―――――失ってもなお、残るのは、傷。


正月が来た。年を越えた。
「サイファ!餅!!!」
声をはる、男が町に一人。
「ハイハイ!!!」
切れかけながらサイファが奔る。このじきこの店は餅を売る。茶店は閉めている。
「餅っ!!!あ!醤はつけろよ!!!」
せかす。
ブチ。
「うっさいわねぇぇぇぇぇ!!!!お客様はあんただけじゃないのよ!!!!」
ドス!!!
餅の入った巨大な袋が空をとび、海座の体を押したおす。 
「それ!城の人と!食べて!ください!!莫迦軍師!!!」
サイファがとげとげしく叫んだ。
「・・・・・・・・ヘイ・・・・・」
道にたたきつけられた。
仮にも、軍師。
そこに。
「海座ぁぁぁぁぁぁぁぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!」
「!?」
「あぁ!?」
甲高い声が近づいてきたかと思うと、海座は、またつぶされた。
仮にも、軍師。


天武天文の国、真文国。7年前先の王が没した後、真文国の王に立った文王。冬樹。
彼の政治は多に類を見ないほど優れている。若干17歳の天才だった。
7年前起きた正地の乱の時に一人の少年を拾い軍師にした。その民、軍師の名前は海座。
彼の軍策もまた恐ろしく優れていた。彼は正地の乱におけるすべての軍事を行い、見事に正地を討った。
当時、若干10歳の、少年だった。
表向きは


「・・・・・〜〜〜ってえなぁ!!!なんだ!おま・・・・・・・・・・・・っ!!!!」
起き上がって驚いた。
「あっ!!!」
サイファも叫ぶ。驚いた。
「おめぇ!!」
まわりにいる民達がざわめく。その目線の、真ん中にいるのが。
「おめぇ!!」
「あなた!!」
「凛!!!」
凛だった。薄い栗毛の女の子。
しっかりと海座を突き飛ばし、押し倒し、その横にちょこんと座っていた。笑顔で。
「て!なんでおめぇ!こんなとこに!!!!」
「会いにきたのよっ。」
凛がにこやかに応えた。真文国の言葉で。
「!」
「久しぶりね。驚いた?」
「な!!!なんで!おま!話せんのか!!?」
海座がかみかみで尋ねた。凛はふふっと笑って見せた。
「上達されたでしょう?」
後ろから、また一人。
「!おめ!」
今度はテイアだった。
「お久しぶりです。」
テイア。といっても、髪を高い位置で結い、襟巻きをぐるぐる巻いて、ぱっと見わからなかったけれど。
「な・・・なんなの?」
サイファが次々現われる女性たちにとまどった。
その間にも、店の客は列を重ねていったのだけれど。


「あら」
麗春が庭で散っていく山茶花を見ていたら、渡り廊下にテイアと凛が海座と歩いているのを見る。
「あっ。麗春さんっ」
テイアが笑顔で麗春に駆け寄った。
「お姫さんじゃない。なに。どうしたの?」
「はいっあの・・・っ」
「ちょっと前、九李が来ただろ」
海座が後ろから言う。
「心配できたんだとよ」
「そうなんですっ」
海座が後ろで頭をかく。来られるほうが心配だ。
「そうなの・・・。で、そっちは?」
凛のほうを見た。
「あっ、あのっ!」
「こいつはその付き添い。」
全部海座が言ってのける。
「・・・そ。」
麗春が小さく笑った。
「そうだ。高羅は?」
海座が尋ねた。麗春は少し黙った。
「・・・・・・・・・・・・・・・・多分。今日は・・・・」
「?」
「多分、今日は、帰ってこないわよ。」
麗春が言い切った。
「?なんかあったのか?」
「・・・・・」
テイアも凛も黙る。
「・・・・・あった、ってわけじゃないわね」
そう言って麗春はまた散っていった山茶花の花を、見つめた。
しばし流れる沈黙の音。


びゅうぅぅぅ・・・・・・・・・
風がうなる。
高羅の金に近い茶色の髪がはためいた。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
大男が突っ立つ。
今は廃墟になっている、小さな村の真ん中に。突っ立つ。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
目を細めて、そこに立つ。
昔の、城下の村はずれに、立つ。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・由姫・・・・・・・・・・・」



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