――――海の向こうに、何が在るのか

秋が来た。
まだ暑い毎日が続く残暑の城下。
「あっちぃぃぃぃぃぃぃ・・・・・・・・・・・・・・――――」
うだるそうに窓にもたれる一人の軍師。
「シ・ゴ・ト・シ・ロ」
ドス!
赤い髪。背中に蹴り。
「スミマセン・・・・・・・・・・・」
窓に乗り出す。堕ちそうだ。
「・・・・・・・・・・」
空を見上げる。
「綺麗だね。」
気配もなくひょいと後ろから同じく見上げて言う美木。
「うぉ!!?」
驚く。
「仕事しなよ。切られちゃうよ」
そしてさっとまた引っ込む。9歳児。
「・・・・へぇへぇ・・・」
ため息。
空は鮮やか過ぎるくらい綺麗だ。

「あっつ・・・・・・・・・・」
サイファが照る日に手をかざし、空を見る。
「・・・・・・・・・もうすぐ・・・・・文暁八年か・・・・・・・・・・・・・・・」
もうすぐ、文王が即位して八年だった。
あの、秋だ。
 

「あっつぃぃぃぃぃ・・・・・・・・・」


「はっやいなぁ・・・・・・」
サイファが店に戻る。
「サイファちゃんっ」
声がかかる。
「?」
振り向く。そこに青い髪。
「・・・・・・・・・・?ギバ・・・・さんっ!?」
ギバだった。変装してわかりにくかったがあの青い髪で認識。
二人は前の正地の残党の事件の時に人質として知り合った。
「よっほ〜。久々に城下によったから来てみたよさ。やっぱ、わからん?」
「久しぶりね〜。わかんないわよ・・・っ何?仮装?」
サイファは笑顔で近づく。ギバも笑って返す。
「失敬な〜。ちょっとしたお洒落やんさっ。」
笑う。
「そや。傷。もう大丈夫なんか??えらいことなってたさ・・・」
心配そうに聞く。
「もう平気っ。偉多先生っていう人に治してもらったの。すっごい名医なのよっ」
「へぇ〜・・・」
ま。真文国一の名医ですから。
「ギバさんは、あれからどこに?」
「ん〜〜〜、架乍(カサ)の方に行ってた。」
「架乍?」
「東のハテ。海がある町さね」
東は海。
西は陸。
真文国の首都城下は北西にあった。
サイファは海を見たことがない。
「海っ!すっごい!遠くまでいってたのねっ」
「1日丸々在れば馬でつくさぁ。」
「ふ〜ん・・・・・。海の向こうは?」
「・・・・?」
サイファの思いがけない質問にギバはとまった。
「海の向こうって、何が在るの?」
答えられない。
「・・・・・・・う〜ん・・・難しいこときくんやね・・・・」
「ぁっ・・・ごめん」
「いやいや。そうさね。言い伝えでは、海の向こうに小さい島が在るんやさ。」
「島?」
「ん。なんでも、この大陸とは言葉も文化も違うんてさ。倭名国?とかいったかな・・・?」
「倭名国・・・・・。」
サイファは聞きなれないその国に変な感じしか覚えない。
「ま。伝説さ。行って戻って来た奴っておらんしね」
「へ〜・・・・・」
笑いながら話す。仲よさげに話す。
ギバは、ふっとサイファの後ろを見て固まった。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・あ゛。」
「え?」
サイファは固まったギバの眼線の先を追う。
「あ。」
「こっ!!」
いるのは海座。
「これはっ!軍師殿!!!!」
背筋がびしっと伸びる。さっきまでの穏やかなギバの雰囲気は消え去った。汗。
海座のじとぉっとした眼。
―――やっべぇぇぇぇぇ・・・・!!!
「おぅ。サイファ。こいつ誰だ?」
笑顔だけど。眼は変わらない。笑顔も引きつってる。
「あ。ギバさんって言うのよ。ほら、こないだの正地の・・彼も人質だったの。」
「ほぉぉぉぉぉ〜〜〜〜」
あの眼。
―――う゛っ・・・・・!!!
ギバは内心が汗だくだった。
「どぉぉぉ〜も、はじめましてぇ。軍師の海座と申しまぁす。」
「・・・・・・・・・っはッ、はじめまして・・・っ。た、旅人のギバって言います・・・!お姿はかねがね拝見しておりま・・・す!」
―――ぎゃああああぁぁぁぁぁぁぁ
心は叫ぶ。
ギバは間者だ。表通りは変装していなくちゃならない。裏で走り回らなきゃならない。こんなところで女の子と楽しげに笑ってちゃいけない。しかも、サイファと。
「?どうしたのギバさん・・・・。汗だくよ・・・・」
サイファもようやく異変に気付く。
「いっ・・・いやぁ。あっついからなぁ〜この辺はッ!じゃっ!またっね!!!!バイッ!!!」
そそくさと去る。
「・・・・・?また来てね〜っ」
サイファは笑顔で送り出す。風は熱い。
「で、あんたはまた何でき・・・・・・あれ?」
サイファは海座の法を振り向くがいない。
「・・・・・?」




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