――――だってこんなの、ありえねぇ。

「キャァァァァァァァ!!!!!」
誰かが叫ぶ。血が飛ぶ。
「正地だ!!!正地のやつらが来たぞ!!!!」
叫びながら逃げ惑う人々。
小さな村だ。馬がたくさん押し寄せた。
「うわああああぁあぁっぁぁぁぁっぁぁああ!!」
奪う。
「莫迦どもめが!!!!」
高笑い。
奪う。ものも。人も。命も。


雨が続く。
空が曇る。
「っとぉしい・・・」
海座が窓の外を見ながらボつり。
「仕事しなさいよ軍師。」
髪の毛をとかしながら麗春が言う。
「へぇへぇ。わぁったよ。」
そそくさと机に戻る。
「・・・雨って嫌ね。髪がはねるったらありゃしないわ。」
「いつもと変わんねぇじゃねぇか。」
バシコーン。
「女心が解らなくていつか啼くわよ、あんた。」
「スミマセンデシタ・・・・・・・・・」
強い。
「高羅は?」
美木がそろばんを打ちながら尋ねた。
「あぁ。ちょっと、出てもらってる。」
「・・・戦?」
「・・・正地だ。」
そろばんを打つ。
「・・・そう。」

天武天文の国、真文国。
正地の乱の際。先の王が没した後、今の王、冬樹が文王として立った。彼は類まれなる才を発揮し、この国を治めている。国事の、天才。
正地の乱とは。もと隣国の正地が突如真文国の城都と城を襲い。真文国を壊滅近くまでいたらしめた乱だった。
その時多くの犠牲者がでた。王を初めとし、上役や、兵。そして民が死んでいった。
文王は機密で逃がされたが、一人の少年を連れ戦地に帰ってくる。
彼が、海座。この国の現在の軍師である。
当時若干10のこの少年は、苦しい状況の中、真文国の兵を操り、見事正地を破った。天才だった。
表向きは。

「正地の残党は、まだたくさんいるんですね。」
文王。
「敬語やめろ。」
軍師。
「・・・・はぃ。」


実際は。海座こそが真の王冬鬼で、文王冬樹が拾われた民の少年、海座だった。二人は、入れ替わったのである。
 

「正地のやつらはまだまだ騒いでるぜ。所詮頭を失った小物だが、民が襲われてる。タチ悪いぜ。ったく。」
「・・・・そう・・・なんだ・・・。」
「で、でけぇ組織になる前に潰さなきゃなんねぇんだが。今間者の調べであいつらのでけぇシマをつきとめた。」
「・・・潰すんですか。」
「・・・・・・・・・・・・・・。そうだな。」
海座は椅子に腰掛けながら言った。
「雨がやめばな・・・。」

雨が降る。


高羅の馬が門をくぐる。
「あ。高羅。」
美木が窓を覗いて言った。
「ホントだ。」
麗春。
「海座―っ。高羅が帰ってきたよ」
美木が奥の自室にこもる海座を呼んだ。
「・・・おぅ。」
高羅が階段を駆け上がりびしょびしょのまま部屋に飛び込んだ。
「軍師!!」
「うゎ・・っ。」
麗春が降りかかる水しぶきに嫌な顔。
「わりぃっ。海座!今出れるか!?」
「なんだよ。」
「南瀧まで来れるか!?」
南瀧は最近発見した正地の残党のシマだった。
「・・・なんかあったか?」
「いや。大きな動きはねぇ。が、ちっと胸騒ぎというか・・・。戦の前のそれが・・・」
海座は外を見る。雨だ。
「・・・・わかった。今出る。ちょっと待ってろ。」
そう言って部屋に戻り、片手に雨よけの上着を抱えすぐ出てきた。
海座の胸も小さくがざわついた。




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