「風。寒いね。」
「おぉ」
美木が、海座が、だるそうに机に向かう。
隙間風に文句をつけながら。
「もうすぐ夕陽がさすか。」
「そうじゃない?」
麗春がそんな意味のない会話をする彼らを見ながら太刀を磨く。
「・・・何してんの海座。」
海座がいつもと違う紙を開き、筆を握らずいくつもの駒を動かしているので美木が不思議そうに聞いた。
「・・・兵の動かし方、研究してる。」
「はぁ?そんなの今までしてた?」
「してねぇ」
だって海座の頭には全ての兵法がつまってる。
それを応用しているだけだ。
というか、最近はそんなに頭を使って戦をすることもないし。
正地が一番頭を使った。
「高羅が訓練の時に使ってんだよ。」
「へぇ・・・。・・・高羅は・・・今何してんのかな」
「・・・・・・・・・・・・・・・知らねぇよ」
海座が駒をはじく。
色の違った駒がそれによってはじかれる。
「・・・・・・・・・・・高羅は・・・俺なんかより、ずっと大人なんだから。」
海座はつぶやくように言った。
美木と麗春はそれを黙って聞き、そして自分の手を動かした。
同刻、ギバがものすごい速さで脚を回転させていたのだけれど。


「――――それでな!やっと俺も明日から第一旗隊兵隊長になったんだよ!」
「それは、よかったわね」
高羅と由姫。池の前に座って話す。
彼らの姿。
水面に映った。
「オヤジもなっ最近は稽古で手加減しなくなったんだ。絶対近いうちに打ち負かしてやるぜ!」
笑う。高羅の無邪気の顔を見ながら由姫もふわりと笑う。
「でも」
その細い指が高羅の頬を触った。
「傷。増えるばかりでしょう?」
「・・・ぅ、お、おぅ・・・」
高羅はちょっと照れてどもった。
由姫は笑った。
高羅がすねるように頬を膨らます。
「ねぇ高羅。」
「・・・?」
由姫が高羅の横に座りなおす。
「人を殺すのは、辛い?」
高羅が驚いたような顔をして由姫を見る。
由姫は高羅を見ずに、水面を見つめる。
目がきらきらしてた。
でも、やっぱり悲しそうだった。
「・・・・・・・・・・・・・」
「・・・人を討つのは、痛い?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
高羅がその目を見て、悲しい顔をした。
そんなこと初めは、考えたことなかった。
ただ、ただ親のようになりたかった。
誰かのために、国のために戦いたかった。
でも。
「・・・いてぇな」
高羅は呟いた。
「・・・」
風が吹いた。
水が揺れた。
「・・・明日が来ないのって、どんな感じなのかしら・・・」
「へ?」
突然話が変った気がした。
高羅はまた由姫の顔を見る。
でも、やっぱりあるのは横顔。
「・・・明日が来ないのって・・・考えられないの・・・」
由姫が目を閉じた。
「・・・」
「今こうして、高羅がいて。」
やっと振り向いた。
高羅の袖をつまむ。
「私が、座っててね」
「・・・・おぅ」
「嬉しかったり、楽しかったり。それから、悲しかったり。たくさんいろんなことあるでしょう?」
「・・・・おぅ」
由姫がまた水面を見る。
「でも、どんな一日の後にも、夜があって、朝が来て。ずっとそれは変わらないものじゃない。」
「・・・・・・」
「もし・・・明日が来なかったら。・・・どんな感じなのかしら・・・・って」
由姫が脚を抱いた。
「・・・・・ね。変なこと訊いてごめんなさい・・・」
笑って振り向いた。
「・・・」
高羅はその顔に確かに弱さを見た。
由姫は強い。
いつも、笑顔でいてくれる。
いつも、優しさを忘れない。
でも、その日の彼女は、傾いたみたいな。
欠けたみたいな、そんな顔をした。
「・・・・怖いんじゃねぇかな」
高羅が何も考えずに口を開けた。
「・・・え?」
「俺は、こえぇよ・・・やっぱり・・・こえぇ」
今度は高羅が水面を見た。
そこに映る彼女の横顔を見た。
「自分の明日が来ないのも・・・」
それから。
「大切な人の明日がこねぇのも。」
「・・・・・・・・」
自分が死ぬことも、誰かが死ぬことも、やっぱり、辛い。
「・・・・・・・・。・・・・・そうね」
微笑んだ。
「・・・大切な人が死ぬのは、嫌ね・・・」
その横顔が、自分の袖にうずまったのを、水面から見た。
振り向くと高羅の袖に彼女の小さな頭が押し付けられてた。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・え・・?」
「・・・・・・・・・・・・・・」
応えなかった。
つまむ手が、強くなった。
後から知った話だったが、彼女の産みの母が、亡くなったのだった。
ほとんど会えなかった彼女の母が、盗賊に殺されたのだと、聞いた。
「・・・・・・・・・だから・・・。討つんだ。」
高羅が呟くように言った。
由姫はしっかり聞いていた。
「だから、俺は誰かを討つんだ。」
「・・・・・・・・」
顔を上げた。
「だから、俺は、敵というものを、討つんだ」
「・・・・・・・・・」
大切な人が、奪われるのなら。
「・・・痛くても?」
高羅の目を見る。
高羅も、由姫の目を見た。
「痛くても」
芯のある声。
「たとえ自分が痛くても。守らなきゃなんねぇ、真実守りたい人間がいる限り・・・―――」
「・・・・・・」
「俺は戦うぜ?」
笑った。
「・・・・・・そうね・・・。」
笑った。
「戦うこと事態は結構・・・つか・・・かなり好きだしなっ!」
「・・・・・・ふふ・・・」
由姫は頭をしっかりと上げた。
その目には、涙が、少しだけたまってた。
「あなたらしいわね。」
「おう!俺意外に俺らしいやつなんていねぇよ」
由姫は声を上げて笑った。
高羅は、声を上げて笑った。
風が、また、水面を揺らす。
水面に映る。
彼らの姿も、つっと揺れた。

ちゃんと、寄り添っていた。
あの日。
ちゃんと一緒にいた。
守りたい人間が、側にいた。



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