朝起きるのが、しんどくなった。
「・・・・・・たるい・・・」
美木はそう呟いて寝台を抜け出し、部屋に重い脚を引きずりながら行った。
空気はまだ冷たかったが、だいぶ温かくなってきた。
「・・・・おはよう・・・・―――」
美木が部屋に入ろうとした時だった。
「っていうかなんであんたはそんなに気のまわらない買い方すんのよ」
「しゃぁねぇだろ!これしか思いつかなかったんだよ!」
「俺だって、これしか思いつかなかったぜっ」
「っちゅ〜か!お前ら間違ってっだろ!普通!こんなモンはかわねぇ!」
「おめぇだってそうじゃねぇかよ軍師!」
「あんたに普通がどうの言われたくないわ。」
喧嘩かよ。
美木はその横を素通りしていつもどおりの席につく。
3人は気がつかずに、喧嘩を繰り広げる。
やかましい。
「どうすんだよこれ。」
「しゃぁねぇだろ!もう」
「勝負する?」
「それは嫌だ!!」
ハモッタ。
いらいらしてきた。
気づけよそろそろ。
バチッ!!!!
「!!!!!!!!」
三人が一斉に振り向いた。
やっと気付いたか。
美木はその後もバチバチそろばんを打ち鳴らしながら計算に励んだ。
三人は少し気まずそうに顔を合わせた。
「・・・・・・・・・・お、おはよう。美木。」
海座が美木の目の前に座る。
「おはよ。もうあの書類の目通し終わったの。海座。」
美木が目も合わせずに言った。
「ま・・・だだけどよぉ・・・。」
「早くしなよね。朝っぱらから喧嘩とかしてないで。」
「お・・・おぉ。」
海座がちらっと2人を見た。
高羅と麗春もしょうがないという顔をして、美木の側にあるいてきた。
囲まれた美木はすこし変な顔をしてた。
「な・・・なに・・」
また子供扱いされるのかと思った。
おそろしく優しい言葉をかけられるのかと思った。
けど。
「おら。」
バっ
っと、目の前に、突きつけられるように何かが出された。
しかも三方から。
「・・・っ!」
美木は目を丸くした。
「な・・・なに・・・っ」
「ソロバン」
三人の声が同時にはもる。
「はぁ!?」
なんでそんなもの。
「お前今日誕生日だろ。」
「誕生日の贈りもんだよ。」
海座と高羅が言った。
ソロバンが目の前にガチャガチャと置かれた。
三つも。
「かぶっちまってわりぃんだけどさ・・・っ。これ。やるから、使ってくれよ。」
「ホントに悪いわね。いらなかったら海座と高羅のは捨ててくれてかまわないから。」
麗春。
「!なんじゃそら!っあぁ!こんなことならやっぱり将棋にすりゃよかったぜ!」
海座が叫んだ。
「そうだなぁ、俺も槍はまだ早いと思ってやめといたんだが・・・そうすりゃよかったか・・」
高羅。それは、待て。
「私も始めは金華の小太刀にしようと思ってたんだけど・・・そっちのほうがよかったかしら。」
それも待て。
「まっなんにせよ!ソロバンだ。おめぇ使うだろ。それももうボロボロじゃねぇか・・・よかったら使ってくれよなっ」
海座がまとめた。
美木は、目の前に積まれたそろばんの山をじっと見つめた。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・」

―――何か贈りたいな。だって友達だもん。・・・そろばんとか?

彼女の言葉がつらつらと頭の中を漂った。
「・・・・・・・・・・・」
ああ。
「・・・・・・・・・・・・・み、美木?お・・怒ったか?」
海座が何も言わない美木をのぞきこむようにして心配そうに尋ねた。
ボタ。
「・・・・・。み・・・」
ボト・・・ボタタ・・・
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
三人は黙った。
机上に確実に落っこちていく、美木の涙。
最近涙がボトボト落ちる。
ああ。
やってしまった。
この三人の前では泣きたくなかった。
子供をあやすみたいに慰められたらどうしよう。
怖い。
と思った時だった。
ボス。
「!」
ボス。ボス
「!っ!」
三発、頭に柔らかいてのひらが入った。
「なっ・・・」
美木がうつむいた顔を上げた。
「そんなに嬉しかったかぁ?」
海座が目の前に座ってにっと笑ってた。
「やっぱ量だよな。」
高羅がははっと笑った。
麗春もその横で「質よ。」と突っ込んでいた。
その笑顔。
「照れッだろ。笑えよ。」
海座が笑って言った。
高羅も麗春も笑ってた。
その笑顔で、美木は、頭の中に光が差し込んだ気がした。
「・・・・っ・・・うんっ」
そしてぐいっと涙をぬぐって、大きく笑った。
彼らの前で素直に笑ったのは、久しぶりだった。

その日月は昇らなかったけれど、その日の空はおそろしく澄んでいて、真文国は、今日も、晴れ。
明日も、きっと、また晴れるんだ。
なにが終わっても。なにが始まっても。
そう思って、目を閉じた。


王様にならねぇか8 終わり




→あとがき(王様にならねぇか8挿絵)


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