「ゆっくりでいいからな!!ひとりずつ。できるだけ丁寧に運べよ!!」
海座がでかい声を出し指示をする。
敵とは言え、ちゃんと弔いをする。それもこの国のいいところだと、兵たちは言った。
「海座!」
後ろから声。
「あぁ?」
ふりむく
「っ!!て!!凛!!!!」
驚いて叫んだ。
周りが見た。
後ろにいたのは馬をつれた凛だった。
にっこり笑っている。
海座は口をパクパクさせながら指を指した。
凛はふふっと笑った。
「な!なんで此処に!」
「話があるって言ったじゃない。いないから、人に聞いてきたの」
笑って言う。
此処が何処だか分かってんのかこの女。
「ここはあぶねぇよ!とにかく帰れ!!こんなところに・・・!!」
死体だらけの、このひどいところ。
女の子が来ていいはずがない。
凛がちらりと周りのひどい状況を見る。
海座はあまりに膨大すぎるこの景色を隠すすべも持たずに、うろたえた。
自分だったら絶対こんなところにサイファを連れてきたくない。下手すりゃ泣くぞ。
「・・・・・・・・。傷が、全部同じエモノね」
ぽつり。
「え・・・?」
「だれか一人が戦ったの?」
鋭い。
海座は口を開いた。でも言葉が上手く出ない。
「・・・・っ・・・・!それはいい・・・!とにかく離れてろ!まだ生きてる奴がいっかもし・・・―――」
「軍師殿!!!!!!!」
誰かが叫んだ。
ばっと振り向いた。
そこに見えたのは、血まみれの正地の男。
大きなつるぎを片手にこちらに奔りかかってきている。
「・・・・!!り・・・」
凛をかばおうと手を伸ばした。
瞬間だった。
「ふ・・・」
鼻で笑う声と共に。横をすり抜けた影があった。
「り!!!」
凛だ。
バシ!!
「な!!」
ビュオン・・・・っ!
「!?」
どさぁぁぁ!!!
―――――――沈黙。
何が起こったのか分からなかった。
海座の目に映った限りは、凛が男に奔っていき、ものすごい速さで彼の手を弾くようにつかみ取りツルギを落とさせた。
そしてそのまま男の懐に滑り込むと、くるりと体勢を変え、放り投げるように男を宙に浮かせ、円を描き、そのまま地面に叩きつけて脚で男の胸を踏みつけたのだ。
まわりはその恐ろしく手馴れた体術にあっけにとられた。
沈黙が流れた。
「ふ〜・・・・・・・」
凛は半分屈むような格好からゆっくりと起き上がり、気絶した男の顔をちらりと見て汗をぬぐった。
そして周りの固まったような顔色を見て、噴き出した。
「・・・なに?どうしたの?」
あっけらかん。
「り・・・凛、おま・・・っ?」
「なによ?のしただけじゃない。」
いやただ者じゃなかったんだよ。動きが!
「ほらほら、皆さんも見てないで!手を動かしてっ!」
ニコニコ笑ってまわりに呼びかけた。
するとまわりも、ばらばらと働きはじめる。
ひとりの兵が凛の足元で伸びてる男を拾いにきた。
凛が海座のほうにゆっくり歩いてくる。
海座はうろたえたまま、凛を見つめた。
「・・・・・・・・・・・」
凛が上目使いで海座を見つめた。
そしてふっと笑って言った。
「私の言いたかったことはね。」
海座は少し身構えて聞く。
「私、働きたいの。間者として。城で――――」


ボチャン・・・
もうすっかり夜になった。
井戸の前に二人が並び、中をのぞく。
「・・・・・・・・よかったの?」
麗春。
「・・・・・おぉ」
高羅。
「・・・・・・俺は、持ってても、使えねぇから」
「・・・・・・そういうもんかしら」
揺らいでいる。波紋。
沈んでいく、弦と爪。
「あいつのモンだ。あいつに返すのが一番いいだろ。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
井戸の中に、投げ入れてしまった。
骨も、きっともうない。
この井戸の中。
誰かが一度捜しに来たけれど、もう、見つからなかった彼女。
その彼女が死んだ、水の中。
「麗春。」
「なに?」
呼んだ。のに、高羅は少し黙った。


―――最初見たとき、ちょっと分からなかった。
「麗春です。はじめまして。高羅」
赤い頭が、腰を折る。頭を下げる。俺の前に。
「一応、暗躍者だ。これから幹部の部屋も使ってもらうから。あ、ちなみに部屋はおめぇの隣だし。仲良くやれよっ!あ。それから敬語は俺ら、なしだからな。」
海座が説明する。そして海座が俺をつついた。
「おめぇもほうけてないでなんか言えよ。」
「あ、あぁ。真文国軍・総隊長の高羅だ。よろしくな。麗春。」
麗春は小さくお辞儀をした。
一瞬何か言いかけたような目をしたが、彼女は何も言わなかった。
そうか、暗躍者か。


「おっきくなったな。」
笑った。
「はぁ!?」
麗春が、意味分からない、というような顔をして高羅の見た。
すると高羅はいつものように、にかっと笑って見せた。
「・・・・・」
だから麗春は何も言わなかった。
何も言わず。
ただ笑った。
「ありがとう」
彼女に言った自分の言葉を、今度は彼女に言ってもらったから。
もう一度、新しいスタートラインに立てた気がした。
「いいわよ。礼なんか。」
麗春はそう言った。
そして小さく俯いた。
「帰ろうぜ」
月が見えた。
「ええ」
歩き出した。
月が見えた。


残るのは、傷。
だけど、その傷も。薄く、薄くなっていってく。
消えることはない。
だけど、薄くなっていくんだ。


「えっ!凛さんがっ・・・!?」
文王が海座が持ってきた書類に目を通しながらいった。
「あぁ」
ちょっと不機嫌そうに言った。
「い・・・いいんですかね?」
「きかねぇんだよ。」
凛の猛烈なせがみに海座は折れたわけだ。
「へぇ・・・・・」
文王は机の上の紙をじっと見た。
「・・・倭名国でも・・・・諜報部員だった・・・・って。これ」
「あぁ。全部話してくれたよ。まぁ、普通ならこの書類審査で落とすとこなんだが・・・。なかなか・・・・有能でなぁ・・・」
「有能?」
「体術とか、隠密に必要な物、ほぼ二重丸。」
「へぇ・・・意外ですね」
「驚きすぎて目を疑ったぜ。」
「はは・・・」
海座が椅子に座り、窓を見た。
「・・・一応。採用。しても・・・いいんじゃないですか?」
文王が言った。海座は少し考えた。
「僕が見る限り、凛さんに後ろめたいことは、何もなさそうですし・・・。偉多さんも分かってて彼女を家に住まわせていたわけですし。」
「あぁ。」
頷く。
「そう言ってもらえて良かったよ。俺も、遣いたいと思ってた。」
笑う。文王もふっと笑った。
「じゃ。ちょっと説明にでもいってくっかな。」
「あ、はい!」
海座は部屋を出た。
「・・・・・高羅は・・・・今日は、つかまっかな・・・」
独り言。
歩き出す。


―――あの夜。手を繋いだ。あの夜。一緒に歩いた。
彼女はもういないけれど。
「ねぇ高羅。」
「あぁ?」
井戸から一歩離れた麗春が小さく言った。
「あの、城に。」
壊れた城を見る。
「池があったの、覚えてる?」
「・・・・・・・・」
高羅は見つめた。
そこで、よく彼女と会っていたのを思い出した。
「・・・・・あぁ」
「っそ」
麗春は、何も言わなかった。それ以上。
ただ、月を見上げた。
兵達がまだ少し働いていた。
声が聞こえてた。
「・・・・・いい天気ね」
「はぁ?」
夜にいい天気という言葉はなんとなくふさわしくない気がして、高羅は振り向いた。
「星が良く見える。」
あの日も、確か、凄く綺麗な空だった。
月が。
星が。
「・・・・・・・・・・・・」
高羅が空を見上げた。
そして小さく息を吐き、昇る息を見た。
「・・・・そうだな」
笑った。
そしてもう一度血まみれの手で麗春の手を握った。
「ありがとうな・・・・麗春」
「いいわよ、別に。」
息が昇る。
星が流れる。
月が光る。
いい天気だ。
歩き出す。

傷は消えないけれど、薄れる。そしてまた新しいものを見つけて、護るんだ。

歩く。


――これからも、戦ってね。誰かの、同じ、痛みも、拭えるように。あなたのその痛みも、拭ってくれる人のために。
戦うさ。これからも。ずっと。

息をはく。


――どうか、あなたの痛みを拭ってくれるひとに、あなたが出会えますように。
ああ。由姫。大丈夫だ。

こんなにいい天気の空が、夜を覆うんだから。きっと明日も晴れだろう。
そして二人は歩き出した。


王様にならねぇか7−終わりー



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