バサ!!!
「うおぉぉぉ!!?」
突然海座の白い頭に黒い何かが飛びついた。
その勢いで海座は前につんのめった。
その拍子に墨がこぼれた。
「うわっ・・・」
美木が嫌そうな顔をして墨をよける。
「・・・んだよ一体っ!!!!」
海座が身体を起し頭に乗るものに触れる。
するとそれはまたバサッという音と共に海座の目の前に舞い降りた。
「・・・鳥っ?」
もうすぐ夕刻なのによく飛ばしてきたな。
「ギバだ・・・」
ギバからの書簡。
見つけられなかったから、飛ばしたんだろう。
海座が脚にくくられた紙切れをとって、鳥に餌を与える。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・なんて?」
美木が墨を拭きながら尋ねた。
「・・・・・・・・・・・麗。」
麗春が腕を止めた。
美木は麗春のほうを見た。
「出るぞ。」
「・・・はいっ・・・」
麗春は太刀を背に収め、腰を持ち上げた。
海座は駆け出す。最近いつもこんなんだ。
「ちょっ・・・また!?次はなに!?」
美木が走り去ろうとする二人の男女を見つめながら少し叫んだ。
「正地だ!!」
「・・・・・っ!」
美木が反応した。
「正地の残りが前都に集まってきてるらしい!!すげぇ数だって・・・!!」
「!」
麗春が脚を止めた。
「麗っ?どした!いくぞ!兵も・・・・―――」
「前都・・・・・・・・?」
呟くように言った。
「なっ・・!?なんだ!?そこに何か・・・・!」
「・・・・・麗春・・・?」
麗春が自分の手を握った。
「・・・・そこには・・・・。」
「・・・・・・・・――――?」
「そこには・・・高羅が・・―――――」



―――だから、討つんだ。
この言葉は、その少し後に出会う少女にもう一度言う言葉だった。

「おめでとうっ!」
「おめでとう!」
「おめでとうお二人とも!」
拍手が身体を包んだ。左手で細い手を包んだ。
ちっちゃな婚礼だった。
射王様もしっかりと手を叩いてくれていた。
その日には、もう親父はいなかった。
母親が父の形見を片手に涙を流していた。
周りに花が飛んでた。
声が飛んでた。
側に居るのは由姫だった。
「・・・・・・・・・」
しばらく見つめながら歩いていたら、振り向いてふわっと笑った。
俺も、きっと、一番の笑顔で笑ってた。
この日から、彼女が『妻』になった。
この日から、俺が『軍総隊長』になった。
拍手が身体を包んだ。
多分、あんなに心地よい気持ちでいられたのって、他にない。
あの日初めて、幸せで泣いた。

あの日、彼女は、やっぱり側に居た。

「おらぁぁ!!」
「甘いっ」
ガキン・・・!!
はじきあう、棒。
槍の先がない、棒。
「うっせえ!」
「ハイッ」
バシ!ドサ!
「いってぇぇぇ・・・・・・・・・・・」
冬鬼がしりもちをつき、草の上に転がった。
「あははは・・・・。平気ですか?」
手を伸ばすのは高羅。
冬鬼がどうしてもって言うから、武術の訓練をしていた。
冬鬼はその手を取らずに一人で起き上がり、服やら髪やらについた草を払った。
「くっそ〜・・・!手加減されてんのに負けんだもんなぁ・・」
「はは・・・そのうち冬鬼様も力がついてきますよ。それに武術はご必要ってわけじゃないし・・・」
八歳の冬鬼は膨れ上がった。
「俺っ兵法書が一番楽しいんだよなぁ。じぃちゃんもそう言ってたぜ」
「おじい様は王を退かれてから軍師になられたんですよ?冬鬼様も王になられるんですから、その時にお学びになられたらいいのに。」
いつも兵法書を詠むこの子どもに、もっと『王の子ども』という坊っちゃんらしい遊びや興味をして欲しいと思った。
例えば詩とか。
「うっせぇなぁ。いいよな。高羅は強くて。」
「はは・・・」
「そうだ高羅。けっこんってなんだ?」
冬鬼が目をきらきらさせて言った。
「けっこんしたっていってただろ?それ、なんだ?」
「・・・・・・・・・って・・・冬鬼様・・・・知らないんですか?」
「あ?だって聞いた事もねぇぜ?」
高羅は噴出すのをこらえた。
毎日毎日飽きずに兵法書ばかり読んでるこの子は結婚という常識にも目をくれないんだ。
本当に兵の動かし方にしか興味ない。
「あのですね・・・」
「おう!」
冬鬼が興味津々過ぎる目をむけるので、がっかりされることが目に見えていた高羅は詰まった。
「・・・・・・・・・・。冬鬼様のお父上とお母上のようになるってことですよ・・・」
ちょっとだけごまかした。
一応結婚したてですから。
照れますから。
「・・・・・は?」
分かってないみたい。
「そう言うことですっ」
高羅がもう何も言わずににかっと笑った。
海座持つられてにかっと笑った。
高羅は海座を、ひどく年の離れた弟のように可愛がり世話を焼いた。
冬鬼もまた高羅のことを仲のいい兄貴か、友達のように思っていた。
冬鬼は、他のものには見られてはいけなかった。
だから、遊び相手で一番歳が近いのが高羅だった。
2人は時々一緒に馬に乗る訓練もした。
一緒にいる時間も多かった。
冬鬼は時々高羅の後を追いかけていった。
高羅の冬鬼意外の人と話すときの喋り方をよく見ていた。
だから、高羅も冬鬼も同じ口調で、そしてそのにかっという笑顔も、また、そっくりなのだった。
「高羅も父上のようになったのか?」
「はい」
「へ〜・・・!」
感心していた。
高羅は微笑んだ。
きっともう今ではこのような会話も、海座は覚えていまい。
いちばん穏やかな毎日だった。

でも。そういうのが崩れるのは、本当に、突然なんだ。



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