「急げ!馬を出せ!白軍は支度でき次第俺らの後を追え!それから紫軍!おめぇらも支度できたら北西から向かってくれ!のろしを上げる!支持を待て!」
海座が早歩きで馬舎まで向かいながら叫んだ。
「高羅はいねぇ!白軍は・・、猛叉!おめぇ先頭切って来い!行くぞ麗!!!」
海座と麗春は馬を思いっきり駆け出した。
城全体がざわめいた。文王はその様子を窓から見ていた。
「・・・・・・・・・・・・・・軍師・・・・!」
文王は部屋を飛び出した。
そして幹部の部屋に走った。
「誰か!」
文王がバーンッと飛び込んできた。
だから美木は驚いて筆を落とした。
「ぶっ・・・・・・文王様・・・!!?!」
美木が大きな目をさらに丸く大きくした。
「何かあったんですか!?」
敬語。
美木は少し止まった。が、気にせず筆を手にとった。
「・・・・・・正地ですよ」
「・・・え・?」
「・・・・・・・・・・・・正地の、ノコリ・・・・・・。」
まだ、懲りないのか。あの莫迦は。



正地の乱。

正地の乱が、起こった。
走った。
離れ離れになった。
うん。
それでも、ちゃんと帰ってきた。
それから、正地をたたんだ。
それから。
それから、彼女を、探したんだ。

「――――――え・・・?」
「申し訳ありませんでした・・・・っ」
ぼろぼろの格好をした女官が土下座をしていた。
高羅は、さっき聞いた言葉が理解出来なくて、ぐらぐら立っていた。
「・・・・・・・・・なん・・・・て・・・?」
女官は顔を上げない。
 

彼女が死んだ。

もう追っ手がそこまで迫っていた。
町の全てが、奪われ始めた。
由姫は3人の女官に手を引かれて人々が混乱する町の中を走っていた。
正地の馬が同じ町の地面を鳴らす。
由姫は3人を連れてとにかくひとつのぼろやに隠れた。
窓の外で悲鳴がたくさんあがった。
震える女官達の肩が、由姫の髪も震わした。
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
大きな音がする。
火がまわり始めたのか、熱くなってきた気がした。
「・・・・・・・ここがばれるのも・・・時間の問題ですね」
由姫が窓から外を見ながら真のある声で言った。
「・・・・・・・・・・・・・・・」
外を見る。
人が死ぬ。
奪われる。
命も、何もかも。
「・・・・・・・・・高羅・・・・・」
呟いた。
「え?」
「・・・・いいえ」
由姫が首を振ってしゃがんだ。
女官達の肩に手を置きながら。
「・・・いいですか」
しっかり見た。
その目。
「この家の裏手からできるだけ分散して逃げるのです。」
「えっ・・・っ!?」
「約束して。」
その目。
映る。
「後ろは振り向かない。声を上げたりしない。」
「・・・・・・・・・・」
「それから、決して、命を、諦めないこと」
映る。
世界。
厳しい目をしていた。
でも、すぐに微笑んだ。
「いいですね」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・はいっ」
口をバラバラにして女官が大きく頷いた。
「よかった。では、合図があれば、お行きなさい・・・・!」
「・・・・・えっ!?」
女官たちは立ち上がりかけながら声を上げた。
「御方様はっ・・・・・」
由姫はふわっと笑った。
「私の脚は、もう動きません」
脚から血がだらだら出ていた。
女官たちは息を呑む。
気がつかなかった。
彼女のその何事もなかった態度で。
「すぐに追いつかれるでしょう。一緒に逃げていてもあなた達を巻き込むだけです。」
「で・・・・っ残られても・・・・・・っ!!そんな!」
「私はここで・・・・・・・・・」
高羅。
心で呟いた。
「高羅に、伝えてもらえますか・・・」
由姫は微笑み続けた。
でも、涙を流しながら、ことづけを言った。
「解って。」
由姫の手を握り締めて放さない女官たちに笑って言った。
「できることなら。操をたてて、死にたいわ。」
女官達もぼたぼた涙を落とした。
「・・・・。頼みましたよ・・・。あなたたちは、なにがあっても生き残って、ちゃんと、伝えてね・・・」
由姫も涙を流す。
「お願いね・・・・・・・・」
女官たちは、涙を流し、走り出した。
瞬間だった。
井戸に、身を投げたのは。

「嘘だろ・・・・・・」
女官は顔を上げない。
「嘘だって・・・・」
涙が、出そうになったところをぐっと抑えた。
「言っ・・・てくれ」
うなだれた。
目を閉じたら、彼女の笑顔も、彼女の声も、鮮明すぎるほどよみがえるのに。
今でも肩に寄り添って、笑っていてくれて居る気がするのに。
「御方様は、申し上げておりました・・・・・・」
女官の声も震えに震えていた。

「最善の形ではないけれど、それでも私にも守りたい物があるの・・・・。守るために、私が討てるのは、私自身だけだから。どうか、責めないで。」
責めないでね。
「『護れなかった』などと、自身を、責めたりしないで・・・ください。」
もし護れるのなら。
「痛くても、護る。って。」
言ったのは、高羅だった。
「思える物が、出来てよかった。」
微笑んだ。
その瞬間、涙がこぼれた。
「これからも、戦ってね。闘ってください、高羅。憎しみじゃなくて。誰かの、同じ、痛みも、拭えるように。あなたのその痛みも、拭ってくれる人のために。」
闘って。
「どうか、あなたの痛みを拭ってくれる人に、あなたが出会えますように。」
そしてあなたも、誰かの痛みを、理解して、拭ってあげれますように。

ああ。

高羅は声が出そうになった。
嗚咽がこぼれそうになった。
涙がこぼれかけては、我慢した。
女官はボロボロ泣いていたのに。
高羅はその場に立ちすくみ、何も考えたくなくなっていた。
月が昇った。
そしたら、嘘みたいに涙がこぼれた。
止まらない。
止められない。
出来かけの城の影に、月が光っていたけれど、高羅はその形をしっかりと捉えることさえ出来なかった。
涙がこぼれすぎて、月が大きな円を描いた光に見えた。
月から放たれる輪が、高羅の涙をもっと流させた。

ああ。

声が出た。
嗚咽がこぼれた。
いなくなってしまったものは、帰ってこないのに。
その笑顔が、目の前に浮かぶように思い出されるなんて、反則だと思った。
大切な人が死ぬのは、苦しい。
そう言った彼女。
ああ。そうだな。
右手で目をこすった。
だけど、涙は止まらない。
明日が来ないのって、本当に、どんな感じなのだろうか。
 



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