――――だって私は、ちがうから。

雪が初めて降った日だった。
「さむ・・・っ」
麗春が肩を抱く。
暖炉のあるところにうずくまる。
「乙なモンじゃねぇか。雪とか。」
海座が窓を開けた。
「ちょっと海座!開けんじゃないわよ!!」
ほえる。
「んだよ。いいだろちょっとくらい。」
海座がぶぅたれた。
「海座。」
美木がそろばんをうちながら声をかける。
「寒い。シメロ」
殺気。
「・・・・・ハイ・・・」
怖い!
「・・・・そろそろ行くか。」
海座の独り言。
「何処行くの?」
「どうせまた町でしょ」
麗春と美木。呆れた。
「ちげぇよ!なんだこの失われた信頼は!!!今日新しい間が入ってくんだよ!挨拶!」
ほえた。
麗春と美木は意外そうにへぇと言った。
珍しい。海座がなんの事件もないのに仕事してる。
海座はふんと鼻を鳴らしずかずかと歩き出す。
「・・・・・私も行こ・・・」
麗春が重い腰を持ち上げ海座の後に続いた。
「いらねぇよ」
「他国の密偵とかだったらやばいじゃない」
「・・・・・・」
麗春の厳しい目つき。
海座は黙って歩き続けた。


天武天文の国、真文国。7年前先の王が没した後、真文国の王に立った文王。冬樹。
彼の政治は多に類を見ないほど優れている。若干17歳の天才。
7年前起きた正地の乱の時に一人の少年を拾い軍師にした。その民、軍師の名前は海座。
彼の軍策もまた恐ろしく優れていた。彼は正地の乱におけるすべての軍事を行い、見事に正地を討った。
当時、若干10歳の、少年だった。
表向きは。

実際には、真の王は今、この瞬間、麗春という暗躍者と共に歩く少年『海座』だった。


「アズマ・19歳ですっ」
元気よく挨拶をしたのは、東(アズマ)という少年だった。
麗春は海座の後ろからその少年を見ていた。
「おう。宜しくな。」
海座がにかっと笑った。
そして”間”の説明を一通りした。
東は真剣にその話を聞いていた。
麗春はその東と言う男をじっと見ていた。
どこか、なつかしいような。変な気持ちだった。
「・・・・・・・・・・・・・」
「おし。こんなもんだ。質問はあるか?」
海座が息をつく。
すると東は黙ったまま、麗春の所まで歩いてきた。
「・・・・・・・・?」
じっと顔を眺めてくる。
麗春も、かたまったように、彼の顔を見る。
「・・・・・・・・・なに」
麗春が尋ねた。すると東はにこっと笑った。
「この方は?軍師殿」
振り向く東。
かわいらしい顔つきだ。
海座より年上なのに。
「あ・あぁ・・・・そいつぁ・・・・」
困った。
暗躍者だなんて軽々しく言えない。
「・・・・・・・オレの補佐だ!」
苦しいウソ。
ばれるに決まってる。
「・・・・へぇ・・・」
意外そうに東は麗春をみた。
「なんだ・・・暗躍者の方かと思った。」
にっこりと笑う。
「!!!!」
麗春は小さく驚いた。
「綺麗な方ですね。」
「・・・・・どうも」
麗春が無愛想に返事をした。
海座はとまどってなんとかしどろもどろでこの会を終わらせた。


暗躍者。
王のためだけに、人を殺す。
黒い帯を巻いた、王だけに仕える護衛。
代々一人が、一生をかけて一人の王に仕える。
そして、受けつがれる。
麗春の父もまた、海座の父親に仕え続けた。
正地の乱の時、いなくなってしまったが。


「・・・・びびったな。」
廊下を歩きながら海座が麗春に言った。
「・・・・・・・・ええ」
小さく応える。
「・・・」
沈黙。

誰かに、『暗躍者。』と呼ばれると、思い出す。
自分が『暗躍者』だってことに。
闇の中でしか、生きれない。
殺すことでしか存在価値は得られない。
最強でなければ、捨てられてしまう。

麗春は手を握り締める。
帯にくくりつけた大きな二本太刀が歩くたびチキチキとなる。
「・・・・・・・・・」
海座はなにも言わずに歩く。
麗春もまた。歩く。

思い出しながら。


―――――初めて殺したのは、10歳の時だった。
生まれた瞬間から、私の道は決まってた。
赤い髪。
父と同じの。
赤い髪。
「麗春。」
父の麗清の麗と言う文字をもらった。
そして、父の血も。仕事も。受け継いだ。
「お前は暗躍者になるんだよ。」
頭をなぜられて、何度も言われた。
私は黙っていつもうなずいた。
もの心ついた頃には、もう私はものすごい壮絶な修行をこなしていた。
毎日人を殺す訓練を受けてきた。
自分自身何度も死にかけた。
血を見ない日なんてなかった。
「おいで」
6歳になった時。
手をひかれて城の廊下を歩いた。
あんなに奥まで来たことなかった。
だって私のような下のものは入れないから。
大きな緋色の扉が開いて。
私は手をひかれたまま、美しい部屋に入った。
偉そうな人がいっぱいいた。
その時の王。射王様は笑顔で私の髪をなぜてくれたのを覚えてる。
彼に会ったのは前にも後にもこの時、一回。
「麗春」
呼ばれて行くと、そこにあるのは綺麗な寝台。
「・・・・・」
黙ってのぞきこむ。
「・・・・・・・・・・・・・・赤ちゃん・・・・・・」
いたのは銀の髪をした赤子だった。
冬鬼だ。
私はこの男にも、一度だけ、会ったことがあった。
次に会ったときには、もう海座になっていたから。
「お前はこの方にお仕えするんだよ」
頭の上から父の声がした。
「・・・」
「冬鬼様だ。」
「私の子なんだよ、麗春」
後ろから聞こえてきたのは射王様の声。
「・・・・・・・冬鬼・・・・様」
「そう」
王は微笑んでくれた。
「冬にふる雪のような髪だろう?だから冬鬼というんだ」
「・・・・・・・・・」
黙ったまま冬鬼を見た。
小さい、指。
泣き出しそうな。目。
「・・・・・・・私が、お守りする・・・・・」
男。
「・・・・・・・・・・」
初めて見た。
赤子。
この子を、この男を。私は守るんだ。
そう思って微笑んでみた。
赤子は、小さく、泣き出してしまった。
そして麗春の腰の布をつかんだ。
「・・・・っ!」
ぐんっとひっぱられた。
冬鬼は泣いていた。
「・・・・・」
私も、なぜか泣き出したくなった、時。冬鬼は、泣くのをやめた。
「・・・・・?」
そして、涙だらけの顔をクシャッとして、私に向かって笑った。
その時。
守る事を、しっかり、噛みしめた。

今横にいるこの男を守ることを、決心した。


ちらりと麗春は海座を見た。
「・・・・なんだよ」
海座が聞く。
「・・・・なんでもないわ」
麗春は小さく笑った。
「んだよ。気持ちわりぃなぁ」
海座も笑ってまっすぐ歩いた。



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