ザリ・・・・
高羅が脚を土にこすった。
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
夕方が来た。
寒い。
高羅は、井戸の前に立ちすくんでいた。
そして、しおれたような紅い花を、ふわりと投げ入れた。
「・・・・・・・・・・・・・・由姫」
護りたいものって、なんだろうか。
「・・・おめぇの護りたかったものは・・・・おめぇの命と引き換えに、護れたのか・・・・・?」
泣きそうになった。
脚の向きを変えて城跡に向かった。
ゆっくり歩く。
たった二年間の、妻だった。
早すぎた。
どうしてなのか。判らない。
正地の乱で死んでしまった。と言ったら、ありがちな話なのだけれど。
高羅にとっては、正地の乱って、やっぱり、重いモンだった。
憎しみが湧くような。
「・・・憎しみで・・闘ったことなんざ・・・ねぇよ」
戦いに私情は挟まない努力はしていた。
ただ、こういう日には、由姫を思い出している日には、やっぱり憎しみが湧いた。
高羅はため息をついた。
城に着いた。見事だった。
何もない。
瓦礫。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・此処だったかな・・・」
池。
池があったところに高羅は立った。
そして泣きそうな顔で笑った。
「・・・・。・・・・・?」
急に空気が変った気がした。
急に暗転した気がした。
「・・・・・・・」
高羅が息を止めて静かに目だけを動かし、周りを見る。
「・・・・・・誰だ?」
呟く。
ザッ!!!
「お前・・・!!!何者だ!!!!」
突然声が叫んだ。
気がつけば、高羅の後ろを取り囲むように、立っている。
正地の、印をつけた男たち。
高羅は振り向いた。
ざっと300人はいるか。
「おめぇらこそなにもんだよ」
判ってた。
でも訊いた。
そしたら一人が馬に乗って前に出てきた。
「此処はお前みたいな一般人が来るところじゃないんだぞ。愚民が。」
嫌な顔つきだ。なんだこいつ。
げらげら笑った。
「それは悪かったなぁ。じゃ、帰らしてもらうわ」
高羅もにっと笑って歩き出した。瞬間。
ジャカ・・・!
目の前に突きつけられたのは槍だった。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。これはまた物騒なもん出すじゃねぇか。」
「此処に来て逃げれると思ってんのか?俺らは正地軍だぜ!!!!」
叫んだ。
うるさいな。
高羅は怪訝な顔で見た。
なんだこいつ。
「・・・此処に巣食ってんのか?」
「あぁ!?」
高羅のまったく落ち着いた表情と声に、うるさい男はいらいらし始めた。
「へぇ・・・。なかなか広いとこにお住まいで。何坪だよ?この家は?」
さらに高羅は笑った。
「なにがおかしいんだこの莫迦野郎。」
「おかしいさ」
笑いをこらえながら高羅が言った。
「残党如きが城に住める時代が来たんだからな」
ブチッ・・・!

「てめぇえええええぇぇぇぇぇえ!!!」
男は叫んで槍を振り上げた。
ドス!!!!!
瞬間だ。
高羅が目にも止まらぬ速さで槍を抜き、男の心臓を撃ち指した。
男は血を吐きながら馬からずり落ちる。
周りの男たちも、何が起こったのか分からないような顔つきでその瞬間を見た。
ドサ。
血をはねた。
地を跳ねた。
「なっ!!!!」
なんだこいつ。
この言葉は正地のやつらの台詞になった。
高羅は槍に着いた血をブンっと槍を振ることで払った。
そして、言葉を吐いた。
「気分じゃねぇんだがな。今日はちょっと、手加減が出来そうにねぇんだ。死にたいやつだけ、かかってきやがれ!!!!!」
すると周りの男達がバラバラと剣や槍を抜き、奔りかかってきた。
高羅はするっとさっきのうるさい男の乗っていた馬に飛び乗り、瓦礫をかき分け、すりぬけるように走り出した。
足場がいい所に逃げた。
少し走ると高羅は馬を止め向き直った。
そして槍を構えて、まっすぐと向かってくるやつらを見据えた。

憎しみしか、湧いてこない。

「っらぁぁぁああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああぁあぁぁぁああ!!!!」
走り出した。
切り倒した。
止め処ない血が、服に飛び散った。
ブンブン槍を振り回して、側にいるやつらを片っ端からぶっ潰した。
一体何人の戦いなのか分からない。
ただ、誰も高羅に近づけなかった。
近づいた瞬間に吹っ飛ばされた。
「うおおぉぉぉぉぉっぉぉおおおおおおおおおおおおお!!!」
叫びながら正地軍も果敢に走りこんできた。
だけど歩兵達は走りこんできた所を馬の上から高羅にザクザク切られた。
殺されてぇのか。
そう言われても、高羅がなにを言っても、飛び込んでくるんだから。
高羅も向かってきた人間は切り続けた。
手が、痛い。
人を討つのって。
痛い。
ドス!!ドカ!!!
鈍い音と共に必ず聞こえる悲鳴の大きさ。
高羅は聞こえなかった。
聞いていたけれど。
聞こえなかった。
次々に殺していく。
その一回一回に、由姫の顔が浮かばれた。

責めないで。

そう言った彼女。
でも高羅はやっぱり自分を責めたんだ。
そして正地を、責めたんだ。
その一撃一撃に、込められた憎しみは、膨大な物だった。
重すぎて、腕が痛い。
返り血が手を染めて、槍を持つ手が滑りそうだ。
歩兵達は、しりごんだ。
強すぎる。この男。
「どうしたよ!!!!かかって来い!!!」
高羅が微かにぜいぜい言いながら、でも笑いながら、言い放った。
すると一人の男が汗を流しながら思いついたようにいった。
「おっ・・・!お前!!!」
「あぁ!!!?!!」
「お前まさか!!!・・・・・高羅!!!!!????
高羅はその男を睨みつける。
「だったらなんだよ」
「やっぱり!!!最強の総隊長!!!真文国軍・総隊長の高羅だ!!!」
叫んだ。
周りもざわつく。
「ああ。だったら。なんだよ。って、きいてんだろ。」
ドスの聞いた声。
いつもの優しい高羅ではなかった。
「だったら、怖くてもうかかってこれねぇってか?弱い者からしか奪えねぇのかよ。この腰抜け野郎ども!!!」
今度は高羅が駆け出した。
槍を片手に突き向かう。
歩兵達は怯えた。
そして切り殺されまいと逃げ惑った。
だけど、次々と殺されていった。
ドッ・・・・!
一瞬。
高羅の腕が熱くなった。
「・・・!!!?」
矢が刺さっていた。
高羅は舌打ちをし、その矢を思いっきり引っこ抜いた。
腕ぐらい大したことはない。
ビュンビュン矢が飛んできたので、高羅は仕方なく馬を飛び下りた。
標的になってても仕方ないから。
地に降り立っても高羅は休む事なくその槍を振り回した。
もう、何人殺したのか分からない。
切り傷が身体につき始めた。
それでも高羅は闘った。
討ち続けた。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」
憎しみって。いうのかは、分からない。
ただ。
本当に何も見えないくらい、殺した。
息が上がる。
これでも32だし。
まったく。
なんだってんだ。
一体。
なんだってんだよ。
血が熱かった。
飛んでくる血も、吹き出す血も、同じくらい熱かった。
「っのやろぉぉぉぉぉぉ!!!」
槍を土に突き刺し、高羅はその槍を軸として、周りのやつらを蹴りながら宙に浮き一回転した。
そしてすぐに槍を抜き、周りにいる体勢を崩したやつらを、槍を振り回し、吹き飛ばした。
馬に乗ってるやつらは矢を構えているが、高羅があまりにも暴れるので、思うように定まらない。
時折見せる高羅の目が、恐ろしくて、身震いをした。

敵というのなら、護るために討とう。



「もしかしたらね。」
いっぱいの笑顔で彼女が言った。
「なにがだ?」
彼女が微笑んだ。そして手を取った。
「次の総隊長様に、会えるかもしれないのよ」


会いたかったさ。
出来るのならば、今だって会いたい。
血が手を伝う。
息が切れる。
声が枯れる。
死んでいくみたいに。

―――――ここは、何処だ。
 



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