかった。
――海座は保身のために接触できるのは幹部たちだけだった。
同い年くらいの友達なんて、一人だっていなかった。
高羅が一番歳が近かったくらいだ。
一方麗春なんてもっと狭い世界だった。
友達、なんてものは、必要じゃない物として処理されるのがあたり前だった。
王だけに仕える特別な任務をおった者と言っても、身分的には麗春はホントに地を這うようなものだったから、城にいて、友達なんて出来るわけがなかった。
ほとんどの人間が、彼女のような人間を知らなかったし。
彼らの目にかかることも許されてなかった。
同い年の人間を城で見たこともなかった。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
海座は目をつむった。
「・・・・そうかもしんねぇ・・・・。」
そして美木も、城に来るなり知能テストだのなんだの受けさせられて、大人だらけのこの部屋に座って毎日仕事を続けていた。
もうずっとだ。
「・・・あの子が、美木の友達になってくれたら・・・いいわね」
麗春が小さく、寂しく微笑んだ。
「・・・・・・・・・・・・・・・・そうだな」
海座も微笑んで、また書類に取り掛かった。
正地の残党達の個人情報を、熱心に見続けた。

どうして、いつから、素直に笑えないんだろう。


何日かたった。
時折温かい日があった。
もうすぐ春が来るんだ。
「サイファ〜〜〜!!!饅頭〜〜〜!!!」
道の上でまた叫ぶ。
ものすごく久しぶりに海座が城下に遊びに来た。
サイファは嫌そうな顔をしながら店から出てくる。
「いらっしゃい。」
心がこもってません。
「饅頭?一個!?」
「おぅ」
「60双。」
「ツケ☆」
饅頭が握りつぶされた。
そのつぶれた饅頭がそのまま海座に手渡される。
「毎度、アリガトウゴザイマス・・・・・」
キれた顔で海座を睨む、口は笑ってるのに、逆にそれが怖い。
海座は笑いながら饅頭の餡子まみれの手で、饅頭を頬張った。
「あ、海座。」
サイファが思い出したように言った。
「あ?」
「最近迷子の子が城に行ったでしょ?」
「・・・・なんで知ってんだよ」
「うっさいわね。どうなった?親、見つかったの?」
サイファが本当に心配そうに聞くので海座は眉間にしわを寄せた。
「・・・・・・・?」
「・・・・親は、死んだんだとよ・・・・・・・・・」
「・・・え・・・・?」
沈黙が流れた。
店の客の笑い声だけが、頭を支配した。
「・・・・・そ・・・・そう・・・・なんだ・・・・」
サイファがうつむいた。
「・・・おぉ・・・。今他に家族いねぇか調べてるとこだ。心配すんな・・・。」
「うん・・・・」
うつむいたまま。
「・・・・元気?」
「・・・・ミヨか?」
「うん」
サイファがうつむいたまま皿を取って拭きだした。
「元気だぜ・・・・大丈夫だ。」
笑った。
「そう・・・・よかったっ」
サイファも微笑んで、上を向き、海座を見た。
海座はその笑顔に、少し息を詰まらせる。
「と・・・っ。とにかく・・・ミヨは今『友達』と遊んだりしてるし!元気だから!」
「友達?」
海座はにっと笑った。
「あぁ。友達だ」

「王手」
「あ!」
バチっ
いつもと違うこの音とともに駒を動かす。
「ちょっと待って、美木・・・っここ!」
「待ったなしだよ、ミヨ。最初に言ったのミヨじゃん。」
遊んでた。
「それはなし〜!」
「ずるくない?」
笑う。
ミヨはころころ可愛く笑う子だった。
同年代の少女を前にしても美木はやっぱりクールだった。
ここんと二人は将棋をしている。
しょっちゅう。
「ぅわ〜〜〜・・・また負けちゃった・・・っ」
ミヨが大きく手を伸ばし、悔しそうにいった。
「ミヨは勝負に出んのが速いんだよ。もっと慎重にやったらいいと思うよ。」
「む〜〜〜!勝ち誇っていわれると、絶対やめとこって思えるから不思議だわ!」
「ははっ・・・負けず嫌いなんじゃない?」
ミヨは笑った。
楽しかった。
同い年くらいの友達と遊ぶのって楽しい。
「よぉ美木ぃ〜、陛下が呼んでるぜぇ〜」
ガッチャ・・
音と共に高羅が入ってきた。美木はハイハイと言って立ち上がる。
「じゃあね。」
美木がミヨにむかって言い、そしてバタンと戸を閉め、出ていった。

穏やかな気持ちがした。
春がもうすぐ来るから。
ふきのとうが、目を覚ましてるから。
「多いですね、今年の免税申請。」
美木が書類を片手に、呟いた。
「あぁ。去年の秋の段階で不作が多いのは聞いていたけど・・・」
王が美木と向かい合いながら腕をくむ。
「・・・・洗いました?」
「え?」
「この申請の記録があってるか、洗いましたか?」
「・・・・・・。いや・・・」
王はすこし詰まったように言った。
「記録が間違ってたら事ですから、早めに洗うようにしなきゃいけませんね。予算ももうそろそろ組みたいし・・・。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
王が黙ったまま美木を見た。
美木は気がつかず進める。
「今年から軍事予算を増やしてみようと思うんですけど、こんだけ申請が出てたらちょっと考え物ですね。どうしますか、今年の税・・・」
顔を上げたら、目があった。
「・・・・どうかしました?」
その少し驚きもあったような目に、美木は尋ねた。
「・・・いや・・・。民の申請の・・話しなんだが・・・。これは、確かめなければならない物なのかな?」
「・・・へ?」
なにを聞きだしたのかと思った。
「民を信頼していないみたいで・・なんだか気がひけるのだが・・」
美木は、ふっと笑ったようにため息をついた。
「文王様のご意見はもっともです。けれど、疑うことも信頼を築く大切な手段だって事もあります。」
「だが・・・」
「大丈夫ですよ。民にはばれないように間者を使いますから民に嫌な思いをさせるようなことはしません。軍師に俺から頼んでみますし。」
「・・・・・そうか・・・。」
王は少し残念そうな顔をしたが微笑んでみせた。
「つづき、いいですか?」
美木が尋ねる。
文王はうなずいて筆を取った。
「今年の税は、平年どおりにしようと考えている。今年はこれだけ申請が出ているので何かと大変だろうし。増やす事は考えていないが、減らす事も今は考えられない。人事を動かして見るのも考えてるんだが・・・」
美木と文王の久しぶりの予算会議。
王は美木とはあまり会う機会がないので、かれこれきちんと話すのは四ヶ月ぶりだろうか。
本当に、本当に日に日に子供らしさが薄れていってる。
この少年。
自分なんかよりずっと人を疑うことを知っている。
大人なんかよりずっとずるくものを考えることができる。
それは、いいことなのだろうか。
いいことなのか。
悪いのか。
文王は考え、答えの見つからないままその問いを胸にしまった。





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